DEAD PANDEMIC
梶倉テイク
死は感染する
当たり前、 世間的 、常識的、尋常、普通。
そんな言葉で表現される事柄。それは世間的に広まった法則と言い換えてもよいもの。
それらは世界を回す事象そのものだ。
当たり前というのは重要である。
なぜなら、現実は当たり前の積み重ねによってできているからだ。
具体的な例をあげた方がわかりやすいだろう。
例えば、日常的に誰もが剣や鎧などという武具で武装していたとする。
現代日本で考えると、それは異常事態だということがわかるだろう。
平和な日本においてそんな過剰すぎる防具に武装をしているなんてあきらかにおかしい。
必要もないのに、そんなことをしていれば不思議がられるか、警察に通報される。
だが、もしもそれが当たり前だとしたらどうだろうか。
誰もが意味もなく鎧を着て、剣を持っている世界であったのなら誰も疑問を抱かないのではないだろうか。
もし死人が立って歩いたのならば、それはおかしいことだろう。
死人に口はなく、亡者は立ち上がらない。
しかし、常日頃から死んだ人間が立ち上がって歩いていたとしたらそれは日常だ。日常ならだれもそれに疑問を抱かない。
誰もが超能力を持っていたとしたらどうだろう。
誰もが自由に空を飛び、炎をなんてものを操り、超常的な現象を引き起こすことができたとしよう。
そうなれば、誰も超能力という者を持っているということに疑問を抱かない。
だって、それらは当たり前で普通の事だから。
普通のことなら誰も疑問に思わない。そもそも疑問にすらならない。
当たり前は常識的で、世間的で、尋常で、普通である。
たとえ、それがどんなに異常事態であっても、尋常でなかったとしても、当たり前なら誰も疑問すら抱かない。
何度も言うがそれは当たり前なのだ。
当たり前すぎることに誰も疑問を抱かない。
それを普通だとして享受する。
だから当たり前というのは世界を形作る法則なのだ。
この世界の当たり前はこうだ。
――
死者に近づいた者に一定時間後に死が発現する。つまり、死者に近づいた者は死ぬのだ。
対処法は一つ――
ゆえに、死にたくなければ犯人を死の感染源を見つけなければならない。自分が死ぬまえに。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日、俺の目覚まし時計はなぜか一時間ほど早く設定されていた。
自分でセットした記憶はなく、偶然だった。昨日、起きた時に弾みでセットされたのかもしれない。
ともかくその日、俺ははいつもよりも一時間は早く家を出た。
一時間早く起きたことには気が付いていたし、いつもの時間に家を出ることもできた。
けれど、俺はその日は早く家を出ていた。
なんてことはないほんの気まぐれだった。そんな時もある。この日は、そんな気分だったのだ。
いつもよりも人通りの少ない通学路を歩いて、やはりいつもよりも人のいない下駄箱を通り過ぎて、教室の前に行く。
何らおかしなところなどないはずのそこで、俺はクラスメートの女子がへたり込んでいるのを見つけてしまった。
俺はその時点で嫌な予感を感じた。
具体的に言えば、酷いことになるという予感。
いつもよりも早く家を出た。そういう気まぐれは大抵の場合良い方向にはいかないものだ。
どうかこの嫌な予感が当たらないことを祈っていたのだが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。
へたり込んでいる女子がひたすらにおびえた様子だからだ。
「どうかしたのか?」
俺の問いに、青ざめて酷く怯えた様子の女子は震えながら教室の中を指さした。その中に彼女が怯える原因があるのだろう。
嫌な予感がするが確かめないわけにはいかない。俺は意を決して教室の中を覗き込んだ。
「あー、そういうことですか……」
朝日が窓から差し込む教室の中には死体があった。赤い血だまりの中に沈む死体だ。
「ああ、クソ」
この時、俺の中にあったのは、しくじったという思いと、面倒だという思いだった。
なぜならば、これから始めなければならないのだ。
「きゃぁ!?」
「はぁ……」
じゃらじゃらと鎖の音が鳴りびびき、俺と彼女は教室へと絡めとられるように押し込まれてしまう。
