見習い巫女素子の憂鬱

810929(羊頭狗肉)と申します。皆様

第1話 『わいざつのワイはWだが、聖地が焼き場だかわからないんダガー』

 先輩の祷山智子は神和ぎ(かんなぎ)養成所のエリートの巫女で、私宮川素子はその後輩である。先輩は既に養成所を卒業したがその力に見惚れて私は先輩に弟子入りを申し込んだ。早い話現在は見習い中の私は今日、見習いになってから初めての実践で即ち除霊を直前に控えさっきから震えがとまらなかった。

私と先輩はとある秋葉原の、閉鎖された商業ビルに来ていた。

 とある筋から

幽霊が出るという噂で解体工事が止まっているのでお祓いやお清め、噂の検証を依頼され


「先輩、ホントに裏、取るんですか」

「うん、幽霊の目撃情報が独り歩きしてるからな」

「それってこわいですよね」

「確かに、世の中には風評被害目的の噂好きが多い」

「SNSに出回れば炎上必至だろうことは間違いない。そうなれば廃墟好きのバカがワラワラと群がりこれ幸いと退屈しのぎのイベントにするだろう。いずれにせよ人騒がせな連中だ」

「「目撃情報が夜な夜な独りでに歩いていたとか考えただけでゾッとします」

「おい」

 青ざめた顔で先輩が見る。

「おい」

「はい」

「お前じゃない、あれを見ろ」

 誰もいないはずの元商業ビルの8階の、部屋の入り口、その窓に人影が映っている。

「ものすごい霊気だ。一人や二人じゃない大勢の霊の気を感じる」

「戦うんですか」

「いや、今の軽装では相手にするとまずい」

「開けてみましょうか」

「そこは普通開けないだろ」

「どうしましょう先輩」

「慌てるな。汗をかかずに裏をかく」

「あ、いいかも、そのフレーズ好き」

「お前汗びっしょりだぞ」「ダイエットにもなりますね」「精一杯強がりを言ってその青ざめた顔じゃ説得力の欠片もないぞ」

 やはり噂だけではなかった。幽霊は確かに存在した。でも怯まない逃げない。私は決意したのだ必ず先輩のような巫女になると。

 先輩は祈祷の是非は今後判断すると決め、改めて出直すことにし、私たちは元商業ビルを後にした。まだ胸がドキドキする。エレベーターの降下する速度を表すように8,7,6,5,4,2とフロアを通過するボタンのイルミネーションが矢継ぎ早に灯る。早く一階に降りろ。だが、逸る気持ちに反してエレベーターのカゴ内部はずっとアイボリーのまま何も変化がない。。「ホントですか先輩」

「何がだ」

「複数の霊の気配を感じたって」

「うん。とゆうか既に事実上霊の通り道だね、あそこは」

「今度は本腰を据えてとりかからないと。こんな軽装じゃ無理だ」

「ジャージとスニーカーで山登りする山岳初心者みたいなもんだ」

一階に着いた誰もいない。玄関フロアに敷かれた茶色のタイルの格子模様が妙にくっきりと感じる。まるで閉じられた鳥かごの蓋のように。思いガラス製ドアの厚いアクリルで出来た取ってに手をかけ足を踏ん張って押し開けた。合図のように風が吹く。もう冷たい。この前まで秋だったのに。 コンビニの自動ドアを潜り、街路樹が赤茶に色づく歩道を歩く。

 留学生と思しき店員がたどたどしい日本語で手渡してくれたポリエチレンの袋に手を入れ、取り出したおにぎりを器用に資料を捲りながら智子先輩は手早く包装フィルムから海苔をご飯に巻きつけておにぎりをパクついた。モゴモゴと咀嚼して辿り着いた結論はこうだ。

