マンゴーかき氷
夏の日差しが照りつける校庭に1人、いや、正しくはひとりぼっちで俺は立っていた。
この暑い中、体育の授業のサッカーはまるで地獄。さらにこんなぼっちにペアなんか組めるわけない。
あ、なんか、疲れてきた。目の前がボヤけて…ボーってして…あ、もうなんかわかんないや―
「…ーい、おーい!大丈夫か、優希!」
夏の日差しがカーテンで遮られて、空には天井がある。
あれ、俺、体育はどうしたんだっけ。
「大丈夫か優希。」
硬いベッドの上に横たわる俺に体育教師の鈴木先生が語りかけてきた。先生によると、どうやらサッカーの途中で1人、ぶっ倒れたらしい。
そういや昨日はずっとラノベ読んでて、ろくに寝れていなかった。そのせいだろうか。
保健の先生には、熱もないし単なる睡眠不足だろうから少し休んでから次の授業に行きなさいと言われた。
授業中に教室に入るのは恥ずかしいので、休み時間にさっと戻ることにした。
学校はろくな事がない。嫌いだ。でも、また家に引きこもるのは授業中の教室に入る事の30倍は恥ずかしい。だから嫌でも1人、クラスでぼーっとしている。
休み時間にクラスに戻った俺には、案の定、誰一人声をかけてこなかった。むしろここで声をかけてこられても、なんて返せばいいのか困るのだが。
保健室で眠ったおかげで残りの授業は全て寝ることはなかった。
そして放課後、今日も俺はファミレスに寄る。昨日読み切れなかったラノベを持って。
…テレレンテレレーン
あれ、今日は珍しくあの元気な女店員さんが来ない。おやすみかな。
俺はいつもの窓側の席に座りメニュー表を眺める。
テーブルにはいつも季節限定のメニューがのった特別なメニュー表がビルのように起立している。
あと数日で夏休みに入る。この時期はファミレスにかき氷が出始める。
いちご、抹茶、チョコレートにバナナ…と、結構品揃えがいい。
その中でも俺が目をつけたのはマンゴー味のかき氷。え、なんでマンゴーかって?別に変な目で見たわけじゃない。そんな小学生みたいな思考回路はしていない。メロンとかマンゴーって、実際果物として買うとすごく高い。そんな味を安価で楽しめるのに他の味を楽しむのってなんか勿体なくないか?
貧乏人な考え方かもしれないが、今日はこれを食べることにした。
―ピーンポーン
「は、はーい!少々お待ちくださーい!」
厨房の奥から聞き覚えのある声。
いつもの女店員さん(同じくらいの年齢だが)は珍しく厨房の奥にいた。いつもはレジに立っているのに。
「遅くなって申し訳ありません!ご注文はお決まりでしょうか!?」
この暑苦しい日でも元気な姿。若いっていいなぁ。いや、まぁ俺も近い年齢なんだろうけど。
「マンゴーかき氷を1つください。」
「かしこまりましたー!」
今日の店内はお客さんは…赤ちゃん連れの女性が1人だけ。
まぁ時間がまだ早いからだろう。いつも俺が食べ終わる頃にお客さんが増え出す。
赤ちゃん…か。自分にもあんな小さい頃があったと考えると、とても不思議だ。
何が不思議かって、その頃の記憶が無いこと。それが当たり前な事なのかもしれないけど、小さい頃ってなんで記憶が無いんだろう。
あんな頃が自分にもあった…のだろう。としか言い様がない。もしかしたらなかったのかもしれない。だって確かな記憶に残っていないのだから。
人間って不思議だな。
「お待たせ致しました!マンゴーかき氷です!」
おぉ!思っていたよりかなり量が多い!
透明の皿に、ふわふわの雪のような氷が舞い落ちている。その上から濃厚なマンゴーシロップにマンゴーの身が5つ程乗っている。
シロップがかかった部分はふわふわの氷がシロップを
いただきます!
スプーンがシャリッと音を立ててかき氷に刺さる。氷の層は深く、シロップがかかっていない下の層まで掬わないと後から味のない氷の部分だけ食べることになってしまう。
スプーンと氷が接触している部分はスプーンのほんの少しの温度で氷が溶けてきている。
急いで口に運んだ俺の頭には勢いよく電気が走った。急いで食べたのがいけなかった。
しかし、口の中では氷が溶け、マンゴーシロップの甘ーい香りが広がる。
そう思った瞬間に口の中から氷は消えた。
この感動を再び味わうべく、また口の中に氷を運ぶ。
この動作を繰り返すうちに目の前からかき氷は姿を消していた。
かき氷は早かった。今までの食べ物のどれよりも早く姿を消した。それでいて、どの食べ物より1番にこの暑さを忘れさせてくれた。
体温がまた元に戻らないうちに帰路につく。
今日くらいは部屋のクーラーを少し強めてもいいよね?
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