そして、いつの間にか教室の真ん中に置かれているタブレットによる6時間のカウントダウン。
廊下側の窓から外を見れば、そこにはペスト医師のような集団が廊下と教室を封鎖していた。
教室はすべてロックされ出ることはできない。
「――犯人当てをしなくちゃいけないのかよ」
朝から犯人当てとはツイていないが、見つけなければ死ぬのだ。
このカウントダウンが終わるまでに見つけなければこの死体の死によって感染した、死が発症し、俺と彼女は死んでしまう。
「さて、やるしかないか。おい、生き残りたいだろ。手伝えよ」
一人でやるには少々面倒だ。
だから、二人なのは都合がいい。クラスメートではあるものの、名前も知らない女子であったが使えるものは使う。
「うん、死にたくない、えっと――
「ああ、だが、なんで、俺の名前知ってるんだ」
「クラスメートだもん、覚えてるよー」
「俺は覚えてない」
「うそ!?」
「なんでそこで嘘をつかないといけないんだ」
そもそも四月にクラス替えがあったばかりである。昨年、同じクラスであったクラスメートならまだしも、今、目の前のこの女は別のクラスだった。
仲のいい友達なんぞ未だにいるはずのない俺がクラスメートの名前、それも女子の名前なんぞ憶えているわけがなかった。
加えて男子の名前も一切覚えていない。
単純に興味がないし、先生の采配か、それとも奇跡が成せるのか俺が親しくしていた奴らは軒並み別のクラスだ。
よって今現在、俺がこのクラスで名前を憶えている奴はいないということになる。
そもそも、覚えているこいつがおかしいのだ。なんというか、馬鹿というかアホの娘っぽい見た目しておいて意外に記憶力は良いらしい。
ただ、さっきまで死体見て怯えていた様子だったのが、異常事態に陥って一周回って冷静になれているのは手間がなくて助かる。
「えっと、じゃあ私は
「はいはい。そんなことよりさっさと死の感染源を見つけるぞ」
「はーい! それにしても恭平君って慣れてるね。こんな状況じゃふつうパニックになっちゃうよ」
――馴れ馴れしいな……。
「……初めてじゃないからな。それを言うのならおまえもだろ」
「んー、私? なんか死体見つけた時は、驚いちゃったけど、今は、なんだか落ち着いてる。というか――なんか楽しい? ような、そうじゃないような? なんだろ? わかんない?」
「おまえ、
死体を見つけて犯人を当てなければならない状況を楽しいという。明らかにふつうではない。
「ちょ、酷いー、こんな乙女を前にして」
「おまえのいう乙女ってのは普通、死体なんてもの見たら悲鳴あげて気絶くらいするだろ」
「いつの乙女それ!? 今時の乙女はこれくらいじゃ気絶しないよ!?」
……今時の乙女って死体見ても気絶しないのか。
だが、ぽんぽん気絶されても困るから構いはしないし、目の前の月山という女がおかしいのは間違いないはずだ。
こういう状況で落ち着いていられる人間というのは頭のネジが何本かぶっ飛んでいる連中なのだ。
そして、往々にしてそういう連中はこういう事件に巻き込まれやすい。
――この俺のように……。
なんてことは口には出さず、犯人を見つけるための情報を見つける方に注力する。
まずは死体を観察する。
死体を観察するのは犯人当ての基本だ。
どういう風に殺されているのかを確認すれば犯人像を見ることができる。死体というのはそれだけで死の感染源の性格が出るのだ。
死体は後頭部がへこんでいる。おそらく何かで殴られたのだろう。背中にはそれ以外におかしなところは見受けられない。
死体をひっくり返してみるが、やはりほかに外傷はない。後頭部を殴られたことが死因であることに間違いはないようだった。
「死んだのは担任の…………」
――名前は何だったか。
喉に魚の小骨が刺さった感じに悩んでいると、月山が死体の顔を見て呟いた。
「金山先生、いい先生だったのに」
「そんな名前だったか」
「え!? 恭平君、先生の名前忘れてたの!?」
「いや、知らなかった」
忘れていたではなく、普通に覚えていなかった。四月に名前を聞いたような気がするが、覚えていない。二年になって初めて担当になった先生だ。
一応、クラスでは評判がいいという話を月山が話していたが、興味のないことはいちいち覚えていない。