「私たちだけでやるのは無理だな」

「ですね」

 私は最初から最後まで、というか未だに震えが収まらない。

 先輩は、「はい」 と一口齧ったおにぎりを私の口に押し込んだ。

 唇の震えを租借に変えて、先輩の配慮とともにそれを味わった。

「た、高菜のおにぎりの間接キス」

 嬉しさのあまり思わず独り言ちた。

 その味にすっかり気をよくし、修行のための英気を養った。

「先輩はすごいです、あの怪現象にまったく動じなかったんですから」

「この道長いしね。元々肝っ玉は太かったっていうのもあるかな」

「あれ、やっぱり殺されたビルのオーナーでしょうか」

「まだそうとは決まっていない。遺書のない自殺ということになっている」

「6年も前のことなんですよね」

「新しい証拠が出ない限り、このまま事件はオクラ入りを迎えるだろう」

「あの建物、取り壊しされそうな気がします」

「なぜだ」

「あそこに小さい鷲が止まっています」

「ほんとだ。モコちゃん、よく見付けたわね。でもそれがどうかした」

「鳥、小鷲 (とりこわし)」

「そこは手でツッコんだ方がいいのか」

「サッ」

「何で尻を隠す」

「わかりません。手でツッコミを入れるとき大抵頭を叩きますよね、頭隠して尻隠さずっていう愚か者の例えが思い浮かびまして」

 

