第3話 親友

遊馬「どういう、ことだ。」

五弓「そのままだよ。私は貴方の気持ちがわかる。昔の私がそんな眼をしていたからね。同族を見分けるのは得意よ。…貴方は、さびしいのね。」

遊馬「…」


何を言ってるんだ。この女は。

親に愛されてないのを引きずっているっていうの。認めない。認めないわ。


五弓「愛されていないものは、全てを閉ざす。心の中で叫んでいる自分の声を無視する。 一人はやだ、さびしい、さびしい。でも、裏切られる。いやだ。

…そんな声を、貴方は認められないのでしょう。」


遊馬「はっ。何を根拠に…」

そんな言葉、根拠が無い。


五弓「そんなのは簡単。なんで貴方は学校に来ているの?授業を受けずとも成績が良く、不良に絡まれてもなお、貴方がここに来る理由は?

此処からは私の推測。数年前に亡くなった三原 諒。

貴方の兄でしょう。自殺、だったかしら…その兄のそばで泣いていた少女。無関心な眼をした男女。貴方と、貴方の親でしょ。その兄と約束でもしたんじゃない?

高校生にはなれって。どう?」



彼女の仮説は穴だらけだった。同姓の別人の可能性もあるのにこんな博打に出た理由。それがつかめない。図星をつかれた事がばれないように…



五弓「お兄ちゃんの事、好きだったんだね。」

同情する言葉。

その言葉で、私の中の何かが弾けた。


遊馬「黙れ!」

いまさら、いまさら同情なんていらない。


昔の記憶がフラッシュバックする。忘れたかった、記憶が…



諒「遊馬ー、高校どこ行くの?」

遊馬「え、行かないよ。働いて、お兄ちゃんの手伝いをしたいから。」


その言葉で、兄の表情が少し曇った。

なぜ。何故気付かなかったんだ。


諒「いいか、遊馬。お前はお前の行きたい道を行ったらいい。

俺のことは気にしないでいいから。高校はせめて行け。中卒って大変だぞ。」

少し悲しそうに、兄は言った。


そのあと、兄は自殺をしたのだ。



いつの間にか、涙がこぼれてきた。

なんであの時気付かなかったんだ。なんで、なんで…

あふれだした感情は洪水のようになって止まらない。



遊馬「お兄ちゃんが死んだあの日に…もう信じないって、決めたんだ。

感情なんていらないって、思ったんだ。

なのに… なんで今さら分かる人が居るんだよッ!」



お兄ちゃん

…私は、何かしたのか?



遊馬「うるさい…あたしが何をしたっていうんだよ…」


五弓「私は美晴に救われたけど…

さびしいのなら、私と一緒にいましょうよ。

所詮は塵芥のような命。でも与えられた命でしょう。与えた側はいらないと思っているかもしれないけれど私は貴方の事、気に入っているわ。

居場所は作る物。居場所が無いのなら…私と探しましょ?」


…信じて、いいのだろうか。

私の本心を見抜いたと仮定…いや、断定してみよう。

この女を信じてやるのもまた一興か…


遊馬「裏切ったら…刺し違える形でもお前を殺すからな」

五弓「おお、こわいこわいw…大丈夫。からかったりするけど嘘は吐かないよ」







そんなこんなで、私は五弓を信じたのだ。

五弓が慕っている美晴も信じる対象になった。


五弓と居る世界はいままでより色付き、美しくなっていった。

五弓がいない世界など、意味がない。五弓がすべて。

五弓以外はいらない。美晴?信じられるものが一個増えただけだ。

…そう、遊馬は想う。



しかし、遊馬と五弓の運命は、あまりにも残酷すぎるのだ。

遊馬の五弓を思う心が、引き金となったのかもしれない。

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人間不信少女 鏡アリス @iyumi_0104

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