第8話 少女の学んだこと
「あまりにも都合が良すぎてね。津山のところに部下を送り込み、打開策をことごとく潰す。道化のフリをすれば誤魔化せると思った?」
閣下とジブが範馬と距離を取った。範馬は肩をすくめておどけてみせる。
しかし、その表情には愉悦が浮かんでいる。
「確かに力足らずではあったが、それを裏切りと言われてはね。」
そう言いながら、隠すつもりはないのだろう。範馬はニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せる。しかし、兵頭は笑い返す。
「裏切り?あはは!最初っからあんたなんて信用してないわよ!低脳!」
範馬も思わず顔を引き攣らせる。兵頭はニヤリと笑った。
「最後に聞いてやるわ。何で邪魔しようとしたの?」
「ふん、言う必要などないわ。私を異端者扱いした世界を終わらせてやるためだ。」
言ってんじゃねーか。閣下とジブは心の中で突っ込んだ。
範馬は不敵に笑い、赤い液体を飲み干した。
すると信じられないことが起こった。老いた範馬の肉体がみるみる若返り、はきちれんばかりの筋肉に包まれ、凄まじい威圧感を放っている。
「私が何故動じないか分かるかね?諸君を皆殺しにするのなど造作もないことだからだ。今まで飲み続けていたのは只のジュースではない。私の科学力を振り絞り作り上げた肉体強化のクリティカルエナジードリンクだ。」
急に三下よろしく説明臭くなった範馬に、閣下とジブは震え上がった。
「えなじーどりんくってなんだ?おねえさんにのませるとちくびがたつのか?」
ニヤニヤするロリ兵頭にジブの拳骨が落ちる。痛がる素振りを見せながらも幸せそうな様子だ。
緊張感のなさに肉の塊と化した範馬は怒り狂った。様子を見かねた閣下は範馬に問いかけた。
「範馬博士!何故貴君がそんな事を?」
「私は常に不当な扱いを受けてきたのだ!幼少期から人と考え方が違うというだけで疎外され、忌み嫌われた!科学者になってからもそうだ。どれだけの成果を見せても私の人格だけで忌避し、結果を評価しない!不当な社会を私がどれだけ憎んだか!」
「そんなことはない!貴君が優れた科学者であることは誰もが知っている。もちろん人間的には腐りきっていて、人々にとって研究成果など二の次かもしれん!しかし・・・・・・。」
「そういうことを言っとるのだ!おのれ売国奴!貴様から片してくれる!」
筋肉ダルマになった範馬は自分の服を引きちぎり、閣下めがけて襲い掛かってきた。
「ま、待て!私が死ねば本国が黙っていないぞ!」
範馬が閣下を見下ろし、膨張した拳を振り下ろす。
「やめてえ!」
ジブが叫ぶのも聞かず、巨大な拳が閣下の頭部を砕こうとした。
その時だった。
閣下の身体から赤い光が放たれ。範馬の拳を止めた。驚愕の表情を浮かべる範馬に対し、兵頭は笑う。
「あなたも科学者の端くれなら計画くらい綿密に立てておくことね。」
「うぬ、貴様か!兵頭!」
「本当に田中ゴリラだと思っていたの?そんなミス私がするわけないでしょ?」
「・・・・・・そうか!あの光は田中ゴリラではなく、ジャイアン大落合か!あの全てを封じる力を!」
「ふん、ようやく気付いたようね。それとも、まさか実戦導入できると思っていなかったかしら?」
「発見者はリスペクトされるべきだが、安易な名前を付けると後々に悪影響だと誰も思わんのかね。」
先ほどと打って変わって閣下は冷静だった。
「くっ・・・・・・。とどめを刺せ!」
「刺す必要はないわ。」
兵頭がそう言うと赤い光は消えた。閣下とジブが身構える。
「もうあなたの肉体は限界よ。」
その言葉を言うや否や、範馬の身体はみるみるうちに萎んでいった。
萎れてしまった範馬はもはや一人で何もできない状態であった。
地べたに転げた身体を小刻みに震わせている。その姿は以前よりもずっと老けて、衰えてしまっていた。
「このまま死んじゃうの?」
「大丈夫よ。若いんだし。そのうちまた膨れてくるわ。」
「なんか可哀想ですね。色々あったし、嫌な人だけど。」
「殺されかけたんだぞ。同情せんでいい。」
悲しそうなジブに対し、閣下が間髪入れずに突っ込む。
「でも、範馬博士が膨らんできたらまた世界を破壊しようとするんじゃないですか?」
「心配せんでいい。この男の身柄は抑えた。後は本国で適切に処置してもらう。」
それはそれで嫌な予感だ。閣下も自分の正体を全く隠していない。元々バレバレなのだが。何故みんなこの男が日本人でないと気付かないのだろうか。
思考に偏りのある男達によって範馬の身体は運ばれていった。
「ありがとう。問題も解決し、諸悪の根源も捕まえた。これからは強固な日米関係の下、変わらぬ平和が訪れるだろう。」
閣下は仰々しく頭を下げた。
「そうね。未来も大丈夫みたいよ。」
「結局津山さんだけ死んでしまいました。」
「そうだな。しかし、奴が事を起こさなければ範馬博士もそれを利用しようとはしなかっただろう。残念だが、自業自得かもしれん。」
閣下はそう言うと、背を向けて目頭を抑えた。
「ここでそんなアピールしても意味ありませんよ。」
少女は冷静だった。
無駄な犠牲を出しながらも事件は解決し、ジブたちは久方振りに外に出た。
東京タワーはいつもどおり観光客で賑わっている。
「普通に見えるけど、今の世界も変わってしまったんですよね。」
ロリ兵頭を見ながら、ジブは呟いた。
戦争が起こるかもしれない、とは兵頭の弁だが、決して冗談には聞こえない。
「大丈夫よ、ジブ。何かあっても私が守ってあげる。」
兵頭は力強くジブの身体を引き寄せた。
「わ、亜里沙さん・・・・・・。」
「正直言うとね、未来から戻ってきてすぐに思いついたのがジブをもう滅茶苦茶の好き放題にすることだったわ。でも、それは正しくなかったのね。」
「何を改心したかのように!」
「そうだ。みらいのわたし。わたしもまぜろ!さんぴ・・・」
「やめろ!ガキ!」
「ふふ、ジブは幼いのは好みじゃないのね?」
そこには妖艶に微笑むおばさんがいた。・・・年齢は重ねているが兵頭だ。
「まさか。」
「未来の私よ。」
「他にもぞくぞく来てるわ。ジブ。そう、私達が出した結論、それは時を超えてあなたを共有すること・・・・・・。」
今度は中学生くらいの兵頭だ。他にもババアの兵頭、高校生の兵頭、ジブと同い年くらいの兵頭・・・・・・。総勢数十人の兵頭。これ以上の地獄はない。
「わあああ!」
ジブは思わず叫んだ。
「それぞれの時代にも私がいるでしょう!」
「それはそれ、これはこれよ!」
「浮気者ども!」
今回の事件を通して少女は学んだ。
それは、平和の素晴らしさや大人の理不尽さなどではなく・・・・・・。
どれだけ頭が良い人間でも人間性が伴わなければ災厄でしかないという事だった。
東京4人会議 佐藤要 @seventhheaven7076
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