第一章 17歳

第1話 誕生日


コンパクトサイズのテーブルの上には小振りの真っ白なホールケーキ。

さすがに蝋燭が8本もあると、果たして本当にケーキが主役なのか怪しくなる。

蝋燭の合間を縫うように置かれたプレートには “Happy Birthday” とプリントされている。


……そんなケーキを囲む女性と少年。

女性は長い黒髪を束ね、クリーム色の肌と優しい笑顔をたたえている。名前は悠月夏音。病弱気味な彼女は、翻訳一筋で今日まで家を支えてきた。

彼女の向かい側の少年は、顔立ちと黒髪は見事に母親譲り。けれど彼が持つスミレ色の瞳と透明感ある白肌は、母親にはない神秘さをもたらしていた。名前は悠月綾音。外見を除いたら至って普通の高校生である。


「……いつも思うけど、母さんの作るケーキはいつも…個性的…だよね」

「いいじゃない、愛情も沢山込めたしね?」

「ああ……ありがと」


蝋燭を消した後、二人はケーキを頬張りながらたわいのないことを語り合う。

見た目はともかく、味は意外に美味。真っ青なケーキからは想像出来ない、桃の味がする。

「そう言えば、かき氷のシロップは基本全部同じ味って知ってた?それぞれの味の成分が一つ二つ違うくらいで」

「……言っとくけど、食品添加物は極力使ってないから」

それなら一体何を使えばこんな綺麗な真っ青になるんだ、とは言わず綾音は更にケーキを頬張った。

「綾音、外見だけで選り好みだけはくれぐれもしないでよ……特に女の子とか」

「大丈夫、俺はずっと母さんと一緒だから女子は必要ない」

マザコンかよ、とは思いつつもこれは綾音の本心である。


……今、唯一の肉親は母親だけなのだから。

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無音の綾音 久遠紡 @Kuon0303

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