朝が来ない!?

第2話 暗闇の朝。

 日本時間は6時を迎えた。

 季節は、6月。とうに、太陽が昇ってもいい時間帯である。

 トウマの部屋の、目覚ましが鳴った。

 莫大な音が鳴る、ライデンという高級な目覚まし時計だった。

 それを、部屋の外に置いておいて、時計が鳴ると、トウマは扉を開けて、スイッチをオフにするのが日課だった。

 そうしなければ、近所に迷惑をかけてしまうほどの大音量なのだから。

 しかし、トウマには違和感があった。「外が、まだ、暗い」

 それで、つけていたテレビを見ると、「アメリカ地質学研究所が•••」と、地球の異変が起きていて、どうも朝が来ないような報道を伝えていた。

「朝が、来ない•••!?」

 トウマは想った。

「ということは、今は、夜だ•••。ということは、寝ていてもいいということじゃないのか?」

 ということで、トウマは再びベッドに入り、眠りについた。


 日本は大変な事になっていた。

 各企業では、報•連•相の電話がひっきりなしに鳴り続けている。

「お、おはようございます。いや、お疲れ様です•••!?でしょうか?今日、暗いのですが、出勤はどのようにすれば良いのでしょうか?」

「バカヤロー!暗かろうが、明るかろうが、9時は9時だ!出社時間は守れ!」

 という企業もあれば、

「とりあえず、危険だから、様子見だ。電車も動いていないかもしれない。とりあえず自宅待機していろ」

 という企業もある。

 トウマは、知った事ではなかった。

 朝は、朝である。夜は、夜である。暗いのだから、今は、夜だ。9時だろうが、10時だろうが、夜が開けていない以上、夜は夜ではないか。朝ではないのだ。寝ていて、何のいわれがあろうか?冗談ではない。知った事ではない。どうせ、「あ、まだ暗かったので、夜だと想っていました」と言えばそれでいいのだ。と、トウマはグレッシャーの嗅ぎタバコを吸って、三度、ベッドに入った。それでいいのだ。何も間違いではないのだ。正しいのは、地球であり、自然であり、自分なのだから。

 そもそも、こんな世界的異変が生じているのに、まともに起きて、ご飯を食べて、いつもの時間のいつもの電車に当たり前のように乗り、いつもの時間に出社して、いつものように何事もなく、5分前出勤をして、始業時間にはパソコンを立ち上げて、仕事を始めるスタンバイをするような奴が、どだい、キチガイに違いないのである。それで、「何やってるんだ、仕事の時間だぞ」などと、電話で文句を言ってくるやからの方が、頭がおかしいに決まっている。

 だから、「トウマ、何やってる!9時だぞ!」という電話が来ても、トウマは当たり前のように、「え?だって、まだ、暗いですよ?」と答えた。

「何言ってるんだ、暗くたって、9時は9時だ。始業時間だ!何寝坊なんかしてるんだ!出てこい!」

「え?え?でも、まだ4時くらいじゃないんですか?」

「バカヤロー!時計見ろ!9時だ!遅刻だ!どう責任取るつもりだお前!休むのか!有給使うのか!どうするんだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください。だって、まだ暗いですよ?」

「バカヤロー!地球の自転が狂ってるんだよ!ニュースでそう言ってるんだ」

「ちょっと待ってくださいよ。地球の自転が狂ってるのに、通勤して仕事•••してる場合なんですか?」

「当たり前だ!俺たちにとっては朝の•••いや、夜だが、この時間の5分は命より貴重なんだぞ!わかったらさっさと出てこい!」

「で、電車、動いてるんですか?」

「それはわからないが•••、先輩の俺が来てるんだから、お前もさっさと出てこい!わかったな!」

 「頭、おかしいんじゃねえの•••」トウマは切れた電話の後で、つぶやいた。

 地球が狂ってるのに、当たり前のように仕事に出てこいという上司にである。

 おそらく、あの上司は、地球の自転が止まるような事態より、いつも通り、ふだん通り、日常どおり、パソコンに向かって、データ入力をいつも通り行っていくことが大事なのだろうし、それに比べれば、地球の自転が止まろうが、公転が狂おうが、どだい、大した問題ではないのだろう。まったく、狂った話である。JRはどうなっているのか?トウマには調べる気力もなかった。

 トウマはつけていたテレビをつけた。NHKの、バーコード頭の官房長官が、ちょうど記者会見を行うところだった。時計を見ると、9時10分をまわるところだった。

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朝が来ない日。 赤キトーカ @akaitohma

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