番外編
番外編 ヘアムの一日
※はじめに――
これから語られるお話の中に少しメタ発言やネタバレがございますので、ある程度本編をお読みの上、読んで頂くことをおすすめします。それではお楽しみ下さい。
…………………………
【
そんなふざけたゲームを仕掛けた全ての元凶-《
一体、どれほど多忙な一日だと言うのか、今回はそれを一緒に見ていくとしよう。
「……今日もまた、どれだけの生物が死に逝くのであろうか」
右も左も一切の濁り無き真っ白な空間。
天井と言えるものも、段差と言えるものも何一つとして存在せず、その白さは距離感の掴めないほどである。
声の主-《ヘアム》がいるこの場所は人間界の言葉で言うならば【天国】、神様の住まう場所にして、そのまた生物が死後に訪れる場所である。
ヘアムはそこに存在する数ある神様の内、目の神様として君臨している。
その力は眼球を新たな命の依代とし、目を持つ生物に今一度蘇生をさせる程のものを有している。
だがしかし、そう簡単に生物が蘇生出来る筈も無く、蘇生を成功させるには依代となる眼球の強大なエネルギーを受け止められるだけの強い精神力に満ち溢れた者でなければならない。
全ては移植される者の素質次第である。
そもそも、死んだ生物は皆天国に送られていくのかと言うと実はそうでは無い。
よく死んだ者の魂が天に昇るなんてのを聞いたことがあるだろうが、それは迷信であり、実は死んで魂となった存在をここ天国にてお迎えされるのは神の許可あって初めて天国へと訪れることが出来るのである。
天国なんて言うが、実際には天にそのような場所は存在しない。
昔からそんなものは人間が創り出した空想空間に過ぎない。
この地球上には存在しない異空間、言うなれば異世界と言っていいだろう。
そんな場所へと魂が一人で行ける訳が無く、地球に暮らす生物たちは一日にして何人、何匹にしてその命を堕としていき、それらの魂を発見次第、天国へと招き入れているのが神としての存在する意義、役割とでもいうものの一つでもある。
目神ヘアムはその中の迷える魂の発見をその天地全てを見通すことの出来るという目を使い、捜索をするという役割を全面的に任されている。
だが彼女一人の目だけで見つけていって、他の神様にその者その者の魂の行く末を任せていったとしても、やはり一柱の目を全部頼りに全ての魂を天国へと迎え入れてやるのは無茶な話で、他に適任役がいない以上どうしたって魂の一つや二つ、取り逃がしてしまうこともある訳で、そういったものの魂は自然消滅。
つまりは生き返れるかもしれないという権利も与えられぬまま、永遠の死-【地獄】へと
出来る限りそれは回避させようと、神様は今日もいつものように透き通るような綺麗なエメラルドグリーンの瞳で世界の様子を覗くべくカッと大きく目を開くと、そう経たない内にヘアムの反応が変わった。
「―――ッ!!」
どうやら早々に彼女は何かを発見したのか、ヘアムは口を開く。
『早速一人、死んだ者が現れましたか。それではこれより目神ヘアム
ここ天国に集う神様達に伝達をするかのように、妙にエコー掛かったような声でそう言うと、ヘアムは何やら開始した。
エメラルドグリーンの瞳が一段と輝くと、目の前に円形状の光が現れ、一つの存在が何処からともなく姿を見せた。
それは身体が透けた霊体のような存在、それこそが先の言っていた一つの魂であった。
人間体の形をしたそれ-【
「こ、ここは…………」
見覚えの無い場所へと飛ばされ、状況が追い付いていない様子の人魂を見るなり、ヘアムは口を開き出す。
「お目覚めですか?」
何ともチャラチャラした見た目の女性の姿をしたその人魂は応える。
「わっ!あ、貴女は……………」
「失礼。私の名はヘアム。現在、貴女がいるこの場所は、分かりやすく言うなれば地球とは別の世界。死後の世界-魂の集う異界の国【天国】。私はその天国を管理する神の一人にございます」
「は?えっ?……神?……天国?………ってことは、私死んだの?」
「左様。信じられませんでしたら、是非とも自身の身体にお手を触れてみられてはいかがかと」
「触れる?それが
「それは今の貴女が魂だけの状態、実体を持たぬ“人魂”の存在であるからでございます」
