第6話恋する俺は学校の相談屋 最終章②
「西条さん……悪いけど、はっきりとした結論は出なかった。」
俺は彼女の顔を見て言った。
彼女は俯いていた顔を上げ、
「そうだよね……。わかんないよね、やっぱり…………。」
笑顔で優しく言ってくれた。
馬鹿だな……声震えてるのわかってるよ。
「ごめんね……無理な相談して……ほんとうに———」
「西条さん、俺君のことが好きだ。」
そこで俺は彼女の声を遮って言った。
まだ俺の結論は言い終わってない。
「え……?え………??」
突然のことに彼女は当然驚いていた。
でも間は挟ませない。ちゃんと最後まで言わないと。
「最初は進路をとるよう言うつもりだった。それは必ず君を裏切らない結果だからさ。恋はもしかすると君を裏切るかもしれないからさ…」
「………」
「でも俺ここに来て変わった。やっぱり俺は西条さんのこと、好きなんだ。この気持ちが人を裏切るなんて、とても思えない。高校生だからそう思うかもなんだけど……だから俺は君にちゃんと恋をしてほしい。
周りの期待に応えようとして恋を捨てるなんてそんな君を見てられない。
たとえ何を言われようと、時間がどんなに少なくても、見えない先が不安でもちゃんと好きな人に好きって言ってほしい。限りある時間を一緒に過ごしてほしい。もしそれで相手が君と付き合うのを断ったら、その時は俺の所に来なよ。
冴えない男かもしれないけど、絶対裏切らないから。だからさ…………」
視界が歪んで来た。
前を見てられない。
俺は窓の外の方を向いて、最後の言葉を言った。
「…………ちゃんと、恋しなよ。」
もう涙が抑えれなかった。
ダメだ。
かっこ悪すぎる。
彼女は今どんな顔をしているだろうか。
そう考えていると、背中に優しい涙声がかかった。
「かっこいいね、鍵谷君は………。そうだよね。私は逃げてた。秤にかけてどっちかを捨てなきゃダメだってずっと考えてた。どっちかを捨てる必要なんかない。
両方とる努力をしてみなきゃ、わかんないもんね。」
そこで笑顔だった彼女は言い終わると顔を手で覆った。我慢できなくなったのだろう。
「大丈夫だ。西条さんなら出来る。」
俺は自信を持って言えた。
だって彼女は完璧超人だから。
俺の好きな人だから。
そして落ち着いた彼女に、改めて言われた。
「ごめんなさい、鍵谷君。私には今好きな人がいます。
……でも鍵谷君の想いを無駄にしないように、好きな人に全力で恋すること、
約束するよ。」
迷いのないこれ以上ない笑顔でフラれた。
俺も自然と笑顔になった。
彼女がいつも通りに戻った。
文句一つないことだ。
「ああ、わかった。頑張ってな。」
彼女は一つ大きく頷き、
「本当に、ありがとう。」
そう言ってから、部室を去っていった。
一人になった俺は、小綺麗な部屋の椅子に腰掛け、目を瞑った。
ふぅ……。
今までで一番疲れたな……。
いろんなことあったな。
西条さんの泣く姿を見たのも
母を尊敬したのも初めてだった。
あの人にはっきり言ってもらえなきゃ、俺も自分でしっかり意見と想いを伝えられなかったかもしれない。
告白したのも、フラれたのも初めてだった。
もう彼女が部室に来ることはないだろう。
証拠はないけど、なぜか俺はそう確信している。
でもそれでいい。本音は言えた。
「ちゃんと恋しなよ」なんて、クサくてダサいけれど。
実らずとも、叶わずとも、俺はちゃんと「恋」をした。
ああ………やっと全部終わったんだな
彼女の相談も、俺の恋も。
でもこれから変わらず終わらないものがある。
恋を犠牲にしても、変わらずやらないといけない事が。
俺はそこで目を開け、気持ちをそのまま声にした。
「ああ……やっぱ仕事って嫌だな………。」
心から嫌悪を含んだ声が消えるその瞬間、部室のドアがノックされた。
コキコキと肩を鳴らし少し伸びをする。
さて…次の来客は誰だろうか。
恋する俺は学校の相談屋 ミロク @Sky-hand-dantyo
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