 翌日、霊とコンタクトを取るべく再び元商業ビルを訪れた。

「先輩、気が付いたら電気のスイッチが入ってる!」

「それは十中八九、いや間違いなくお前の消し忘れだから」

 どこからか声がした。

「そこは手でツッコむところだろうが」

「先輩お酒入ってるんですか」

「私は巫女だぞ。そして今日は霊媒に来ているんだぞ」

 その声の主は若い男の姿として目の前に実体化した。

「だから、十中八九要らんねん。いや間違いなくも要らん」

「誰ですかあなたは」

「誰ですかて、君らはわしに会いにきたんやろが」

「じゃあなたは、自殺したビルのオーナー」

「ちがうちがう。何でや、何でそうなるねん。わしは大阪から出てきたんや。大阪弁しゃべっとるやろうが」

「先輩、彼は死んでることは否定しませんね。幽霊の自覚はあるみたいです」

「そんなんどうでもええねん。自分らのさっきのやりとりがアカン言うてるのや」

「え?」

「その相方が先輩、気が付いたら電気のスイッチが入ってる! いうたら頭しばいて早う消せでええねん」

「はあ……」

「続けてお前の消し忘れやろ! いうたらドッカーンと来るねん」

「はい」

「わしはな、東京出てきて、志半ばで死んだ漫才コンビの幽霊や。ホシモトて知っとるやろ」

「お笑いの殿堂の」

「そや。わしはあの日、このビルの屋上で相方待っとったんや」

 先輩は清めの塩を振って本気を出した。しかも顔に笑みを湛えながらだ。

 私はそれを秘かにマジモードと呼んでいる。

「こら、何しよんねん。わしが消えてしまうやろが。まあこの程度やったらどもないけどな」

「そやったらいうな」

 つい手が出てしまった。

 幽霊の頭を手で叩こうとしたら掠っただけだったけど。

 智子先輩が目を丸くしている。

「自分ええツッコミしよんな。素質あんで。わし生きとったらコンビ組んだるねんけどな」

「モコちゃん、巫女やめてお笑い教えてもらったら」

「先輩、ひどい」

 再びマジモード突入の先輩。

 先輩はマジモードに入ると逆に優しくなる。

 ていねいな言葉遣いになる。

 今度は成仏のために霊と向き合うに違いない。

「亡くなったときの詳しい状況を教えてもらえますか」

「そんなん聞いてどうすんの。もう事件は終わったし、わしはもう生き返らへんし」

「除霊が生業ですので、悪しからず。それにあなたも悔いが残り、未練があるかも知れませんが、このままでは成仏できません」

「悔いが残るてか、相方を助けてやれんかったのが未練ちゅうたら未練やな」

「てかお前さっきから何しとんねん」

「珍しくて、つい」

「ついやあれへん。体すり抜けるからゆうてツッコミばっかしとるやないか」

 幽霊はそう言いながらうれしそうだった。

「せや、あの日も屋上で相方待ちながらネタの練習しとったんや」

 遠い場所でも見るように彼は思い出をふり返った。

 すると思い出したようにひとりでネタをやり始めた。

「よし帰ろ。ここの蕎麦ほんま美味かったな、ほないこか、おっちゃんナンボや。おい、何で黙っとんねん。へ? へ? やあらへん、人が一緒に蕎麦食うて帰ろいうたら、ここは出しまっさかい今度出しとくなはれとか、タクシー代のとき出しとくなはれくらいいうやろが普通。いやすんまへん、あんまり美味いもんやさかい食べ過ぎまして。それがどないしてん。腹が痛かったんですわ。腹痛かったぁ? 払いたかった、もうええわ! ありがとうございまっしたあぁ~」

「そやったらいうな」

「ええわ今のツッコミ。相方思い出したでぇ。また頼むわ」

「お前はラフランスや!」

「何て? ラフランスて洋ナシ、用なしか。面白いな自分」

 急に霊の放つ仄かな光が衰えてきた。

「どうしはったんですか」

 気が付いたら話し方まで幽霊の漫才師の人みたいになってきた。

「あの時屋上で相方待ってるいう話はしたな。あの日や、忘れることはあらへん」

「あの日って」

「そこのとこに交差点あるやろ。あそこにトラックが突っ込んでぎょうさん犠牲者が出たいうニュース、覚えてへんか」

「あの事件に何か関わりがあるのですか」

 先輩の表情が夕日を映してとても悲しげになった。

 この表情になれば除霊に半分成功したも同然だ。

 それくらい、迷える霊は心を開いている。

「相方から電話来て携帯が鳴ったんや、何か通行人が次々死んでいくゆうて」

 リアルに忌まわしい事件を思い出す。あの犯人は今何をしているのだろう。

「行けへんかったら済まんなゆうてな。何心配しとんねんアホ、今そこへ行くさかいそれまで待っとけいうて急いで1階へ下りた」

 人は、どこをどう間違えたらあんなに大それたことができるのだろう。

「警察が止めるねん。何で止めんねやいうて、そしたら人ごみの中でアイツが寝とるねん。苦しそうに寝とるねん」

「救急車早よう呼んでくれ、何しとんねや、人一杯で来れへんて、そないぎょうさん人おる中で何で相方が刺されんなんねや」

「気ぃ付いたら病院運ばれとってん。急性アルコール中毒やいうてな。家族呼んでくれいう医者の話聞こえてくんねん。それ聞いてた頃には、何や高いとこから見てたなわし、自分の体を」


「成仏て何やねん、成仏して何になんねん。ワシは相方と漫才したいんや、そやけど死に方が違うたんかいまだに会われへんねん。アイツかてワシと気持ちは一緒のはずなんや。そやしどっかで迷うてワシを探しとるはずなんや」