「人……魂………?……何だよ、何だよ。………本当に死んじまったってのかよ」
自分の死を理解し、そのショックが大きかったのか、勢いよく膝から崩れ落ちてガックリとうなだれる女性の人魂。
「そう悲しむことはありません。貴女が望むなら、今一度生き返るチャンスをお与え致しましょう」
「ほ、本当か………その話、本当なんだろうな!」
それを聞いた女性の人魂は瞬間、うなだれていた顔を上げ、
「嘘偽りございません。ですが、貴女の頑張り次第、ですが…………」
「頑張り、次第………?」
「左様。命を失ってしまった今、貴女には新しい命を――、生命が活動するにあたって必要なエネルギーを充填しなければなりません。生前前の心臓にあたる新たな器官。それを今から私がお与え致しましょう」
そう言ってヘアムの手の平から現れたのは、二つの半透明な眼球であった。
「何だぁ、その目?」
「こちらが先程申した貴女の新しい命-〝
「神……眼………?」
「この二つの眼球を移植して頂き、見事貴女がこの目を受け入れることが出来ましたら、今一度人生を送り返すことが出来ましょう」
「この目を……受け入れる…………?どういうことだ、そりゃあ?」
「全ては移植をすれば、分かることです。それとも、得体の知れない眼球を前に恐れましたか?」
「だ、誰がッ!んな眼球如きで恐れるかっての」
「でしたら、神眼の移植をなされるという解釈で宜しいでしょうか?」
「あ、嗚呼!んな眼球を移植するだけで生き返れるってんなら、是非ともやってくれや」
「分かりました。でしたら早速移植に取り掛からせて頂きますので、少しの間適当に横になって頂いて宜しいでしょうか?」
「こうで良いか?」
女性の人魂は言われた通り、身体を横にした。
「はい、ありがとうございます。ではまず、貴女がすでに持っている眼球を取り出していく作業に移させて頂きます。特別麻酔や消毒などの手順は踏まずとも、魂だけの存在でありますので、痛みも衛生的な問題全てにおいても貴女さまがご心配されることは何一つございませんので、このまま手早く進めさせて頂きます」
そう言って何とも呆気なく彼女が言うように痛みも無く、簡単に両目が取り出されてしまうと、ヘアムは次の作業に取り掛かろうとしていた。
「では次に、神眼の移植に入らせて頂きます。その際ですが………」
などと話している途中で、ヘアムは例の二つの眼球を移植していくと――、
「ぐあぁぁああああああぁぁぁ――――ッ!」
神眼が移植された女性の人魂は瞬間、もがき苦しみ始めた。
「何だこれh………
彼女は苦しそうに血の涙を流しながら、もはや悲鳴とも言えぬ言葉にならない何かを口にしていた。
「……無。。ム理…………ばy…く、抜ィ……………」
微かに〝……無理。早く抜いて〟と言っているようで、それを聞き取ったのかあの様子を見かねて駄目そうだと判断したのか、ヘアムはお手をクイッと上に上げると、一緒のタイミングで彼女の中に入れられた二つの眼球が飛び出るように浮上し、ふわふわとそれらは浮遊しながらヘアムの手の中へと収まった。
「今回は失敗ですね。日本人の女性ならばと少しは期待していたのですが、
ここで命絶えるのもまた、運命にして摂理。私ども神様にはこれ以上、貴女に対して手の施しようがございません。どうかこの哀しき魂が悲惨なる現実に恨むこと無く、清らかに、解放されることを――。
その言葉を最後に力失くした女性の人魂はその場に崩れ去るように、キラキラと綺麗な粒子となって静かに消え逝くのであった。
「おや、また一人死人が出た模様ですね。
でしたらそちらの担当は、ひとまず別の神様にでも任せましょうか――こちらはこちらでやることがございますから」
そう言って、ヘアムは次なる働きに入った。
お手を前に出すと、ブゥォンと何やら映像がヘアムの前に現れ、そこに映っていたのは布都部島の港に停泊する一隻の貨物船。
厳密に言うと、その貨物船に潜む見えない何か。
一瞬、グラッと背景の一部が人型に歪んだような映像が映り、船のファンネルからモクモクと煙が上がって出航し出したのを確認すると、先程歪みがあったところから一人の女の人の姿が現れた。
カメレオンの持つ保護色さながら、さしずめ目に見える風景に姿を溶け込ませる能力を持った神眼者と言ったところであろうか。
