第2話 五弓

彼女の闇に両親は気付かなかった。

当たり前だろう。見ていないのだから。愛してくれないのだから。

むしろ愛されようと足掻いていた自分に嘲笑が込み上げてくる。





そんなこんなでもう高校生。

母親は滅多に家に帰らなくなった。外に男がいる、らしい。

父親はギャンブルに夢中になった。

金は無くなりそうだ。



義務教育っていうのがあるらしい。

学校に行かなきゃならないんだって。

だるいなあ。高校生まで、か。



学校に来たはいいけどやることは特にない。本を読むだけ。

授業は出ない。だからといって成績が悪いかといえばそうでもない。

テストは受けるしそのたびに学年トップになれば担任も文句は言えない。


あ。でも一回だけ担任が家に来たことがあったわね。

親と話す、だって。やめたほうがいいとは言ったけど勝手に来た。


親は当然いなかったし、床は物とほこりまみれ。


「かろうじて電気代とかは払えてはいたけど、掃除なんてしないほうが金がかからなくて済む。これでわかったでしょ。もう帰って。」


そんなことを担任にいった。担任は私を憐みの目で見ていた。

なんでだろう。私はこんなに充実している生活は無いと思っているのにね。

価値観の違いかしら。





なんでかな。私に喧嘩を吹っ掛ける不良が増えてきた。

くだらない。低能が知れる真似はしないほうがいいのに。



喧嘩は散々した。中学の時にね。親の愛に渇望していた時。

荒れて不良のグループに入ってたっけ。


下らないって分かったらもう喧嘩はしなくなった。

グループでは喧嘩はできるほうだったから力づくで連れ戻そうとする輩は今年に入ってから10人くらい居たけどね。

返り討ちにしたら少しの間は平和だったんだけどなぁ。


今回は担任に少し口答えしただけなのに。

自分たちもやっているくせに 私が担任に口答えしたら生意気、とかw

虫唾が走る。不良のくせにいい子ぶって。なりきれてないじゃん。



ほんとアホくさ。こんなやつらと喧嘩したって退屈凌ぎにもならないじゃん。



喧嘩を再びする私を見て、クラスのいい人ぶってる偽善者はおろか担任すら私に声をかけなくなった。まぁその方が都合がいい。



…なのに。




五弓「遊馬さん、一緒にご飯食べよ!」



何でコイツは。私に構うんだ。


遊馬「…構わないほうがいいよ、私には。」

つか構うな。


五弓「ええ。相変わらず辛辣だなぁ、遊馬さん」



数か月経ってもこんな感じのやり取りが続いた。




しかし、その日は違った。


五弓「遊馬さん。貴方のこと、教えてあげようか?」


遊馬「は?」

何も知らない癖に何を言うかと思えば…

内心嘲笑しながらいつものように無視しようとした。

しかし、続いた言葉が、その思考をかき消した。



五弓「貴方の、ヒミツ。」




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