第一章 17歳
第1話 誕生日
◆
コンパクトサイズのテーブルの上には小振りの真っ白なホールケーキ。
さすがに蝋燭が8本もあると、果たして本当にケーキが主役なのか怪しくなる。
蝋燭の合間を縫うように置かれたプレートには “Happy Birthday” とプリントされている。
……そんなケーキを囲む女性と少年。
女性は長い黒髪を束ね、クリーム色の肌と優しい笑顔をたたえている。名前は悠月夏音。病弱気味な彼女は、翻訳一筋で今日まで家を支えてきた。
彼女の向かい側の少年は、顔立ちと黒髪は見事に母親譲り。けれど彼が持つスミレ色の瞳と透明感ある白肌は、母親にはない神秘さをもたらしていた。名前は悠月綾音。外見を除いたら至って普通の高校生である。
「……いつも思うけど、母さんの作るケーキはいつも…個性的…だよね」
「いいじゃない、愛情も沢山込めたしね?」
「ああ……ありがと」
蝋燭を消した後、二人はケーキを頬張りながらたわいのないことを語り合う。
見た目はともかく、味は意外に美味。真っ青なケーキからは想像出来ない、桃の味がする。
「そう言えば、かき氷のシロップは基本全部同じ味って知ってた?それぞれの味の成分が一つ二つ違うくらいで」
「……言っとくけど、食品添加物は極力使ってないから」
それなら一体何を使えばこんな綺麗な真っ青になるんだ、とは言わず綾音は更にケーキを頬張った。
「綾音、外見だけで選り好みだけはくれぐれもしないでよ……特に女の子とか」
「大丈夫、俺はずっと母さんと一緒だから女子は必要ない」
マザコンかよ、とは思いつつもこれは綾音の本心である。
……今、唯一の肉親は母親だけなのだから。
無音の綾音 久遠紡 @Kuon0303
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