第七章「魔法の言葉」

(クリス…クリス…)

夢の中の暖かな温もり。たくさんの花の数々に囲まれて優しく微笑むクリス。

次の瞬間…真っ暗な世界になり、全身が血だらけになった彼女を抱く自分がいた。

(クリス、行かないでくれ!俺の傍から離れないでくれ!)

冷たくて、赤い血がダラダラと溢れ出し、そのせいで心の闇が深まっていた。


「クリス!」

ハッと目を覚ます。

テルは、隣でスヤスヤと静かに眠るクリスを優しく抱き、彼女のおでこにキスをした。

「よかった…」

ハーと大きく息を吐く。

安心と恐怖が混ざり合って、複雑な気持ちだ。

「ん…」

テルは、隣で眠るクリスが愛しくてたまらなかった。


この幸せが一瞬にして消えてしまうことが不安になってしまった。


「クリス…好きだ。愛してる。たとえどんな未来が待っていても、俺は君の命を守るよ。だから、ずっと俺の傍にいてくれ」


「テル様?」

目を覚ましたクリスは、テルに向かって優しく微笑む。

それを見たテルは思わず泣いてしまい、そっと抱きしめ、今まで以上に強い気持ちが沸き上がっていた。

(クリス。君を…君を…絶対に失いたくない…!俺の愛する妻になれなくなる前に、結婚しよ。結婚してくれませんか?愛してる。君を永遠に愛してる!)

(やっと…結婚を申し込んでくれるんですね。ありがとうございます)


「食事をずっと我慢してたから…もう限界だ」

「え?」

クリスの長い金髪を後ろにどけ、首元を優しく舌で舐めた後に食事をし始めた。

久々だから、あのゾクゾクする感じに耐えらないかもしれないと思ったクリスは、テルの行為を拒否しようとしたが、テルに力強く抱かれた。

「んんっテル様…」

「んんっんんんっんあっ」

感じる。今まで以上に感じてしまう。

「クリス…?」

「ううっ」

テルの傍でクリスは泣いてしまった。

「泣くな…俺が必ず君を幸せにするから」

「でも…私はいつ亡くなっても、おかしくない人ですよ?そんな人とまだ一緒にいたいんですか?」

「当たり前だ。君を嫁にすることは変わらない。これは事実であって、必ず俺たちは結ばれるよ」

「アドレは女神様と相談してみた結果、君の寿命は短くならないと聞いた。

クリス、君は何も悪くない。悪いのは俺だ。俺のせいで、君はいつでも死に対する恐怖を与えてる存在になってしまった。だけど…君を神様の所には行かせない。どんなに辛い思いをさせたことを思い知らせてやる」

「神様に対してそんな酷い事をしたら…テル様は…!!もうこれ以上の罪を抱えさせるわけには行きません!やっと…やっと…テル様の…あなたの罪が軽くなったのに…!!」

泣く泣くクリスは涙を流すのが止まらなかった。

「君を…こんな思いにさせる俺は…君の夫になる失格はない」

「テル様…?」

その言葉がクリスの胸を痛む。

テルと夫婦になる前に、夫婦にはなれないことにやっと気がついたのだ。

だけど、クリスはテルの前で言葉が出てこなかった。


「クリス」

テルは、クリスの濡れて少し赤くなってる頬を手で触れながらこう言った。

「君を…愛してる」

「だから…君の夫になれるように俺は自分の罪を償うよ。君に二度と不安な思いや苦しい思いをさせないようにするから」


クリスは、自分の頬に触れるテルの手を自分の手を重ね合い、コクリと静かに頷いた。



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