第3話 魔獣の世界

 俺の意識が戻ってきたとき、俺はやわらかい布団のような感触に包まれていた。


「ん…」

「あ…起きたんですか…?」


聞き慣れない声…って、ここどこ…?そう思って、がばっと起きて声のした方を見ると、一人の少女が座っていた。見た目からすると、普通の清楚な少女なのだが、なぜか、動物の耳としっぽらしきものが付いていた。俺がじっと見つめていたのに気が付いて、少女は少し首をかしげた。


「…どうかされましたか?」

「あ…えっと…ここは…?」

「私の家ですけど…。あのですね、あなたが私の家の前で倒れていたので…家に入れたんです」

「そうか…」


少女は少し顔を赤くして微笑んだ。


「あの…あなたの家はどこなんですか?よかったら送りますよ」


家なんかないに決まってるだろ!でも、どうやってこの場を乗り切る…?


「いや…それが…」

「家がないんですか?もしかして、魔獣に壊されてしまったとか…?それなら、うちに住みませんか?私と兄しかいませんし」


おおぅ…こいつ、早とちりがすごいよ…まあ、そのおかげで住む場所はどうにかなりそうだ…。


「じゃあ…お言葉に甘えて…」


少女は微笑むと、言った。


「さっそく、部屋をひとつ空けておきますね」


 少女が部屋を出て行った後、俺は外を見てみようと思って外に出ようとしたが、呼び止められた。


「どこへ行かれるんですか?」

「外を見たいだけなんだけど…」


そう言った瞬間、なぜか驚いた顔をされた。


「そ、外に出るのは危険です。この付近はどこに魔獣がいるか分かりませんし…。それに、この村にいるのは、私達兄妹と、もう一世帯だけですよ」

「さっきも言ってたけど…魔獣って…?」

「はい…この地域一帯は魔獣がいっぱいいます。魔獣は放っておくと、人間に害を与えるので…。それを減少させ、人々が住める土地にするのが、私達カルロンの仕事です」

「カルロン…?」

「はい。…知らないんですか?あなたも、姿だけ見ればカルロンですよ」


俺が…?そのカルロンって…何…?

少女は真剣な表情で俺を見て言った。


「カルロンというのは、私達の階級でいうと、下から二番目にあたります。下から、スレイブ、カルロン、マーケティア、ノーブルン、ミクスです。この耳としっぽがカルロンの証拠です。カルロンは、先祖が魔獣で、どこかの進化の過程で人間と接触し、生まれた人種です。そういう人々は魔獣を退治するために、使われます」


俺は頭とおしりを触ってみた。なるほど、確かに耳としっぽがあるな…。


「つまり…」

「私達カルロンは、階級がより上の方々から、『物』扱いされる身分です。そして、より強く私達を『物』扱いするのは、ミクスの方々です。しかし、一番上の階級、ミクスは…魔獣の操り主、スザン様と、カルロンの親分、ユラン様の二人だけです」


スザン…?もしかして、浅海『スザン』!?


「スザン…!」


俺の反応を見て、急に少女の目つきが険しくなった。


「知ってるんですか…?」

「ああ…うちの学校に転校してきて…」

「学校?転校?聞き慣れない言葉ですね…あなたは、いったい…」

「…俺は…」


落ち着け、落ち着け…。少女のつばを飲み込む音が聞こえた。


「…俺は、浅海スザンという同級生に、強制的にこの世界へ連れてこられた、ごく普通の男子生徒、高田圭人だ」

「スザン様が異世界へ行ったことはうわさで聞いていましたが…あなたが、スザン様に連れてこられたんですか?」

「そうだけど…」

「まさか…私たちの敵では…」


んなわけあるか!!俺は全力でツッコミたい衝動をなんとか抑えて、少女に言った。


「違うよ…俺は本当に何も知らなくて…」

「そうでしたか…ごめんなさい。私、つい早とちりしてしまって…」

「いや…気にしなくていいよ」


やっぱり、こいつは早とちりしてしまうクセがあるようだ。


 そういえば、こいつ、名前何っていうんだろう?訊いてなかったな。


「…ところで、名前は…?」

「名前?私のですか?そういえば、言ってませんでしたね。私、アルフっていいます。兄はカルムといいます」

「じゃあ、これからよろしくな、アルフ」

「べ、別に、よ、呼び捨てで呼んで欲しいとか…言ってませんけど…」


照れ隠しってやつか。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


アルフは、顔をさらに赤くして、言った。


「圭人さん…!」


俺は笑った。高校に入ってからは、一度も他人に見せたことのない笑顔で。

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ニンゲンと魔獣の境界線 宙野 実来 @mikurun

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