十三等星「天体観測」

 ここは、魔王城の天体観測室。綺麗な風貌をした人間の娘と、いかつい顔をした一人の男がいました。


「ねえ」


「なんだ」


「あなたはどうしてここにいるの」


「お前を殺すためだ」


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「魔王と呼ぼうか」


「うん」


「では、魔王。おとなしく投降する気はないか? お前も無益な争いは望まないだろう。お前の配下はここまでの内に大部分が死んだ。お前に勝ち目はない」


「やだ」


「そうか。やはり魔物は頭がおかしいのか」


「魔物じゃない」


「魔王なのに?」


「魔王だからこそ」


「じじくさい物言いするんだな、お前」


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「どうしてお前は死を望む?」


「気が変わったから」


「ほう」


「これも一つの答えだと思って」


「なんのだ」


「秘密」


「そうか」


 男は葉巻に火をつけました。


「これはお前がそのだから言っておくことだが、お前はまだ早すぎる。もう少しいいこともこれからあると思うぞ」


「いいの、私は早すぎた」


「そうか。また美人が一人死ぬのか」


 男は笑いを含んで言いました。


「大丈夫、そんなに悲観しないで。死ぬのはあなたの方よ」


「ははは、言うじゃないか。魔王。じゃあお望み通りに殺してやるよ」


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「最後に一つだけ」


「なんだ」


「貴方は何で私を殺すの?」


「輝いているからさ」


 男は娘に向かって剣を取りました。


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 男の足元に血が広がりました。


 男の突き出した剣は、確かに娘の体に突き刺さっていました。


 男の片腕は無くなっていました。


「……」


 娘は倒れました。


「手間をかけさせてくれたな。だが、これで終わりだ」


 男は吐き捨てるように言いました。


「ねえ」


「なんだ」


「泣いて」


 男は答えました。


「ハッハッハッハ! ……これでいいか」


「……あなたの方が魔王みたい」


「ははは……そうか?」


「でも、魔王とは違う」


「何が違うと?」


「自分で選んでいるか、選べなかったか」


 男はまた一度大きく笑うと、娘に言葉をかけました。


「本当に……お前のような美人を失うのは人類の損失だな」


「いいの。私は星々にかき消されたから」


 娘は続けました。


「……そっか。私は、早かったんだ」


「そうだな、お前は早すぎた。まるで人間の様だよ」


「人間みたい?」


「ああ」


「じゃあ、私は星だったんだ」


「……なぜそれになるのか理解がしがたいが」


「そっか……私は……星だったんだ……」


「……」


 男は黙りました。


 それが自分に向けられた言葉ではないと、男は感づいていました。


 男は黙ったまま、もう一度剣を振り下ろしました。


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「これが、私の答えか」


「いつか私という存在が、限りなく多くなったとき。そんな日は訪れるのだろうか」


「……いや」


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「もっと、輝いて。そして、限りなく遠くて、近くなきゃ」


「そっちの方がいいや」


「そんな星を見てみたいな」


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 ああ、体があったかい。

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魔王と娘と天文学 リスノー @risuno

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