雑文・雑記

文月

手記 その壱

僕は目の前のホラー小説を読むふりをして、眼下の男を見つめていた。


一見普通の中年に見えるが、落ち着きがなく口元には品のない笑いをたたえている。


目が右往左往していることから、彼には軽度の知的障害があるのではないかと思った。

そういった人間を受け入れる制度がある大学が存在すると聞いたことがある。




動く置物。

彼の後ろには時代遅れのブラウン管が何回も同じ画像を映していた。スクリーンセーバーだろう。

軽度の知的障害と壊れるまで同じ動きをするブラウン管は、今日食べたマックのセットよりは意味があるような気がした。

苦悩を知らぬ彼とどうでもいいことで苦悶する僕達、どっちの方が幸せなのだろう。

そんな思考も戯れ言だと思った。


小説には度々聖書や有名な小説・映画からの引用が見受けられるが、逆に言うとそれが無ければ小説は文化として成り立たないのだろうか。



数多の作品において殺人が重要なポジションを得ている場合が多いのは、それが人間社会にいて最もしてはいけない禁忌であり、かつ最も近しいものだからではないだろうか。

《業務連絡

この現代において音楽は「聴いているもの」が存在しなければ文化として成立しない立派な商業になってしまった。それは音楽そのものの根本的な在り方とと相反していないだろうか。耳障りなポップソングばかりが氾濫しているのが現状である。


あなたの後ろにいる人は誰?

書きたいから小説を書くのか、読んで欲しいから物語を紡ぐのか。ここに公開している以上少なくとも僕は後者だ。


なんだかもう嫌になって、LINEもTwitterも消したくなってしまった。そもそも、人類にとってインターネットなんてものは身に余る代物ではないだろうか。ミサイルかなにかで全部壊れてしまわないかな。


誰かに言われなくてもわかってるよ。


人によく「将来は犯罪者」と言われる。

その化粧似合ってないよ。

ナイフと少女。


画面の向こうが善人とは限らない。

あなたも善人とは限らない。



目の前のバラバラになった肉塊を見て僕はひどい倦怠感を覚えた。

コンビニエンスストアの店員は伊勢丹の従業員ではないということをこの女は身を以て体験できたのではないだろうか。

その日は特にイライラしていた。昔の嫌な思い出がこれでもかとリフレインされ、しかも常用薬を切らしてしまっていたのだ。



お題:宝石 ワイン 栞

あなたが私に残したもの 本とワインとコンドーム

二人で作った手作りの栞 私だけじゃ持ちきれないわ

あなたのプレゼントはいつだって 私の知らない難しい本

宝石じゃなくていいから アクセサリーも欲しかったのに…… 


帰らぬ人を待つばかりの サボテンを枯らさないように

誰かを惜しむように鳴く ハムスターに餌をやり

私は今日も家を出るけど あなたはきっと帰ってこない……






キスしかできない僕らのために 月よ今日だけ抱きしめて

遠すぎる未来の果てを まだ見たくないだけなの

瞳の中の湖で あなたと二人泳いでゆく

どこまでも行ける魚のように バタフライで岸辺を目指す

キラキラひかる水面の上に あどけない夢を描いただけ



顔は変わらないけど体は変えられるでしょ。ゲラゲラ


薄い肌と熱い砂。白いシンクに落ちたワインの雫。ナイフにこびりついた誰かの血。捨てられたコンドームと脱ぎ捨てられた白い靴下。ルーズソックスとタバコ。援助交際と友達。僕と君。


体温のない月の光に 起こされ僕は部屋を出る

誰もいない部屋の中に 息を潜めて君を待つ

ベランダから見える街灯と 息をしない街の喧騒

外気に触れた冷たい手で 君の体に触りたい


愛して欲しくて傷つけて 愛して欲しいの傷つけて?


途切れない心で 千切れない愛のままで


白い体温計と誰もいない部屋。誰かの下着と野良猫。


殺人肯定主義のあいつは昨日バラバラにされて殺された


僕の心に沈んだナイフは今も行方不明のまま。


昨日あいつがきて僕を笑った。

笑った。笑った。笑った。


小説を書くコツはコツはコツはコツはコツは書いていないことを意識することだよ。


設定酩酊劇的回心 内心慢心散々背神


燦々と降り注ぐ 黎明に抱かれて眠りたい

去り行くあなたに何か一つ 残せるものがあるとするなら


悪夢と現実の違いなんて現在には存在しない。

これは僕の偏見だが、この大学の処女率は10%以下だと思う。

君が好きなアイドル声優は昨日ホストとラブホテルに行ってたよ。


生きていく意味のようなものが少しずつ削られていくような冬の日だった。

彼は私に何かを告げたような気がしたけど、それを確かめる前に居なくなってしまった。

湯気の残るコーヒーだけが彼のいた証なのだと思うと、せっかく買ったケーキの味も少しだけ落ちる気がした。




春爛漫の桜の樹の下で、私たちは初めての口づけを交わした。

それはきっと10年後には消えてしまうような儚いものだったけど、しかし残るものが多すぎる現在においてそれは永遠と定義づけて良いものだと思った。

彼女の唇からは檸檬の香りがした。まつげ同士が重なり、それは唇同士の接触よりもなおキスとしての実感に満ちていた。

ほんの少しだけ私たちは一つになり、元の二つに戻った後も言葉を交わさなかった。

さらさらと落ちる桜の花びらだけが私たちのバックグラウンドミュージックだった。


彼女はきっと私にとって不要なものではなかったのかと今にして思う。



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