厄介お面
南の蓮池で
ガマガエルのガマさんが
ノシノシと、歩いていた
「やあ、ガマさん。元気かい」
アマガエルの与三郎が
元気よく声をかけた
「ああ、与三郎か
久しぶりだな」
ガマさんが振り向くと
顔に、なにやら奇妙なお面が
張り付いていた
「ガマさんっ。そのお面は
いったいどうしたいんだい?」
「ああ、これはだな
なんと申せば。
最近の、、、”とれんど”というやつだ」
「ほぉ。とれんど」
ガマさんは、お面のデコを
指でつつきながら
答えてくれた
「おっと。ちなみに
これだけじゃなくて
もっとたくさん、お面はあるんだぞ?」
「ほぉ。なにゆえ
そんなにも持ってるのだい?
コレクターにもでもなったのかい!」
ちがうっちがうっ、と
ガマさんは、ぶんっぶんっと
左に180度
右に180度、首を振った
「会う人によって
お面を変えているんだ」
「ほぉ、、、」
与三郎の眉間に
シワがぐいっと寄り始めた
「ガマさん
それは何か意図でもあるのかい」
ガマさんは、しばらく黙り込んでから
口をひらいた
「家族には、このお面
友達には、このお面
隣の家の人には、このお面ー」
「ほぉ?」
「そういう気分の時は
ないか?与三郎」
与三郎も、しばらく黙り込んでから
口をひらいた
「そうだねぇ。ありそうで
ないやっ」
「そうか、」
ガマさんは続けた
「この、”とれんど”は厄介だぞ」
「ますます、わかんないよ
ガマさんっ。なにが厄介なのさ」
「己というものが
分からなくなるのだ」
ほぇっ、と
与三郎は気の抜けた
訳の分からない声を喉からだした
「つまるところ
そういうことだ」
「わかんないよ、ガマさんっ」
与三郎は、参ったと言わんばかりに倒れ
空にお腹を向けた
「そのうちわかるさ」
「尻尾がなくなれば
わかるようになるかな?」
与三郎は、ぴょこっと
短く飛びてた尻尾を
ひくひくとさせた
「そうだな。その頃には
わかるようになるだろう」
ガマさんも、参ったと言わんばかりに倒れ
空にお腹を向けた
蓮池では、ガマさんと与三郎の
ケロケロという声が日が暮れるまで
響いてたそうな
脳内倉庫 りょうま @ryoma3939
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