灼熱石焼きビビンバ

 溶けるような暑さが俺を襲う。


 夏休みに入って2週間ほど過ぎただろうか。外を歩くとすぐに体中から汗が吹き出してくる。学校で部活をしていなくてよかったと、自宅警備をしていてよかったとつくづく感じる今日このごろ。

 朝起きてご飯を食べて本を読んで。昼ご飯をファミレスで済ませてそのままファミレスで本を読む。そして帰宅前に夜ご飯をファミレスで済まして帰宅。その後お風呂などなどを済ませて就寝。1日3食のうち2食はなんとファミレス!というとんでもない食生活をおくっている。

 そしてまた今日もファミレスでの食事。

 いつも決まって安価なドリアやポテトフライばかり食べている。両親共働きで、安価な食事、中古の本を100円で買っているので毎日のお金にはさほど困っていない。ここに友達が入ればきっと毎日が金欠だろう。

 てなわけで、今日もポテトフライかなー。なんて思いつつ左から右へメニューに目を流す。

 すると、またも季節限定のメニューに目が止まった。


「暑さの中に美味しい辛さ!灼熱石焼きビビンバ!」


 この暑さの中に美味しい辛さなんてあるのか。

 普通に考えたら暑い時に辛いもの食べたいなんて思わないだろ。

 …と思いつつ口内に蓄積されていく唾液。


 ―ピーンポーン


「ご注文お伺いしまーす」


「あ、この灼熱のビビンバを…」


「クス…灼熱石焼きビビンバですね!以上でよろしかったでしょうか?」


「…は、はい。」


 …むっちゃ恥ずかしいじゃん!!!

 なんだよ灼熱のビビンバって!バカかよ俺!

 いつもの元気な店員さんに笑われたよ。もう来たくないよこのファミレス。いやまぁ来るんだけど。。。


 あ、そういえば夏休み中にクラスの奴に遊びに誘われてるんだった。

 断ったんだけど、どうもしつこく誘ってくるから仕方なく誘いに乗った。

 まぁまだ数週間先の話だけど。

 別に友達とかじゃない。ただ同じクラスの奴って関係なだけ。俺にはまだ友達なんて呼べる奴はいない。

 ちなみに俺を誘ったのは同じクラスの里山俊哉さとやましゅんや。クラスで委員長をしていて、部活はサッカー部って耳にしたことがある。

 なんで俺なんかを誘ったのかわからないけど、きっとクラス会とかそういうやつだろ。どうせまた夏休みが終われば嫌でも同じクラスで顔合わせるのになんでクラス会なんてのをやるのか俺にはわからない。


「お待たせしましたー!灼熱石焼きビビンバです!お皿の方が熱くなっていますのでお気をつけくださーい。」


 ここのファミレスはいつも唐突に運んでくる。ファミレス側からしたら俺が何を考えているかなんてどうでもいい話だろうけどさ、ちょっとくらいタイミングとかそういうのあるだろ。


 目の前に置かれた石焼きビビンバに俺は目を持っていかれる。

『石焼き』という名前通りに分厚く、とてつもない熱を持っているであろう石皿の中に、お米、もやし、ほうれん草等の野菜。たくさんの肉。そして中央には卵黄が1つ、可愛げに乗っかっている。

 そしてなんと言ってもこの鼻をつくスパイシーな香り。唐辛子だろうか。俺はそれしかこの辛さを出す調味料を知らない。

 匂いだけで唾液が何倍も口の中に溢れてくる。

 そしてお米が少しずつ焦げていく音もたまらない。

 これはもう…夏の暑さも何もかも忘れて食べるしかないだろ!!

 俺は無心になって目の前の灼熱石焼きビビンバに食らいついた。

 口の中に運ばれるお米は熱々で、辛さのあとにおこげの香りが口に広がる。

 気がついた時には皿はもう空になっていた。


 ヒィヒィ言う口の中にお冷を流しながら一息ついた。

 なんで俺、この季節にこんな食べ物食べてるんだろ。でもまぁ、すごく美味しかったからよしとしよう。


 満腹になった腹を抱えて俺は帰路についた。

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