第2話
……そこまで書き終えて私は筆を置いた。二文字書いては一文字消すようなスピードなものだから、ちっとも原稿は進まない。しかし、歴史に残るような出来事を間近で見続けたものとして、私はこの物語を残さねばならないと思う。記憶の片隅に眠る思い出が完全に色褪せる前に、それを書き留めて置かなくてはいけない。
コンコンコン。ドアをノックする音。
「シャンドスでございます」
一体宰相直々に何の用なのだろうか。とりあえず急いで紙とペンをしまう。これはまだ見られてはいけないものなのだ。
「どうぞ」
「失礼致します」シャンドスは部屋の中に異物がないかくまなく確認する。「慌てたご様子とお見受けするが、何かありましたかな?」
「いえ、ちょっとウトウトしていたもので。シャンドスさん、何かご用ですか?」
何がきっかけなのかわからないけれど、私は間違いなく監視されていた。この部屋にいる限りは何をしても気づかれないが、この部屋に誰が入ったかは確実に王の耳に届いている。怪しい者を招くような真似をしたら、私の立場は危うくなる。今の警戒レベルならばまだ脱出可能だから、いよいよスパイと思われたらなるべく早く逃げないといけない。
「陛下がお呼びです」
「わざわざシャンドスさんが——」
「至急参られたし、とのことです。私が叱られてしまいますので、どうか早く行かれてください」
「わかりましたわ。参りましょう」
「では私についてきてください」
どうやら疑いの目は想像以上に厳しいようだ。時々シャンドスは振り返って私を睨んでくる。国王の信頼できる側近を直接私につけるくらいだから、本気で間者だと思い込んでいるのかもしれない。そろそろ逃げる手立てをしないといけなさそうだ。
それにしても、何の用なのだろう。流石にまだ私の身が危なくなるようなことはないと思うけど。
私はシャンドスに続いて王の間へと入った。
ある少年が大人になるまでの話 シグレイン @shigureinn
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