第6話




「あの、ピピちゃんは、なんでピピって呼ばれているんですか?」


「え?」


「と、突然、すみません」


「あっううん、『ピピ』の理由?」


「だってその、ピピちゃんの本名と全然、違いますし」


「ピピの理由は、私も知らないよ」


「えっ知らないんですか?」


「うん。でも気に入ったから」


「ピピちゃんってお名前、可愛いです」


「だよね! おかげで毎日楽しいよ」


「ですね」


香澄かすみも、学校楽しい?」


「楽しいです。ピピちゃんとクラスが違うのは寂しいですけど」


「またまた~、しかもナツキくんとも違っちゃったからね」


「ほんとです。せめてナツキとは一緒が良かったです」


「そういうの、さらっといえるとこがすごいな~、尊敬するよ」


「尊敬なんてそんな……ピピちゃんも、モテるじゃないですか」


「モテる!? 見た目によらず大荷物が持てることぐらいしか取り柄ないよ」


「そっちじゃないです」


「あっそだ、香澄、修学旅行でナツキくんと、なんかするの?」


「修学旅行…ライトアップは一緒に見ようっていうお約束は、しました」


「おお~、いいねぇ、青春だねぇ」


「ピ、ピピちゃんはそういうのないんですか?」


「私はね……お友達の恋、応援する、かな」


「ピピちゃんらしい…! 相変わらず優しいですね」


「…‥全然だよ」


「そんなことないです。ピピちゃんは、私の友達ですから」




——私は、ピピじゃじゃない。


黒くて、汚くて、


優しいの値札なんて、はがして。




   * * *




もみじちゃんっ!」



 待って、待って待って待って。


 ごめんなさい、黙っていてごめんなさい。裏切者でごめんなさい。嘘をいてごめんなさい。



 知っていた。


 椛ちゃんの好きな人に、彼女がいること。その出会いも想いも、そして今日一緒にライトアップ見て回るっていうのも全部、知っていた。



「待っ、て、椛ちゃん……」



 ちゃんと、言わなきゃ。上辺だけに聞こえてしまうような言葉でも、本心だって伝えなきゃ。


 拙い言葉だっていいから紡いで、どうか、椛ちゃんに届いてほしい。



「ごめんなさい、ごめんね椛ちゃん、私は、」

「ピピ。」



「ピピ、私はあなたとの約束を破った」

「え……?」

「告白…純粋に告白、出来なかった」

「——っ」



 ……香澄が、隣に、いたんだ。



「あんなに応援してくれて、励ましてくれたのに、本当に、ごめんなさい」

「……あ、の」



——言うの?


 言う。言って、ちゃんと謝らなきゃ。



——今?


 そうに決まってるでしょ。今言わなかったらいつ言うの? これからも椛ちゃんに嘘を吐ついてくの?



——今、彼女は失恋したんだよ。そこに友達の裏切りも重なったらパンクする分かんない?


 そ、れは、



——彼女は貴女の裏切りなんか気づいてないんだし、言わなくていいんじゃない?


 ……だめ、だよ。もう嘘吐きたくない……。



——『嘘吐きたくない』って結局は自分のため? 


 え?



——自分のためだよね?


 …………、



「もみじ、ちゃ、ん…」

「ピピ、え、なんで」



 嫌だ。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌いだ。自己中で情けなくて友達の事を全然考えられなくて。




「なんで、ピピがそんなに泣くの…」

「ごめ、ん、なさい、」

「え…?」


「ごめんなさい! 椛ちゃん、私は、椛ちゃんを…」



 ……言わなきゃ、分かんないよ。


 伝わらないよ。





——遠井とおい香澄かすみは、1年前から、近野こんの夏樹なつきくんと、付き合っている。





「騙していた」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る