 幽霊の漫才師の人は消えてしまった。

 除霊は失敗した。

「仕切り直しね。何か、あの人のネタ見てたらお蕎麦食べたくなっちゃった」

「先輩、じゃ一杯引っ掛けにいきましょうか」

「モコちゃんいい店知ってる?」

「くるときちょうど私達にピッタリの店を見付けました」

「券売機のとこは嫌よ」

「どうしてですか」

「お金を細かくしてお勘定のときに時間を聞いてみたくなったのよ」


 結局、ビルは取り壊しが決定した。

 これでオーナーの死因が自殺か他殺かを調べることはできなくなる。

 証拠が出なくても、霊に会うことができれば、直接聞くことができれば真相は明らかになるけども。


 しかし、今度は新たな問題が起きた。

 解体作業中に事故が起こったのだ。

 工事に入った解体業者が幽霊の姿を目撃したという。


 そんなこんなで先輩と私は再度除霊に向かうことになった。

 今度は、先輩は正装として巫女装束をまとい、霊を封印すべく各種道具を携えての

「君たち、ここで何をしているのかね」

 紺色の制服を着た男が声を荒げた。

 警察かと思ったら警備員だった。

 警察ならこのビルに入っている私達を咎めることはできる。

 だが、男は警備員だ。

 廃ビルに警備員というのはどう考えてもおかしい。

「君たちはコスプレをしているのか、しかしやっていいことと悪いことがある。場所を選びなさいここは立入禁止だ」

 先輩の巫女装束をコスプレなどと許せない。

 どこの馬の骨かもわからない相手に啖呵を切った。

「そういうあなたもコスプレじゃないんですか。ここは廃墟だし、警備員がいるなんてどう考えても変よ」

「君、口を慎みなさい。大声も出すな。でないと後で色々と困ることになる」

「大声出されたら困るのね」

「モコちゃん、やめなさい」

 先輩が制する。先輩の巫女装束は袖が切られ、二の腕から下が露出している。

 何が起こったのだ。

「先輩! それ」

「あれも霊よ。それも怨念のこもった」

 男の霊が刃物で切ったのか。でも凶器が見えなかった。

 しかし、女に刃を向ける卑怯なやつに怯んではいられない。

 ここは度胸の見せどころだ。

「誰が涼しゅうしてくれいうて頼んだんや、2万に負けとくわ」


「金とるんかい。お前おもろいボケかますなぁ」

「また新しい霊が出てきた」

 先輩がふり向く。後ろに青年が立っている。

「そいつの手に持ってる武器は暗かったら見えへん。気ぃつけや」

「どなたですか」

「幽霊にも模倣犯ておるねやな。ダガー振り回されて俺が出て来うへんかったらシャレにならんやろ」

「あのうもしかして」

「ん?」

「あの事件のとき漫才師やってた人と違いますか」

「何や、何で知ってんねや」

「相方の人があなたに会いたがっています」

「ホンマか!?」

「一緒にネタやりたいってあなたのことを探してます」

 幽霊の漫才師の目から大粒の涙がポタポタと落ちる。

 ものすごく早いもらい泣きで私の目にも涙がたまる。

 なんでこんな人が死ななければならないんだろう。不条理にもほどがある。

 漫才師の人はずいと前に出た。

「お姉ちゃんら、ここは俺に任しとき。危ないさかい後ろ行っとき」

「でも」

 ためらう先輩に軽く首をふり、彼は自分の立場を示すように言った。

「アイツのは逆恨みや」

 10歩ほど歩くと、漫才師の人は警備員の霊と対峙した。

「あの娘らに手ぇ出すな。それとここから出て行け」

「私にはこのビルを警備する義務がある」

「ここは取り壊しせんなんねや。お前が出て来て邪魔されたら具合悪いねん」

「私はこのビルを警備する職務を負っている。死んだからといってそれを放棄するわけにはいかない」

「何を偉そうにいうてんねん。お前は生前警備員クビになっとるやろ。備品パクったりしたらしいやないか」

「なぜそれを。どこで聞いた」

「このビルの死んだ持ち主が教えてくれたんや。お前、そのカッコで信用させて客の女子高生レイプしたてホンマか」

 先輩の目に火が灯った。

「モコちゃん、何とかしてあの漫才師の人の霊を警備員の霊から離して」

