第11話 未来を見ようとして


 「今度俺、起業しようと思ってるんだ」

 龍治のこの言葉にその場にいた全員が驚きの表情をみせた。


 「起業って会社を作るってこと?」


 「そうだよ。まだ構想段階だけどね、でも普通の会社じゃない。その目的は、正確に言えば、人類が、いや、この世界にいる人々を安全に暮らせるようにすることだ」


 「いくら何でもそんなこと無謀よ!」

 フィリィが少し食い気味で割り込んできた。


 「そうですよ。それができないから、皆さんこの街で暮らしているのですよ」


 「私も同じ意見だ。ムバクの討伐は確かに必要だが、この街にいれば安全だ。それに君の能力があれば多くの人を幸せにできるのではないか?」

 

 ヴァハラも、その父親のサイガさんもここにいるすべての人間が満場一致で反対。誰だって反対するだろう。しかし、龍治は冷静に自分の意見を言う。


 「みんな落ち着いて聞いてほしい。確かにこの街は何にも侵害されないセーフエリアだ。軍が守ってくれている。食料も豊富。土地も豊。堅実に構成された政治文化もある。でも、これらには限界がやってくる。広大な土地があるけど、このまま人口が増え続ければ、土地は減少。そこから増えることはない。職に就けず、食料すら手に入らない人も現れるだろう。そうなったとき人々はどんな行動に出るか分からない。あえて言う。自分たちは人間だ。この先に限界が待ち受けていることは目に見えている。ある程度は予測できているはずだ。」


 龍治の話に、三人は耳を傾けた。不思議と龍治の話を聞いてくれている。理由は分からない。でも、ヴァハラとサイガさん、フィリィの三人の目は間違いなく俺の目を見ていた。


 「これは憶測にすぎない。さすがに俺でも考え付くことだし、この国のトップだって考えているはず」


 「龍治君って意外と頭がいいのね」

 

 「博識なのですね」


 「実に興味深い話だ」


(ってあれ?嘘?なんでみんな驚いた表情をしているの。俺の思考回路はいたって正常のはず、いやこのくらいのこと予想できるはず、なのになんでみんな驚いた表情を見せているんですか...)


 龍治はここにきてやっと気が付いた。この世界の人々の思考は、その未来に起こりうる最悪の事態や、想定外の出来事まで考えようとしていないのだ。多くの人間をムバクから保護していることも、単にやさしい国家という訳ではないのだ。後先考えていないから、誰でも助けているのだ。しかし、間違ったことをしている訳ではない。でも、このままそれを続けていては必ず限界がやってくる。


(そうゆうことか、どうりで何かおかしいと思っていた。技術は発達しているが思考回路が追い付いていないのか、しかし、フィリィは例外ではないのか?まさか、天然なのか?)


 「さっきも言ったが、あくまでも俺個人の予測と意見だ。別に信じなくていい。でも俺はこの街を出るつもりでいる。起業するといったが、俺がやることは慈善事業にすぎない」



 龍治の頭の中はどのように構成されているのか、その場にいた三人は予測すらできていない。この世界の人々が想定できる領域を、否、龍治の思考、思想はその先にたどり着いていたのだ。





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