2章 この世界のために

第10話 そうだ起業しよう

 この世界に転移してきて、どれくらいが経っただろうか。龍治は初仕事を終えて自分を見つめなおしていた。


 「これからどうしたらいいのか、問題が山積みだな。でも前の世界にいた頃よりも、自分について考えることができている気がする。充実してると言っていいな」



******



 「龍治君退院おめでとう!とりあえず、元気になったみたいでよかったよ」

退院当日、フィリィが迎えに来てくれた。相変わらずの様子で、どうしてかいつも俺のことを気にかけてくれる。本当にありがたい限りだ。


 「龍治さん、退院おめでとうございます」

 フィリィと一緒にヴァハラさんも来てくれていた。


 「二人ともありがとう」


 「初めまして龍治君。私はヴァハラの父親のサイガ准尉です。この度は、この命を救っていただきありがとうございます。またこうして娘と会話できるのも君のおかげだ。本当に感謝している」

 ヴァハラと一緒に、ヴァハラの父親まで来てくれていた。軍服を着ていて、物腰も厳格な感じがする。軍人の中の軍人って感じだな。


 「こちらこそ、はじめまして。今回は人として当然のことをしただけです。元気になったみたいでよかったです」


 「龍治くん、立ち話もなんだから近くのお店にでもいこうよ!おいしいものでも食べよう」


 「そうだね、みんなでご飯食べに行こうか、ヴァハラさんたちもおいでよ」


 「報酬の話もあるし、せっかくだからご一緒しましょうお父さん」


 「そうだね」


 こうして、四人は病院を後にして、フィリィ行きつけのレストランに足を進めた。


******

 レストランに着くと。四人はそれぞれ注文を済ませ、世間話やそれぞれの経緯を説明しながら、ヴァハラの父親であるサイガさんと話をしていた。


 「龍治君、君のことはヴァハラから聞いたよ。娘が無礼を本当に申し訳ない」


 「無礼だなんて、いえいえそんなことありませんよ。お父さんを助けたいと自ら努力してやっと見つけたのが俺だっただけで、それは娘さん、ヴァハラさんの成果だと思います」


 「いえ、本当であれば、私の職務上他人のスピリティを把握することは重罪なのです。ですから、こんな私の依頼を請け負ってくれた龍治さんには本当に感謝してもしきれないぐらいの恩があります」

 サイガさんとヴァハラさんは深々と頭を下げながら今回の件についての謝罪と感謝の意を伝えてきた。


 「まあ、龍治君のお手柄ってことで、本題に移りましょう。報酬の話がしたいんでしょう?」


 「はい。龍治さん今回の報酬金はいくらぐらいをご所望でしょうか」


 フィリィがヴァハラに話を振って、報酬の話が始まった。絶対に再起不可能と思われていた人一人の命を救ったのだ。それに見合った報酬を要望するのが当然だろう。しかし、龍治はまったく別のことを考えていた。


 「その話なんだけど、今度俺、起業しようと思ってるんだ」


 「起業?」

 「起業ですか?」


フィリィとヴァハラは二人そろって驚き、目を丸くした。

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