「先輩、やるんですね。わかりました。任せてください」


「よぅし帰ろかぁ」

 漫才師の人の霊がふり向いた。 

「ここの蕎麦ほんま美味かったな、ほないこか、おっちゃんナンボや」

 漫才師の人の霊はきょとんとしている。

 警備員の霊を睨みつけ、鋭かった目がどんどん丸くなっていく。 

 私はさらに続けた。

「おい、何で黙っとんねん」

 もう一度振った。

「おい、何で黙っとんねん」

 そこで、初めて食いついて来た。

「へ?」

「へ? やあらへん、人が一緒に蕎麦食うて帰ろいうたら、ここは出しまっさかい今度出しとくなはれとか、タクシー代のとき出しとくなはれくらいいうやろが普通」

「いやすんまへん、あんまり美味いもんやさかい、つい食べ過ぎまして」

「それがどないしてん」

「腹が痛かったんですわ」

「腹痛かったぁ?」

「そやから払いたかった」

「もうええわ!」

「お姉ちゃんこのネタ」

「相方の人が、最後に練習したって言ってました」

 視界が涙でぐちゃぐちゃになってゆく。

 おそらく漫才師の人の霊も同じだ。


「なんや自分、ここにおったんかいな」

「矢口、元気やったけぇ?」

「アホ、元気なことあるかい、ツッコミのお前がボケてどないすんねん柳原」

「すまんすまん。せやけど会えてよかったわ。俺、死に方が違うたさかいな」

「なんか迷い方にもいろいろあるみたいやな。自分死んでどないや」

「う~ん、未練あるけど、この疎外感みたいのが結構ええ感じやねんなあ」

「そうなんか。悟りみたいなもんかな」

「せや、俺的にはプラスや。この世からはマイナスになってもうたけど、ええこともある」

「自分前向きやなあ」

「もう稽古せんでええしな」

「何やそれ、感心して損したわ。何や、稽古キツかったんかいな」

「お前のボケがな」

「あれか、レアチーズ稽古いうあれか」

「言い換えにも限度があるで」

「ケーキに例えたら、ちょっとは甘うなるか思たんやけどな」

「あのぉお二人さん、お願いがあるんですが」

「何や、いうてみぃ。できることやったら何でもやったるでぇ」

「せや。お姉ちゃんらは恩人やさかいな」

「せっかくですから、ここでネタやってもらえませんでしょうか」

「ネタか、おいどうする」

「俺は別にかまへんで」


「どうも~Wゴローでぇす。わしら中学の頃からの付き合いでコンビ組みましてん。わしが矢口五郎、んでこっちが相方の」

「柳原吾郎っす。俺ら2人とも一浪して高校入りましてん。気ぃ合いますやろ」

「名前ゴローで進学一浪、ダブるのんともかけてますねんで。てか漫才の練習してただけで仲ええこともなんもないやろ」

「死ぬほど仲ええやないか」

「確かに一緒の日に死んだけどな。アホ、一緒の日死ぬのんと死ぬほど仲ええの関係ないやろが」

「これも腐れ縁や」

「ええ意味で使いなや。せやけど最初のうちはみんなええ奴を失うたゆうてまわりが噂してくれよったけど」

「人の噂も49日やしな」

「それいうんやったら75日や! 間違えなや」

「俺ら死んでんで。49日ちゃうんか」

「4949 (シクシク) 泣いてくれとったなみんな」

「お前もボケるんかいな。まあええわ。噂いうたらな、お前葬式のときくしゃみしとったやろ」

「よう覚えとるなあ自分、そんなん覚えとらへんわ」

「何回くしゃみした」

「4回」

「覚えとるやないけ」

「いや、4回て縁起わるいなあ思て」

「もう死んどるんやさかい縁起悪いもくそもないやろ」

「ほんで回数がどないしたんや」

「いや、くしゃみの回数で人が自分にしてる噂がわかるちゅうねん」

「ほう、例えば」

「1回したらほめられとんねん。2回は悪い噂やな。3回やったら誰かに惚れられとんねん」

「4回は」

「ただの風邪や」

「風邪てか。もう死んでるねんで、風邪なん引くかい」

「よし、ほならせっかく死んだんやし、あれでいこか」

 2人は仕切り直した。

「相方亡くした話」

「どうしました」

「高度な 『被害者は誰だ』 いうゲームやらされてますねん」

