第六章「代償と償い」

「代償…?」

「はい、そうです。その代わり、テル様の罪が少しずつ軽くなります」

「俺の罪だと…!?」

「ふざけるな!いますぐ女神様に聞こう!!」

「む…無駄です!!テル様!!」

ぎゅっと服の袖を強く握りしめるクリスの手がどこか辛そうに見えた。

「クリス…。代償はなんだ?」

「代償は…私の寿命が短くなります」

苦笑いをしながら、思わず涙を流すクリスを強く抱きしめた。

「…!!クリス」

「テル様…」

「俺のせいだ。全て俺のせいで…!!」

「テル様。テル様のおかげで私は幸せな日々を送れました。ありがとうございます」

その夜空はキラキラ輝く星の数々に包まれ、眩しく、でもどこか切なく感じた。


(どうして君は…俺の代わりに…)

「俺に何かできることはあるか?」

「死神の父から薬をもらえば、少しずつ寿命が減るのを防ぐことができます。でも最終的にどうなるかは死神の父と女神様が相談して決めることです」

「なるほど。今すぐアドレに相談してもいいか?」

「分かりました」


ぼんやりといくつもの小さな灯りが照らされたランプが掛かる屋敷。

中にいるクリスの父・アドレがそっと魂のランプを消す動作が見られた。

死神には使命がある。それは、亡くなった人の魂をランプにして照らし、一定の時間を過ぎれば空に返すという使命だ。死神の唯一の仕事で、大切な役目である。

「お父様」

「アドレ!少しいいか?」

(死神であるなら、生死に関することは詳しいはずだ)

「お前の娘が…夫の代わりに罪を償うことは知ってるか?」

「!!…知ってます。もちろん」

「アドレ。俺はこういう形でクリスと結ばれたくない。お前は死神だ。生死に関することは詳しいだろ?」

「少しずつ寿命が減るのを防げる薬があると聞いた。本当にあるのか?」

「あります。ですが…」

「なんだ?」

「薬に副作用があるので、クリスには耐えられるかどうか…」

「どんな副作用だ?」

「クリスの記憶がどんどん消えてしまうことです。特に親しい人に関する記憶が…。あと、元の能力も失ってしまいます」

「アドレ、お前…本気で言っているのか?」

冷酷な視線でアドレを見つめるテルは激怒した。

「残酷な現実だな。自分の娘だというのに、お前はそれでいいのか?」

「よくないです。ですが、全てテル様のために思って…」

「ふざけるな!!俺は吸血鬼だ!だがクリスは違う。ただの人間だ!人間には限られた寿命がある!俺にはないんだ!クリスの夫だというのに、何もできない自分が憎いんだ。憎いんだ。呪いなど能力などなければ、クリスは何も怖くなることはないのに…」

「テル様。私、もう覚悟はしてました。なので…大丈夫ですよ」

「クリス。君は優し過ぎる。どうして君はこんなにも優しいんだ?」

「優しくありませんよ。テル様のおかげで、私はどんどん強くなれました。呪いも能力もなければ私は普通の人間。この薔薇の刻印もなければ、吸血鬼の花嫁の証拠がなくなる。だから全てテル様のせいではありません。私の運命ですよ」


(テル様と恋してよかったです。本当に)

そう心の中で呟き、そっとテルの両手を重ねながら泣くのを我慢した。


「アドレ。今日はありがとう」

「いえ、お力になれなくて申し訳ございませんでした」

アドレは深くお辞儀をし、テルたちが去るのを見届けた。


「君はずっと俺の妻だ。クリス、いつまでも愛してるよ」

「ありがとうございます。私も愛しますよ」


愛の言葉を囁きながら寄り添う。

二人にとって唯一の幸せだ。

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