これが美人の女教師で眼鏡のお姉さんとかいうのだったら覚えていたのだが、ただの男。
それもイケメンだ。覚える必要など皆無だろう。
それは月山にも言える。背は低いし貧相な体つきだ。いったい何を食べているのか、ちゃんと食べているのか不安になる細さだ。
ただ全体としてスタイル自体は悪くない。バランスはとれている。腰がくびれているのは高ポイントだ。
きちんと見てみれば顔も悪くはないが、如何せんアホっぽいのが何とも言えない。好みじゃないのは変わりそうになかった。
――どのみち死の感染源を見つけないことには、意味ないんだがな。
そんなことを考えていると、何やら月山は俺の言い分が気に入らなかったらしい。
「恭平君、駄目だよ! もっとクラスのことに目を向けようよ! 高校の輝かしい青春はこの一回だけなんだよ!?」
――こいつは俺の母親か? なんでこいつにそんなことまで気にされなければいけないんだ。
「知らん。言わせてもらうが、その青春の一ページとやらは、おまえのせいで血塗られてしまったぞ、どうしてくれる」
「え、ええとぉ……それはぁ……」
目をそらす月山。
少し楽しくなったので、追撃する。
「あと六時間で死の感染源を特定できないと俺もおまえもお陀仏だぞ、どう責任をとってくれるんだ」
「責任は、その、ごめんなさい。でも、私のせいって言われても、私が来た時にはもう死んでたんだもんー。それに私のせいじゃないよー。私は殺してないよー!」
――そうだろうな。
月山が一緒に隔離されているということは、第一発見者だからということになる。死神はそこを間違えることはない。
だから、この月山という女は必然的に死の感染源ではない。
「さて、凶器は、完全に教室に隔離されたのなら、ここにあるんだろうな。もし学校内なら学校全体が封鎖されているはずだし」
「ちょ、スルーしないでよー。そっちからふってきたんじゃーんー!」
背の低い月山が背中側から腕を振り上げてぽかぽかと叩いてくるが無視する。そこらへんの力加減はわかっているのか、全然痛くない。
背を向けていればいい感じに肩を叩いてくれる感じで気持ちがいいほどだった。そんな肩たたきを受けながら凶器を探す。
「ねえ、どうして金山先生は殺されたんだろう」
凶器を探してロッカーの中などを見ていると、月山がそんなことを聞いてきた。
「動機か?」
「そう。動機が分かれば死の感染源が特定しやすいんじゃないかなって」
「そうだな、考えたいなら考えてみたらいいんじゃないか。俺は凶器を探す。おまえは考える。役割分担だ」
二人で何かをやりながら考えるよりも、一人ひとり別々に集中した方が効率が良い。
幸いなことに狭い教室の中だ。ひとりで探すのもふたりで探すのもさほど変わりはない。ならばひとりは考えてもらった方が効率的だ。
「えー、ひとりじゃ難しいから一緒に考えてよー。ねーえー、お願いー」
「……はぁ、わかったよ。それで、どんな理由だと思うんだ? ちなみに怨恨じゃないぞ」
「えんこん?」
「そんなことも知らないのか。ホントに高校生かよおまえ。怨恨ってのは、恨みのことだよ」
「なら恨みって言ってよ。……どうしてそうじゃないって言えるの?」
「どうしてって――」
死体の状態がキレイだったからだ。
普通、憎い相手を殺すと死体を損壊する。今回なら凶器であろう何らかの鈍器で何度も何度も殴るはずだ。
恨みというのはそれだけ根深いものだ。
恨みから、殺すとなれば、相当に深い恨みになるのは想像に難くない。
それほどの深い恨みともなれば殺して、はい、終わりというわけにはならないはずだ。
恨みは怒りという感情に直結しているから怒りに任せて殴る。何度も何度も殴る。そして、相手が動かなくなってから我に返る。
御しがたく、一度溢れだせばもう止まらない。殺しただけでは飽き足らず、ぐちゃぐちゃにして恨みが発散されるまで殴るだろう。
だが、この死体にはそれがない。つまり恨みによる殺人ではないということ。
普通の殺人を装ったということも考えられなくはないが、その可能性はきわめて低いだろう。
犯人を特定されやすい教室で殺し、朝に発見。その流れからも計画された殺しというわけでもない。
十中八九突発的な殺人。
