甘栗モンブラン
―季節は移り変わる。
夏は過ぎて秋の季節。
あの暑かった日はどこへ消えたのか。毎日が冬に向けて寒さが厳しくなっていく。
結局、夏休みに誘われたクラス会には顔を出さなかった。その日は予定が入っていた…という事にしてある。
夏休みは終わって欲しくなかったのに終わりを迎え、終わって欲しかったのに終わらなかったのは宿題だった。学生ならほとんどの人が悩む事だろう。
ちなみに僕は、宿題は後からしようと思って結局やらないタイプ。っていうかみんなもそうだろ?
始業式の日に先生に忘れましたの報告さえすればあとはもうすっとぼけ!
今年もその予定。
ところで夏に美味しい食べ物は多くあるものの、秋ってなんかこうパッとしない感じで食べ物も質素な石焼き芋や、逆に庶民の俺には買えないような高級な松茸くらいしか思い浮かばないし、ファミレスの季節限定メニューも期待できたもんじゃない。
とりあえず冬の到来を待って、美味しい鍋や熱々のおでんを楽しみにする季節って感じだ。
「いらっしゃいませー!御一人様でよろしかったでしょうか?お席の方ご自由にお座りくださーい!」
この店員さんも、もう慣れたもんだな。最初のうちはうるさいなんて内心思っていたけど、今じゃ逆に姿が見えないとなんだか変にファミレスに来た気がしない。
…あれ、いつもの席に季節限定メニューが置いてある。
秋に季節限定…いったいなんの食材を使った食べ物だろう。松茸かー、または石焼き芋か。
席についた俺は予想を裏切られた。
そこには『甘栗モンブラン』の写真が載っていた。
モンブランかー!これは全く考えていなかった!
モンブランと言えば、ケーキ屋さんでよく見るイチゴのショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキに並んでいるが、注文する人はほとんどいない。
まさに「王道中の邪道!」ってイメージがある。
ここに来てモンブランかー。別に食べたいとは思わないよな。どっちかと言うと、横に載ってる『クリクリ炊き込みご飯』の方が美味しそうだ。
甘いのって気分じゃないし、こっちにしようかな。
―ピーンポーン
「ご注文お伺いしまーす」
「この、クリクリ炊き込みご飯を1つ。」
「かしこまりましたー!お客様、期間限定の商品お好きですよね?」
「え、あ、はい。」
急にどうした!?
いつもは注文を聞いたらすぐに厨房に戻るはずなのに今日は珍しい。
「そちらの甘栗モンブランも一緒にいかがですか?」
「あ、い、いや大丈夫です」
「そうですかー。実は私、さっき休憩中に食べてみたんですけど、すごく美味しかったんですよ!私の今季イチオシの品です!」
「あ、は、はい。でも…」
そう、今日の俺は経済的にちょっとやばい。そんなに食べるつもりはなかったから、2食分の金額は持ってきていない。
で、でもそんな言い方されると気になるし…
「え、えっと、それじゃその炊き込みご飯をモンブランに変えてもらえますか?」
「いいんですか!?」
「は、はい」
「かしこまりました!ご注文ありがとうございます!」
…やってしまった!!!!
つい流されてしまったよ。これだから人間は怖い。
はぁ…甘栗モンブランかぁ。でもあの店員さんのイチオシなら、きっと予想以上のモンブランが出てきてくれるのだろう。
「お待たせ致しました!甘栗モンブランです!」
モンブランだからか、随分と早かったな。
目の前に置かれたのは一般的なモンブランだった。本当に普通にそこら辺のスーパーでも販売されているようなモンブラン。
上には甘栗が可愛く乗っかっており、その下には茶色のクリームが綺麗に多くの線を描いている。中のスポンジを線で巻いている様だ。
まずはてっぺんの甘栗をいただく。
―パクッ!
あれ、これ見た目以上に美味しい!
1口でわかる甘栗の香り。1度噛むと下の上にクリの破片が転がる。甘さの奥に隠されたどこか切ない味。ただのモンブランだなんてバカにしていた自分が恥ずかしい。そしてオススメしてくれた店員さんに感謝!
ケーキを2つに割ると、中からは甘栗ベースのカラメルソースの様な液体が溢れてきた。そしてその下のスポンジに染み渡る。上から、甘栗クリーム、スポンジのドーム、ドームに
これは絶対に美味しい!
1口1口を味わいながら美味しく食べた。秋は冬を待つだけじゃない。質素な食べ物か、高級な食べ物かだけじゃない。お手軽に食べられて、さらに秋の奥深さを物語る食べ物がここにある!
ごちそうさまの頃には夜になっていた。
1口を味わうからこそ、時間が短く感じる。
今年の秋も、1日を味わいながら過ごそう。
そう思わせてくれたモンブランだった。
ファミレス的日常生活 トラ @tora_0810
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