第12話 存在証明

 「ムバクを討伐って、この街を出たら大量の化け物がうじゃうじゃいるんだよ。そんなとこに行く人なんて誰もいないよ」

 フィリィは呆れた顔で言ってくる。


 「だろうね、でも、俺は行くよ。この街にいてもやれることは少ない。人を助け続けても、いつか限界がやってくる。俺がやりたいと思ったことを、やるんだ。後悔はしない」


 「龍治君、君の言っていることはどれだけ無謀なことか分かっているのか。大体、軍がこの都市から出ようとする人間を無視するはずがない。ムバクだってそんな簡単に倒せる化け物じゃないぞ」

 サイガは軍の人間だ。龍治がどれだけ無謀なことを言っているのか一番よくわかっている。それゆえに強く反対してくる。サイガにとって龍治は命の恩人、そんな人を死なせる訳にはいかないのだ。


 「俺の命だ。俺が好きなように使っても誰も文句は言わないだろう?誰になんて言われようとと俺はここを出る。それにまだ生きている街があるかもしれないし」


 「分かったわ。でもそれって、起業する必要ないんじゃないの?」

 (まったく無茶苦茶だね、君)

 フィリィがまた表情を変えて確信をついてくる。


 「起業するのは、俺の存在証明だ。しっかりとした国家だ。起業しておけば書類上には記録が残るよな。俺はこの街から出るけど、こんな人間も居たと証明できる。それにこの街に帰ってくることができたら、大きな利益になるだろう?」


 「龍治さんの言っていることは、おおよそ間違っていません。確かに、書類上は記録が残ります」

 ヴァハラは仮にも役所の人間だ。その方のことには詳しい。


 「やっと話を戻すと。報酬は、俺のお手伝いをしてほしい。具体的には、ヴァハラさんには起業手続きを、サイガさんには俺を街の外に出す段取りを付けてほしい。そして、お金は少しでいい。武器と食料が買えるぐらい。こんなところでどうでしょうか?」


 「分かりました。龍治さんがそう言うなら」


 「納得はできないが、君一人外に出すことは可能だ」


 「ありがとう二人とも」

 龍治は頭を下げて感謝した。サイガはどうも納得していない様子だったが、そこは見て見ぬふりをしよう。


 四人ははレストランでの食事と長話を終えて、一週間後にまた会う約束をして別れた。一週間後のその日が、龍治にとっての旅立ちの日でもある。レストランからの帰り道、フィリィがおもむろに話しかけてきた。


 「龍治君本当に、この街を出る気なの?死に行くようなものだよ」


 「何回も言うけど、この街にいてもやりたいことがない。それにいずれ俺のスピリティは街中に広まってしまう。今回の件、軍人であるサイガはさんを助けたことで、おそらく軍は俺に目を付けていてもおかしくないだろう」


 「確かにそうだけど、軍医になって働けばいいじゃない。それじゃだめなの?」


 「それだと、軍にこき使われておしまいさ。別世界に来ても社畜になるんじゃ楽しくないだろう。この世界は居心地がいいんだ。みんな自由でやさしい。ほとんどが平等。魔法のようなものすら使える。こんな素晴らしい世界なんだよ。俺はこの世界を救いたいと思っている」



―――――――俺はこの世界に来てよかったっと感じているよ。



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次の世界で俺は成功する? 桜咲 幹 @sea_faio

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