「はい、いいですか、みなさん学校のプールに釣り糸を垂らしています」

「んなもん釣れまっかいな。それとツレいいひんのと、釣りだけに引っ掛けとんのかいな」

「そない飲み込み早かったら、孤独そうな顔して下さいね」

「あっはっはっはっは」

「モコちゃん早い、オチってどこなの」

「先輩、ボケ担当の柳原さんの孤独そうな表情が逆に面白いでしょう」

「そうなの」

「先輩あっちの感度はよくてもこっちの方は鈍いんですね」

「大きな声でいうこと、それ」

 私達の会話はコンビの二人に聞こえてしまったらしい。

「よっしゃ、次はアレや。あったらコワイもん上げてこか」

「あったらコワイもん。抑揚のない善がり声」

「怖いなそれ。モロ演技やないか。夫婦仲冷え切っとるんやないんか」

「直感的に操作できる金庫」

「金庫は複雑でええわ」

「バリウム、胃カメラの飲み放題」

「罰ゲームか!」

「胃を壊した人は半額」

「うわあ」

「カメラ目線の監視対象者」

「気付かれとるんやないか」

「素人が料理したフグの被害者は誰だ」

「明日の新聞に載るわ。死亡欄に」

「フルフェイスのカツラ」

「リヤタイヤズラすの上手くなりそうやな」

「死んだおべっかの上手かった部下のホメ殺し」

「何やそれ!呪われとるんやないか!いろいろ気ィ付けなアカンで」

「どうもありがとうございましたあ~」


「ほな、あれでいこ、カレータイマー」

「何やそれ」

「レトルトのカレーをチンする時間とかけましてウルトラマンの変身時間ととく」

「そのココロは」

「3分もせえへん」

「せやな。レトルトのカレー、湯煎やったら3分やけどチンしたらそない時間かかれへんもんな」

「せや。ウルトラマンかてテレビ見てたらカラータイマーの時間なんええ加減や」

「カレータイマーやな」

「やかましいわ」

「せやけど、怪獣かてええ加減やで」

「何でや」

「まともに組み合わんと逃げとったらそのうち不戦勝になるやろ」

「逃げるが勝ちや」

「背中からスぺシュウム光線当てたらええんちゃうの」

「それはアカンやろ」

「何でなん」

「そこは正義のヒーローのことやさかい難しいわ」

「せやな、子どもが真似するわな。卑怯な攻撃を小さいころから身に付けてまうわな」

「ほなら怪獣も自殺サイトに登録してたんやろか」

「やめとけてそのネタは」

「どうもありがとうございました~」


「モコちゃん、あの柳原さんがやった最後のボケ、あれ何かわかる」

「自殺サイトに登録していた女性に手を掛けた犯人の、むごたらしい事件がありましたよね」

「うん。それと何のつながりが」

「怪獣は逃げていたらそのうちカラータイマーの時間切れで助かるはずなのに敢えて立ち向かっていくんです」

「自殺行為だわ」

「もうおわかりですね。白けてしまいますよ」

「ああ、それで……」

「しかも事件の性質からタブー視されるべきなんですけど、それを別のあんな事件で亡くなったコンビの方がやることで、自虐的というか、皮肉を込めて自らの命で笑いを取りに行っているわけです」

「すごい」

「自分らのやり取りも大概面白いで。そのお姉ちゃん、ワシら死んだこと痛く悲しんでくれてんねん。そやし笑われへんいうのもあるんと違うか」

「キミ優しいとこあるなあ。俺ら死んでても沈まんよう沈まんようしてんのんを汲んで笑うてくれるやろ」

「いえ、私は……」

「人間て、ちょっと人と違ったことくすぐって面白うなる。そんなんで世の中みんな笑うていけたら、相方もあんな風に死なんでよかったかも知れへん」

「お前も死んでるんやないか。人ごとみたいに言いな」

「死ぬほど仲ええしな」

「どうもありがとうございました~」


「消えちゃったわね」

「はい」

「ちょっと影響受けてしまいました」

「やりますか先輩」

「どうも~トモで~す」

「モトで~す」

「2人合わせて元トモで~す」

「絶交してるんです」

「何でやねん」

「どうもありがとうございましたぁ~」

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