ちなみにカメレオンの保護色は目ではなく体の皮膚で周りの色を感じ取っている為、目隠しをしても身体の色は変わるそう。
「あはははっ!誰があんなクソゲーやっていられるもんですか。この【
さぁ~て、東京に戻ったらまずは何しよっかなぁ~♪まずはお食事だよね。あの店の焼き肉、久しぶりに食いたいと思ってたんだよねぇ~♪カルビでしょ♡ハラミでしょ♡あっ、ハネシタは外せないよね~♡あー、何か喋っていたら腹が減ってきちゃった。早く東京に着かないかなぁ~♪」
ヘアムがその様子を見ているとも知らずに、もはや島から出られることを確信しきってしまい、上機嫌に一人盛り上がる、ショートパンツに薄着の
「……はぁ。いまどき、あの島から逃げ出そうとしている者がいるとは。奴は確か……この間神眼者にしたばかりの新入りにそんな奴がいたような………………まぁ良い。
最近はそのような馬鹿をする者は見なかったものだから油断していたが、まさかこうも堂々とやってくる者がいられるとは…………。その図太さと度胸には評価しますが、それで慈悲をかけてやる程、私は甘くありませんゆえ」
スクリーンを見つめるヘアムの瞳にカッと輝きが増すと、瞬間そこに映る女の人の姿が、まるでトマトでも潰したかのような勢いで奴の肉体が跡形も無く塵と化した。
そこに残るは、彼女の体内を流れる血液から溢れ出た血だまり。
丁度、船内を掃除していたおじさんがその異変に気が付くと、血だまりを目にするなりそれが船上で事故が起きたことへの恐怖によるものからか、それともあまりの光景によって引き起こされたパニックによるものからか、そのおじさんは急激な船酔いにでも襲われたかのように吐き気を催した。
その後、船内は荒れに荒れていた様子であったが、それをヘアムの立場からして見ればいちいち気にするようなあれでも無く―――
ブゥォン!
そこに広がる光景をスルーするかのように画面に向かって手を横にスライドし、掻き消すように映像を切ってしまった。
「さてと気を取り直して、任せていた魂から少々、今一度こちらでも迎えましょうか」
なんて言っていた矢先のことである。
ブゥォン!
つい先程、一度は切った筈のスクリーンが再び現れると、そこにはさっきまでの地球上の様子が映し出された映像では無く、以下のような文章が表示されていた。
『
それは今日一日のゲームクリアを意味する、神眼回収の要請メールであった。
「……相変わらず、休む間がありませんね」
ヘアムはスクリーンを切ると、その
これがヘアムの日常――
そんなことの繰り返しを彼女は毎日のように送り続けているのである。
彼女の一日は忙しい。つまりはそう言うことである。
…………………………
◆終わりに――
神眼を移植され、苦しんでいた女性の人魂でしたが、元々はあのような如何にも苦しい様子が悲惨に現れた、文字化けのようなセリフまわしを書こうかと迷っていたのですが、ストーリーの序盤にこんな描写を書いて読む人が少なくなってしまったら元も子も無いので、多くの年齢層を対象とした人間ドラマをテーマに書いているため、本編では抑え気味に書いております。なので今回、番外編ということで勢いがフルスロットになっていますが、どうか本編とあまり比べず読んで頂くと幸いです。
プラスとして………このお話ではその一連をゆっくりとやっているようにも感じられるかもしれませんが、実際にはこの流れをもの凄い速さでヘアムは動きとして
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◼︎能力解説◻︎
目力:【
開眼している間は常に目にしている周囲の風景に姿を溶け込める力を持った異能
厳密に言うと、【皮膚】、
その為、作中では能力の性質上、奴は布面積の少ない薄着の恰好をしており、完璧なカモフラージュを可能とする為に衣服の下には下着を一切着ていない。
瞳孔のデザインはカメレオンの特徴的な瞳そのもの
PiLLEUR DE ŒiL -ピヤー ドゥ ウイユ- 〜Eye-Land GAME〜 アイランド・ゲーム ちゃいあん。 @chaian
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