第八章「魔界で一番幸せな恋」

「テル様!クリス様!ご結婚おめでとうございます!」

少し涼しい頃に、テルとクリスの結婚式が盛大に行われた。

テルはサテンケープ、ベストシャツの袖とレースのジャボ付き、メダリオン付きの姿だ。

クリスは普段着てるシンプルなウェンディングドレスと違い、今回は結婚式ということで、いつも以上に華麗で様々な大きさの蝶々の刺繍と真珠がたくさん縫い込んだ真っ白なウェンディングドレスの姿だ。

「テル様!クリス!ご結婚おめでとうございます!」

「おめでとう!」

黒狼の銀と天満。

「お久しぶりです。テル様、クリス様。ご結婚おめでとうございます!」

クリスの父・アドレ。

「テル様、クリス様。ご結婚おめでとうございます」

そして、隣の国のザルトも二人の結婚式に参加してくれた。

「テル様!クリス様!ご結婚おめでとうございます!これからもアルをよろしくお願いします!」

クリスの侍女・アルがお祝いしてくれた。


「おい!魔女のアリスだぞ!」

魔女のアリスは大きな魔法の箒(ほうき)でテルとクリスの前まで飛んできた。

衣装は彩りとした帽子と服装。そして、彼女の夫・ライドもやって来た。

「テル様、クリス様、ご結婚おめでとうございます」

「ご結婚おめでとうございます。このアリスがお二人を祝福させて頂きます」

祝福の呪文を唱えると、テルたちの周りに金色の星屑が漂い、スッと消えていった。

「この金色の星屑は幸せになれる証拠です。ご安心を」

「では」

「では失礼します」

(相変わらずクールな魔女様だな。でもお祝いしてくれたってことは…良いことか!)

「みんな、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

大勢の歓声に包まれ、テルとクリスはキスをした。


その夜。

「初めて夫婦として過ごしますね」

「ああっそうだな」

「あの…テル様。呪いはもう解けるんでしょうか?」

「試してみればいいだろう?」

「え?え!?今…ですか?」

「じゃなきゃ、どうするつもりだ?」

「いえ…ちょっと久々なので怖くなって…」

少し体が震えるクリスをテルは優しく抱きしめた。

「その前に食事してもいいか?」

「は…はい」

ゆっくりとクリスの長い金髪を横にどけ、テルはいつも通り首元を優しく舐めた後に食事をし始めた。

久々に吸血するテルは、いつも以上に飢えていた。

「テ…テル様」

吸血をし終わったテルはなぜか笑った。

「なんで笑うんですか?」

「君と出会って、一年が過ぎて、こうして結婚することができたことを神様に感謝しないといけないな」

「この前までは『…君を神様の所には行かせない。どんなに辛い思いをさせたことを思い知らせてやる』って言ってたのに…?」

「そうだな。俺は神様をすごく恨んだことがあった。だけど、それは全て自業自得だと分かったんだ。実は…神様と女神様の所へ相談したことがある。その内容は、当年クリスの母親・エレアを助けるために当時の王・ドラキュラを殺してしまったことを…」

「母は天国では元気ですか?」

「すごく元気だったよ。『娘のことを末永くよろしくお願いします』と深くお辞儀をしてくれたよ」

「お母様…元気そうでよかった」

「そうだな」


「クリス。君が薬を飲んで、自分の闇の過去を封印したことがあるとアドレから聞いたんだが、それは本当なのか?」

ビクッとなった。

「私の闇の過去を知りたいんですか?」

「そうだ。夫婦になる前から気になってたんだ。クリス、君の過去を俺に教えてくれ。君が俺の悲惨な過去を見通したかのように…」

「話は長くなりますが…聞いてください」

「分かった」

「私は子供の頃から、通称『バンパイアの花嫁』として生きてきました。

当時の私は見も知らぬ男の花嫁になることを拒んでいましたが、ある年に母がドラキュラ様の手によって悲惨で亡くなったことを目撃し、その現象が目に焼き付くほど心が痛み、何度も、何度も、ある重い病気のせいで大泣き、不安、過呼吸になったことがありました。

幼い私をおんぶして、父・アドレは死神として、私の父として、魔界中の有名な医師たちに聞き回りましたが、結果は…『人間・エレアのせいで、君の娘さんはこうなったんだ!知らん!君の娘さんは誰も救えないぞ?いいか!?』と散々医師や魔界の人たちから怒鳴られ、父と私に最後救いの手を差し伸べてくれたのは…魔女の『アリス様』でした」

「私は年齢がだんだん増えるに連れて、背中に刻まれた薔薇の刻印がだんだん赤く熱くなってきたんです。その副作用を抑えるために、死神の父から忠告を受けながら、薬を飲む習慣がありました。

それからは副作用のせいで、長年外出できない時期が徐々に増え、魔界の人たちに救いの手を差し伸べると、魔界の貴族である仮面王子・テル様の噂を耳にしたんです。でも…その間までは、魔女のアリス様は私が18歳になる前まで、あらゆる薬物療法と精神療法を投入し、一緒に生活してくれました。そのおかげで完治して、父の傍まで帰る事ができたんです」

クリスは長々とした切なくて苦しい過去をテルに話す。

話し終わった後のクリスの両目は赤く腫れていた。


(思い出すだけで辛かったんだな…)


「俺は…その時、幼い君とアドレを助けたくて仕方なかったんだ。君たちが『かわいそう』とか、『ざまあみろ』って外に出るたびに様々な罵声を受けることによって、『俺の妻を…傷つける人など皆殺しだ』と思うほどだったが…やっぱりできなかったんだ。君がこんなに辛い目に遭ってるというのに…と思えば思うほど、君の妻として一日も早く受け入れようと、魔界の王になろうと決心したのがその日だった。こうして君の過去が知れて嬉しいよ。ありがとう。俺の花嫁」


「テル様。ありがとうございます。私は本当に魔界で一番幸せな恋をすることができました」

「こちらこそありがとう。俺もそうだよ」


「これからもよろしくお願いします」

クリスは深く頭を下げると、テルに優しく頭を撫でられた。


~終わり~

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盲愛 〜花嫁を愛する彼と〜 ドーナツパンダ @donatupanda

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