だからこそ、そんな突発的な殺人を起こした奴が普通の殺人に偽装して、怨恨の線を消すなどということに目を向けるはずがない、というのが俺の予想だ。
無論、それも全て俺の予想であって事実かはわからない。
実際、用意周到な奴なのかもしれないが、そんな奴が同じクラスにいた、というのはご免被りたい。
あるいは、まったくの無差別で教室にいたから殺したのかという線もあるにはある。
しかし、死体の状態が教室の出口に頭側を向けてうつ伏せに倒れていた。それはつまり、教室から出ようとしたところを殴られたということ。
突発的に教室の中にいた金山を殴り殺したのなら、金山の頭は窓側に向いていなければおかしいのだ。
動かしたという線もない。
頭の傷は血がそれなりに流れてくれる。そのおかげで動かしたらわかる。血はふき取っても痕跡が残る。
調べたところ動かした形跡はなかった。そのおかげで、突発的な殺人という一番最悪なケースは除外できる。
「んー、それなら、恋愛がらみとか?」
「恋愛?」
「そー、教師と生徒の禁断の恋! とか」
「いつの時代の話してるんだよ」
「えー、でも定番じゃない?」
「現実と空想を一緒にするなよ」
そう否定したもののありえない話ではない。
本当に恋愛かはともかくとして、血の具合とかからこの金山が殺された時間は、放課後から翌朝の間であることは確かだ。
そんな時間に教師が教室にいた。それはつまり誰かに呼び出されたのではないだろうか。
そして、立ち去ろうとしたところを後ろから襲われた。それならば争ったあとがないこともわかる。
「じゃあ、聞くが、最低でもうちのクラスのやつに教師に好意を持ちそうなやつはいたのか。告白しそうな奴だ」
「んー、そうだなぁ。暁美ちゃん、穂乃果ちゃん、小夜ちゃん――」
「誰だそいつら」
「みんなクラスメートだよ!?」
「聞いたことがない」
「どんだけ興味ないの」
「いや、女には興味がある。だが、俺が覚えていないということは体つきが貧相だということだ」
俺の好みはナイスボディの年上だ。
同級生は対象外だから必然的に覚えていないということ。
ただし、良い体つきのやつは覚えているので、覚えていないということはそういうことなのだ。
「うわぁ……」
「なんだ、男なんてそんなもんだぞ」
「恭平君ってこんななんだ。もっとクールかと思ってた」
「俺だって男だ。女の身体に興味がある」
「なんかさっきよりひどい発言な気がする……はぁ。でも、みんな先生を殺せるような子たちじゃないよ。かっこいいとは言ってたけれど呼び出して告白とかする子じゃないし」
「だろうな――おっ」
月山の発言の同時に凶器を発見する。掃除用具入れの中、箒の後ろに紛れ込ませるように置かれてある木製の棒状のもの。
野球のバットだ。調べてみても部活や高校の備品であることを示す印はない。備品であれば、学校の名前が印字されている。
つまりこれは、野球部のものでも高校の備品でもないということ。自前のもののようだ。少し期待したが名前は書かれていない。
「やっぱ、楽にはいかねえか。だが、凶器があるのは良いな。わかりやすくていい」
「ほえ? なんで?」
「死紋ついてるからだよ」
「しもん?」
「死の紋と書く」
「指じゃないんだ」
死紋。
それは死の感染源が残す足跡のようなものだ。死の感染源が触れたものに残っていていろいろな情報を教えてくれる。
俺は、落っことしていた鞄の中から手帳を取り出す。
黒い革の手帳で古びているそれを見て月山が、なにそれと首をかしげる。
「何それ?」
「秘密道具」
「秘密道具?」
「そうだ、死紋の情報の読み方が書かれてる」
「なんでそんなのもってるの?」
「貰った」
「誰に?」
その質問だけは無視して残っている死紋を見る。
死に感染すると見えるようになる死がこれによって移った証。
「ええと、性別は……男か。体格がいいな。まあ、野球部だろうから当然か」
「ねーえー、どう? わかった?」
「だいたいな」
「それで、誰?」
「知らん。だからそれをこれから調べる」
「どうやって?」
これだと教室の真ん中の机の上に置いてあったタブレットを手に取る。カウントダウンを刻むタブレット。それを操作すると情報を見ることができるのだ。
用意が良いことに死神の連中が置いて行くのである。これによって必要な情報を調べて死の感染源を探せということなのである。
