最終話




「そういえば香澄かすみ、ナツキくんとの出会いってどこだったの?」


「え?」


「だって、私と香澄は同中だけど、ナツキくん違うよね」


「はい」


「でも中学の頃から、私が知らなかっただけで付き合ってたっていうから…」


「あ、最初は、図書館です」


「と、としょかん?」


「初夏くらいかな、同じ過去問取ろうと思ったところからだったんですが、お互い受験生だったのでよく図書館に通っていて、それで話すようになりました」


「へぇ~! 初耳」


「言ってなかったですね」


「付き合ったのはいつ頃なの?」


「秋です。修学旅行の2日目で、ちょうど1年になります」


「え!? もう1年なの」


「ピピちゃんと仲良くなったのは高校からですし、数カ月っぽく見えていましたか?」


「うん、できたてほやほやくらいかと思ってたよ」


「先はもっと長いです」


「うぉう…お幸せにね!」


「ありがとうございます」


「それと敬語、外せるようになったら外していいからね、同い年だし」


「あっ、ナツキには少しはずせるようになりました」


「そうなの! よかったね!」


「ピピちゃんのおかげです」


「いや、私はなんにもしてないよ」


「こうやって話してくれることが嬉しいです。ピピちゃんも何かあったら私に相談してくださいよ! できることならしたいですし」





——香澄とナツキくんに一瞬でいいから別れてほしい。


——もみじちゃんの恋が一瞬だけでも実ってほしい。





「……なんて、言えるわけないか」




   *  *  *




「…ね、全部……」 


 ピピが、ナツくんの隣にいた女の子、香澄さんのことを、話してくれた。



 私の告白が絶対に成功しないこととか。


 今日、一緒にライトアップを見るって知っていたのに、私の告白がこのタイミングじゃ2人を見てしまうって分かっていたのに、教えてくれなかったとか。


 香澄さんのことも応援したのに、私のことも応援していて、2股みたいな状態だったとか。


 告白の瞬間が来たら友情が壊れるんじゃないかって、思っていたこととか。



「それで、私が怒ると思ったの?」



 言えなくて言えなかったこと、私がピピを怒ると思ったの。



「私は…嘘吐きだよ……」

「何が、嘘なの」

「へ?」


「ピピ、私に嘘なんか吐いた? 応援してくれてたから言えなかったっていうのは、何も嘘じゃないよ」


「え……」

「今、話してくれてありがとう。香澄さんの恋も私の恋も、背中をおしてくれてありがとう」

「もみじ、ちゃん、」


「だから、これからも友達でいてほしいな」



 終わり、だなんて言わないで。


 泣かないで、笑おうよ。


 9年間の想いが敗れた私と一緒に、笑おう。



紅葉もみじ、おちちゃってる」

 


 紅葉を、贈ろう。



 君に。


 ナツくんに。



 水面にきれいに反射された紅葉と、9年間に終止符をうった、私。


 おわりは、破裂じゃない。どっかの水面には、私の想いが映ってるかもしれない。




 言葉にはできなかったけれど、私のことを忘れないでいてほしい。


 1ミリでいいから、覚えていてほしい。



 君に彼女がいるとしても、私がもらえる愛情はカケラもなかったとしても。


 あの日のことは、ずっと私のおもいでだから。




 笑ったときのえくぼも、風になびく細い髪も、私を助けてくれたその声も、



 ——好きだよ。




FIN

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【短編】夏に、紅葉を贈るから ぽんちゃ 🍟 @tomuraponkotsu

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