神の思い4

でも、その日から毎日その少女と私は会うようになった。


時間を変えても、場所を変えても。


私が麦粒や水をこっそりと村人の家の前に置くたびに、彼女は私のことをじっと見ている。


お互いに何を言うわけでもなく、ただ同じ時間を過ごすだけ。


ある日はすれ違い、ある日は少女の方から一方的に私に話しかけてくる。


神は人とかかわらなくなると死んでしまうから天上に引きこもっているわけにもいかない。


でも弱い私は、信者を持つわけにはいかない。


でも。それでも。言葉を交わすことができなくても、こうして他人とひと時を過ごせることが嬉しかった。


ずっと孤独で、神からも人からも相手にされなくて。


寂しさで気が狂いそうだった私に、ぬくもりを与えてくれた。


そんなもの、私は持つべきではなかったのに。




ひと月ほどたって、その子の前に他の神々の人柱が立ちふさがっていた。


ホルス、天空を司る神。


「何をしているの、ホルス」


私はワシの頭と人の身体を持つ神、ホルスを問い詰める。


「殺すんだよ」


鋭くとがったくちばしをその子の頭に向けたまま、ただそう言い放つ。


「やめて! その子が何をしたっていうの、私の信者になったわけでもないのに」


「はあ? そんなこと関係あるか」


ホルスは獲物を捕らえるときのように目を爛々と光らせた。少女は歯を鳴らし、地面には黄色い水が水たまりを作っている。


「こいつは俺の信者でありながらお前に色目使いやがった。だから殺す」


「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな無茶な」


なんて身勝手で自己中心的な理屈なのだろう。


「まあ、俺も鬼じゃないからな」


ホルスはそう言いながら、頭をくちばしで挟み込んだ少女に告げた。


「この女とは一切かかわらないと言え。それにこの女に思いつく限りの罵声を浴びせろ、そうしたら許してやってもいい」


ホルスの言葉に私は安堵していた。


私の悪口を言うだけで助かるなら、それでいい。


「いやです、この鳥人間」


だが少女の口から出てきたのは、ホルスへの侮辱の言葉。

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マン・ハンティング1 異世界でクラスメイトに復讐する @kirikiri1941

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