2話 違和感の地下遺跡

 ガラノ村までは自前の側車付自動二輪”久遠”で移動する。この世界にある自動二輪のほとんどは旧時代の遺跡から発掘されたものであり、その技術は燃料が石油や電気を使うということ以外、いまだに解明されていないものが多い。


 ジオルガが使用しているものは東洋に遠出したときに発掘したものである。移動に使い勝手がいいから愛用している。


 徒歩であれば1日はかかる距離ではあるが、自動二輪に乗ったことで半日くらいで到着した。案内役はオッズが手配したのなら間違いなく明日の日没ぴったりに訪れる。


 ガラノ村にある宿に泊まり、装備の調整を行う。案内役が日没後に来るのは、下手に日が昇っている時間帯に付けられて教会に密告でもされてしまったら、意味がないからである。


 今回の遺跡はまだ見つかっていないことを考えると、地下遺跡である可能性が高い。ならいつ入っても変わらないのでそのまま遺跡の探検に入ることになるだろう。


 装備調整を念入りに行い、ミスがないようにしていく。探検に赴くのは命をかけることと同義である。「探検家は、死に最も近い職業である」これは自分でも口を酸っぱくして言ってきたことである。もう30年前と同じことを繰り返してはならない。


 翌日の日没後、待ち合わせの墓地に向かう。辺りを見渡しても、一見誰もいないようにしか見えない墓地だが、墓地のはずれにある木の陰から微かに気配だけはしている。上手く気配を消しているが、まだ若い。そちらに向かって声をかける。


「オッズのとこの案内人か」

「……こっちだ」


 案内人は余計な無駄話はするつもりがないのか、若干の驚きの気配だけを残して現れた。


「ここだ」

「やっぱり地下か」

「……」


 入口は地面の下に巧妙に隠されており、案内人が無造作に付近の木を蹴るとそれが合図になって地面が小さく割れた。一度近くで確認してもわからないほどである。


 予想通り地下にあったのを確認できると、案内人はすぐにどこかに消えてしまった。


 ここで長居すれば、いくら森の中とはいえ人に見つかる可能性も出てくる。早速地下の入口を開き、階段を下って行った。


 建物の中は電気が通っているのか、入ったとたんに明るくなった。1000年前に建てられたものだとは思えないほどのきれいさである。しかし、実はそう珍しいことでもない。


 地下は基本的にきれいな状態で残っている場所が多く、逆に地上の遺跡は場所によっては半壊しているところもあるぐらいだ。そういうところには決まって機械兵以外に、モンスターも出現する。


 中に入り、さっそく能力を発動させる。


「とりあえず、周囲に反応はなしか」


罠外しアペルト


 これは探索において最も重要と言ってもいい能力の一つだ。


 この能力の系統としての主な術として罠がある場所を視認できるようになったり、それを取り外すことが出来るようになる。


 廊下をまっすぐ進み、時折ある扉に注意を向けつつ一つずつ確実にクリアしていく。扉の中は真っ白な空間で、机や棚、何に使われていたかわからない人が一人分は入れる水槽が並んでいたりするのみで、蛻けの殻だった。


「オッズのやつ、一般的な地下遺跡変とわらねぇじゃねぇか」


 地下遺跡の規模はそこそこな大きさだと推察されるが、それ以外特に変わったところはない。


これは地下遺跡ではあるあるなのだが、中は機械兵がいるだけで後は何も残っていないケースの方が多い。このままだと情報量2000ケールは赤字になる可能性すらある。


 本来なら発掘品を運ぶ役割の人間がいるのだが、ジオルガはソロで活動をしているために持って帰れる量もそこまで多くはない。一応圧縮空間バックを持っているから、そこそこの量を持って帰ることはできるが、この地下では機械兵の核ぐらいしか持って帰れるものがないかもしれない。。