「まるでゲームみたい」
と月山が呟いた。
「同感。まるでゲームだ。命がけだけどな」
「うん、頑張って生き残らなきゃ。で、うちのクラスの野球部の男子でしょ? 誰? というかどうしてなんだろうね」
「こいつだな」
どいつもこいつも同じハゲ頭にしかみえない野球部の連中のひとりを指さす。
「体格も大体一致した」
「でも似たような人いっぱいいるよどうして?」
「そこはおまえが言った通り恋愛がらみだったってことだ」
「ほえ?」
俺が指さしたクラスメート、それは
個人情報などあってないような様々な情報。どうやって調べたのか股間のサイズまで載っているんだから怖いものだ。
それは良いとして、見るべきは趣味嗜好だった。能登仰木。趣味野球。
そして、男色。
「ほぉおお。そうなんだ! そういえば、確かに仰木君って先生と仲良かったような。っていうか、これスリーサイズまでわかるよ!?」
「みたいだな」
「エッチ!?」
「だれも女子の情報なんてみてねえよ。それにこの情報を悪用とか盗んだりすると死神に連れていかれて頭いじられたり人体実験されるらしいぞ」
「うえぇぇ!?」
「だから、俺はすべて覚えることにした。女子のスリーサイズをな」
「変態じゃん!?」
「俺だって思春期の男子だぞ。クラスの女子の裸を誰に憚らず見れるこのデータはお宝でしかない。今のうちに脳裏に刻み付けておくのが正解だろう」
「興味ないっていったばっかじゃん!?」
「アホか。女子の裸だぞ。確かに好みではないが、女子の裸というだけで高校生男子にはお宝なんだ」
女子の出席番号一番から閲覧しようとしてタブレットを取られた。月山は意外に力が強い。
「駄目です! それに死の感染源がわかったんでしょ」
「はぁ……」
「溜め息つかない! 幸せが逃げるよ!」
「確かに俺の幸せはおまえが逃がしてくれたよ」
「もう! で、どうするの?」
「はぁ。死の感染源が分かったのならタブレットの、そいつの欄の最後に確定ボタンがあるからタップしろ」
「簡単だね。でも本当に合ってるの?」
「それは死神が確認してくれる」
もう一度タブレットを奪ってさっさと確定ボタンを押す。それから数十分後、カウントダウンが停止し、死神がぞろぞろと入ってきた。
「え、なに、なに!?」
「ついて行け、これから除染だ」
「除染?」
「死の除染だ。ああ、そうだ。こいつらには男女の違いなんてないから」
「へ?」
死神の特殊車両に放り込まれる。その時に、俺と月山は全裸に剥かれた。
「にゃー!?」
「貧相だなー」
「エッチ、変態、こっちみんなー!?」
「馬鹿か。何度も言うが男の前に裸があれば見るに決まっているだろう」
「好みじゃないんでしょー!?」
「確かに好みじゃない。だが、思春期の男にとって女の生裸があれば勃起してくださいと言っているようなものだ」
「そういうこと大っぴらにいうことじゃないよ!?」
「安心しろ、すぐにそういうこともできなくなる」
「ほえ?」
そして、除染が始まった。
「うえええ、酷い目にあった、まだ世界がぐるぐるするー」
「……」
除染は人間洗濯機みたいなものだ。謎の液体につけられてぐるぐる回される人間洗濯機。本当、酷いものだった。
それですっかりと暗くなるまで拘束される。六時間を過ぎても死が発症しないことを確認して初めて除染が完了したとして解放されるのだ。
「本当に死の感染源だったんだね仰木君が」
「そうじゃなきゃ今頃、俺たちは死んでる」
「動機はなんだったんだろうね」
「知らんよ」
本当に、能登が金山にただならぬ恋心を抱いていたとして俺たちになんの関係があるというのか。
重要なのは無事生き残ったことだろう。
「なら、それでいいだろ」
「そっか」
今日も生き残れたそれで十分だ。
「というか、いつまでついてくるんだ」
「え、だって私の家こっちだし」
――同じ方向かよ……。
「はぁ」
なんだかこの女との付き合いが長くなりそうな嫌な予感を感じた。
そして、それは的中してしまうことになるのだが、それはまた別の話。
DEAD PANDEMIC 梶倉テイク @takekiguouren
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