第3話 王宮と思わぬ敵
いやー、異世界の生活を体験して30時間余り。
最初はね、「これは夢の中の世界だ」とか「どうせVRだろ」とか(1話参照)思っていました。
ちょっとした、VR体験版的なノリでね、結構ツッコんだり、人から逃げたりしてきたわけですよ。
でも、今はちょっと「やべぇ、俺マジで異世界転生したんじゃね」とか思ってます。
根拠はいくつかあるんですが、一番はアレです。アレ。
人として欠かせないものですよね。
そう、「便意」です。
「便意」は来るとは思ってなかった。
いや待って、質問ですけど、いままで夢の中で自分がうんこしたい!なんて思ったことあります?それか、自分がうんこしている夢なんて見たことあります?
すくなくとも、俺にはありません。
これには驚きを隠せないどうも今の俺です。
第一、ラクダの馬車もとい、ラクダ車。これがアカン。
ぶち揺れる。スゲー揺れる。
歩幅が、大きくなったり小さくなったり。
ホント、情緒不安定な歩き。機嫌悪いだろ。
しかも、背中には、あのおっさん乗せているから前がよく見えないし。
こんな感じで、便意が少し収まるのを願っているどうも今の俺です。
ラクダに引かれて、約10数時間。
ようやく、夜が明けてきたと共に、徐々に王宮の姿と町が見えてきました。
便意に耐えつつ、俺は体を乗り出した。
見えてきた町は、王宮の周りの町だとは思えないくらい貧相な所だった。
町のどこを見渡しても、ゴミや作物が無残にも散らかっている。
家や教会、馬小屋などは全壊しており、煙を出しているところもある。
自分の家の前でうずくまっているもの、毛布にくるまって外で寝ている人。
愛する人の行方を必死に探しているもの。
目に入ってきた光景は、数年前テレビで見た震災の被害のようだった。
一つ一つの姿が自分の心に突き刺さってきた。
それを、いま自分はただただ無言で見るしかなかった。
王宮に近づくと、その周りには人で溢れかえっているのが目に入ってきた。
戦争で傷ついたように見える城を、人と、怒りと憎しみ声が取り囲み、
何重にもなっている。
物を投げるものや城を攻撃するもの、城の門番とけんかをしているものとそこは、
最初に見た、華やかな町とは似ても似つかなかった。
ラクダの馬車から降りて、城へと向かう。
「お前、死ぬんじゃねーぞ。ぜった、い。ぐぅえ。」
彼も最後には、ちゃんと送り出してくれました。
人をかき分け、進む。
しかし、人込みの途中にあるものによって、俺は呼び止められた。
「おい、お前。なんだその格好は。」
「もしや、ラザール帝国のものかぁ。」
その声は、混乱のさなかの王宮前を静まり返らすような、大きく強い声だった。
すっと俺に気づき、自分の周りにいた人が離れる。
「おいっ、答えろ。」
「そこの、お前。止まれぇっ。」
声の主である1人の民衆のリーダーが、俺に近づく。
その顔からは、殺意のオーラをまとっている。
「見たことない顔だ、怪しいぞ。」
しかし、動じない。
ふう、と深呼吸をする。ぐっと握り拳をつくる。
しっかりと言葉を選び、声を発する。
「いいや、敵ではない。俺は噂の旅人。クロードだ。」
俺にはもはやこう答えるしかなかった。
恥ずかしさも、躊躇も一切なく堂々と言い切った。
もちろん便意もない。
「クロード?誰それ。」
「しってる?」
「いや、知らない。」
「それってどうなの。敵?味方?」
民衆の反応はイマイチだ。
わしは、今動揺している。
汗とともに、また便意も沸きあがってくる。
しかし、それを見せてはならない。
こういう場面で、一番大切なのは堂々とすること。
嘘をつくのも、試験前にゲームやちゃって、結局ノーベン(全く勉強してないこと)でテストを受ける時も、堂々と。
これが、大切。
自信とは、時に自らを救う。
リーダーが口を開く。
「そういえば、昔、父から聞いたことがある。
この世界には、すべての大陸を制覇した、伝説の旅人がいる、、と。
その旅人は、あらゆる知識を持ち、その上、魔法の道具を持っていると。
あなたは、もしかして、、、、。」
視線が一気に、俺に向けられる。
その視線は、今までの敵意から、期待の眼差しに変わりつつある。
この、チャンスを逃すわけにはいかない。
俺は、堂々と予備校帰りのバックの中から、現代社会の教科書と取り出す。
「そうだ。これは、俺が旅で得た伝説の書物だ。」
そういった後、普通の教科書もとい、伝説の書物をリーダーに手渡す。
どうだ、高3生の教科書を見るがよい。
「なんと、ところどころは、この国の言語で書いてあるようだが、何やらヒラガナや、カタカナ以外の、よくわからない書体と組み合わされている。」
あっぶねぇー、この国に日本語の認識があること忘れとったー。
「しかし、なんなんだ、この、ヨ、エ、ロ、寸、が組み合わさったものは。」
「尋」ね。ヨ、エ、ロ、寸って。気持ちは分かる。
でも、よかったぁ。漢字は知らないんだ。
次に、俺は数学の教科書を取り出し、
「これは、俺があらゆる大陸の暗号を解き明かし、本に記したものだ!」
すると、中身を見た途端、彼は驚きの声を漏らす。
「何なんだこの、ぐにゃっと曲がった記号は。」
はいきた、2次関数くん。生まれて初めて君に感謝した。
しかし、自信とは時に自らを苦しめる時もある。
「おい、じゃあ、あなたはこの国の救世主ってことでいいんだな。」
うん、まあ。
「そうだ、戦争で崩壊したこの国に、神が舞い降りた。」
「やったあ、新しい王の誕生だ。」
えっ?
「クロード、クロード、クロード、、、。」
そう、根拠のない自信は自らを苦しめる。
さっきまで、俺をにらみつけていた民衆は、今はクロードコールを叫び、俺を崇めている。期待されている。
「そうか、、そうだな。君に僕たち民衆の未来を託した。」
そういってリーダーは、俺の肩に手を置く。
俺は、ためらうことなく、ただ静かに頷く。
ただ前を向いてまっすぐ歩く。
後は、振り向かない。
さっきまでけんかをしていた門番も、喜びながら、扉を開け、俺を城へ向かい入れる。
すごいことになったという自覚はある。
しかし、思ったほどのプレッシャーは感じていない。
体から出てくるほんの少しの緊張感だけ。
それは、武者震いってやつだろうか?
いや、それとも違う。
俺には、まずやることがある。
そう。
トイレに行きたい。もう、うんこしたい。
やばい、漏れるぅうう。
ついに城に着きました。
やっと主要人物出てきます。
次4話です。
Re:Publick 戦略的異世界運営計画 (仮) かぼつ @kabotsu
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