プロローグ

真っ黒な暗闇の中____________

淡い紫色の光がぼんやりと灯った。

果たして、人はこれを何と捉えただろうか。


誰もが寝静まる真夜中、空で妖しく輝いてる赤い月だけが “彼ら” を見つめていた。



「……ねぇお願い、行かないでよ」


少女は声を振り絞って訴えかける。

17、18歳位だろうか。自慢の長い綺麗な黒髪は乱れ、服もあちこち破れて泥だらけ。靴もいつの間にか両方なくしてしまったようで、彼女の小さい足からは血が出ている。

頬を滑り落ちる熱いものはさっきから一向に止まる気配がない。

しかし、今の彼女にとってそんなことはどうでも良かった。


「……行かないで……ずっと傍にいてよ…」


目の前にいた少年は、優しく微笑み、そっと彼女の頭を撫でた。

けれど撫でる度、彼の手の形は少しずつ曖昧になっていく。

足から膝、腹へと、己の身体が光の粒子になって消えていく。今や彼の身体は胸の辺りまで消えていた。


消えた部分の感覚は一切感じない。痛みもない。

次第に、手の感覚も意識も薄れてくる。


「俺がやった事は掟破りだから……ね」


ごめん、と一筋の涙が彼の瞼から零れ落ち……る事はなかった。

代わりに紫の光を放つ小石が一つ。

少女が愛しかった姿はもうない。


せめてもと、少女はすっかり力の抜けた手でそれを握り締めた。


____________その瞬間、彼女ははっきりと聞いた。

男とも女とも言えない、透き通り凛としたあの声を。






「ではこれより此方は罪を精算するのだ……!」

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