 機械兵の核であってもある程度の量があれば2000ケールは軽く超えられる金額にはいくのだが、そこまで機械兵と戦わないといけないということで、リスクも大きくなる。


 そう思いながらも、そのまま1階は難なく走破した。


 2階に続く階段を見つけ、そのまま下っていく。


 探索の基本として、1階のフロアは基本的に危険は少ない。だが階数が上がればそれだけ危険が増える。


 おそらく今回の地下遺跡は地下10階は下らない。


「そろそろ準備しとくか」


 地下二階中盤にやってきたところで、ジオルガはバックパックに取り付けていた自分の武器を取り出した。


銃斧アッシア


 これを使っている人間はあまりいないが、いわゆるショットガンの銃口部分に斧を取り付けた形をとっている。


 これを取り出したのは、もう罠がいくつか発見できたからだ。機械兵の多くは罠の近くにいたり、罠に誘い込むような場所にいたりするのだ。


 慎重に目の前を進んでくと、やはり目の前に機械兵が3体現れた。奥にフードを被った人型機械兵が1体。前には高周波剣を携えた機械兵が2体。


「珍しいな、上位人型機械兵エピスタシスがこんな上層にいるなんて」


 低層に出現するのは犬型機械兵ケイン蜘蛛型機械兵アラグノが多いのだが、中層以下に出現する機械兵がここにいることに違和感を覚えたジオルガは、前方の敵をすぐに沈黙させるべく行動する。


 向かってくる敵の懐にすぐさま入り込み、勢いよく斬りつけ真っ二つにする。そのままもう一体に飛びつき、奥のフードの機械兵の銃撃を凌ぐ。すぐさま銃口を向け一発打ち込み、頭部を破壊。自分の下敷きになっている機械兵に思いっきり斧を振り下ろし沈黙させた。


高周波剣ブレードを使ってくるような相手が上層から出てきたんじゃ、燃料も持たないな」


 高周波剣への基本的な対策は、自分も同じ種類の武器を使うしかない。高周波剣は鋼鉄をも簡単に切り裂くことが出来てしまうほどに凶悪な切れ味を持っている。だから中層以下に進みたい探検家たちは必ず自身も高周波系統の武器を持っていく。


 しかし燃料消費が激しいため、そこまで長時間使用することが出来ない。遺跡でまずは補給ポイントを探さなくては致命的だ。


 その補給ポイントがなかったときの保険として、機械兵が所持していたいくつかの武器を拾っておく。


 ジオルガの持っている武器も高周波を発動できるが、燃料の無駄と判断し使わずに制圧した。


 とりあえず2本の高周波剣をバックパックにしまい、3体の機械兵から核を回収しておく。


 それからいくらか戦闘を繰り返し、安全の確認が取れた小部屋へと移動し休憩がてら作戦を練る。


 ここはまだ2階層なのにやけに上位機械兵がうろついていたことを考えると、一度誰かが入り罠を発動させてしまっているか、ここは今までの俺が知っている遺跡の常識に当てはまらないかのどっちかだ。


(可能性が高いのは前者だが、なんだ?この嫌な感じは……)



 その違和感が確信へと変わったのは、5階層まで来た時だった。


「くそっ」


 罠という罠があちらこちらに張り巡らされ、おまけに低層のさらに奥、遺跡の主とまで呼ばれる竜機械兵ドラグニーまでもが現れ始めたのだ。


(遺跡の主レベルが何だってこんなにわんさか湧いてるんだ!?)


 ジオルガの予想ではここはまだ中層レベルのはずだ。しかしここまで主レベルが現れるとなると話は変わってくる。ここが最下層ということだ。


 しかし腑に落ちない点がいくつかあった。


 ここまでのレベルの敵が現れるのは少なくとも10階、いや20階は到達していないとおかしい。


 そう考えながらも敵はすごい勢いで襲ってくる。倒した敵から武器を奪っては投擲し、それでも近づかれたら自分の武器で黙らせる。だが一人だということもあってあっという間に限界が訪れる。


「くっ 一度上の階まで戻るか」


 何とか上の階の安全な場所まで戻り、武器の消耗を確かめつつ対策を練り始める。


 しかしあそこまで物量にものいわせてくると、こちらも対処できない。半ばあきらめて、核をできるだけ回収して帰った方がいいと思っていた時、ふとこの空間には似つかわしくないものを見つけた。


 机や棚があるだけで何も残されていないはずの場所に、一冊の本が落ちていた。おもむろに手に取って中を読んでみる。


「これは……」


 それはいつのものかわからないほどかなり古びた手記だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ステラ・ラガッザ 音近 @akanecon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