それいけ! 僕らの大王イカ!

小鉢

第1話 心に響け!

 ここは、南国、海辺の町【パラダイス】。


 今、この町は、重大な問題を抱えていた。このままでは、冬を越す事は出来ない。女どもは、町を離れ難を逃れるだろう、しかし、男どもは、恐らく全滅だ!この、素晴らしい町を捨てる事など、出来るはずがない!!


 勇者達一行は、王国のギルドからの依頼で町を訪れていた。


 町に入ると、異様な光景が広がっていた。


 男は、海パン、女は全てビキニ姿だ。


 勇者のテンションが思った程高くない。


 流石は、Sランク冒険者が手こずるクエストだ。


 恐ろしい……


「さぁ、こちらへ」

 町のギルドから派遣された、ビキニ姿の女性が勇者達を案内する。


 勇者のテンションは、上がる気配がない。



 なぜだ!



 君は、老婆のビキニ姿を見た事があるのか?

 ないだろう!

 そういう事だ、察してくれ!


「帰るぞ!」

 勇者は、聖女に呼びかける。


「え?!」

「僕は、帰るぞ!」

 聖女は、キョトンとしている。勇者は、老婆の案内を無視して、町の出口へ向かおうとする。


「待って下さい!!」

 建物から、男が飛び出してくる!


 海パンを履いた中年男が、勢いよく勇者に迫ってくる。


 勇者は、走る。中年男も、走る。

 逃げる! 追いかける!!


「でやー」

 褐色の稲妻が横から勇者に刺さり、吹き飛ばす。


 ズシャ、ズシャシャー


 砂埃を巻き上げ、勇者は地面を滑っていった。


「オラオラ、話ぐらい聞いていけや!」

 稲妻の正体は、褐色の肌に赤いビキニがよく似合う、スタイル抜群の女性だった。


 聖女より小さいが巨乳だと追記しておこう。


 そう、巨乳だ!


「話? 聞きます、聞きます!!」

 返事した勇者を、凄い形相で聖女がにらむ。


「勇者様にも困ったものだな」

 聖騎士見習いの少女は、しっかりと鎧を着込んでいる。


 脳筋の馬鹿に暑さは関係無いらしい……


「では、勇者様、ギルドに来て下さい」

 中年男は、勇者をギルドへと引きずっていく。


 これから登場する男は、全て海パン姿だ。しかもV字だ。

 あぁ、気持ち悪い、想像するだけで吐き気がする。


 この先、海パンは禁語指定だからねっ!


 ギルドの酒場は、男ども……オェ……


 ギルドの酒場は、沢山の客で賑わい繁盛していた。


「私が、ここのギルド長です」

 中年男は、ギルド長だった。


「受付嬢の……」

 ビキニ姿の老婆が呪文を唱えている。


 呪われるかもしれない、聖女様、助けて!


 抱きつこうと飛ぶ勇者を聖女は、難なくよける。


「コイツ、大丈夫なのかよ」

 褐色の美女ビキニが勇者を指差している。


「普段は、馬鹿ですけど、いざという時は、頼りになります」

 聖女は、勇者を庇った。


「早速ですか、話を聞いて頂きますよ」

 ギルド長は、勢い良く、一気に語る。


 そうだ、そろそろ千文字を超える、急がねば、筆がもたない……




 ギルド長の話を要約すると、ここの海には、大王イカがいて、そいつが、最近、陸でも活動するから懲らしめて欲しいという事だ。


 えっ退治しなくていいの?

 懲らしめるだけなの……


 急げ!


 勇者一行は、大王イカが頻繁に出没する浜辺にやって来た。


 空は青く、海も青い、浜辺の砂は白くてキラキラしている。周辺にはヤシの木なんかもあって、まさにリゾート、そうパラダイスだ。きっと休み無く働く、社畜供の心も綺麗に浄化するだろう。それぐらい、素晴らしい浜辺だ。


 ギルド酒場の客もついて来たので、ギャラリーも多い、これだけの戦力なら、大王イカも撃退、いや、懲らしめる事は容易だろう。


 海鳥達が飛び立った!


「きやがったな」

 褐色ビキニのお姉様が呟いた。


 波が引き、海が割れ、イカ供が浜辺を歩いて来る。


「大王イカの子分、エロイカが来たぞ」

「エロイカが来たぞ」

「勇者の兄ちゃん達、気をつけろよ」

「やつらは、イフクハギトローゼを吐いてくるぞ!」


 イフクハギトローゼ? ホムセンで見た除草剤のような名前だ!


 千五百文字を超えた、うっ、腕が……


 エロイカの姿はイカそのものだ。地上でも、イカとしてのアイデンティティは失っていない、元気良く歩いてくる。


 イーカ、イーカと合唱しながら迫りくるエロイカに、勇者達は動く事はできない。


 浜辺には、海鳥達が戻り、エロイカを捕食しようと狙っている。

 そう、イーカ、イーカと歩く、エロイカはとても弱そうだ。


 早く海に帰れ、食われるぞ!


 勇者の心配をよそに、エロイカ行進曲は、鳴り止まない。


 イーカ、イーカ♫


「なんか、可愛いですね」

 聖女は、母性本能をくすぐられ、


「美味そうだ」

 聖騎士見習いの少女は、ジュルっと舌を鳴らしている。


 エロイカ達は、イーカっと、白くて、ねっとりしたイカ臭い液体を勇者達に向け吐き出した。


「イフクハギトローゼを吐き出したぞ!」


「勇者は、避けろ!」

 野次馬達が興奮して、叫び出す。


 しかし、その液体に脅威は全く感じられず。

 まともに身体に浴びたがダメージは全くなかった。


 ほら、肌に傷一つ、ついてないぞ!


「キャー、こっち見ないて!」

 聖女の声が浜辺に響く!


「見ないでっ!こっち、見ちゃダメー!!」


 これは、きっと振りに違いない!


 勇者は、エロイカ達の白い液体を浴びながら、聖女の方に目を向ける。



 イフクハギトローゼ

 この物質ほど、恐ろしくヤバイ物質は存在しない。


 そう、存在自体が罪なのだ。


 勇者は血を吐き出した。浜辺は、男達の血で赤く染まっていく、これでは、虐殺ではないか……


「キャー、もう、やだぁー、こっち見ないで!」

 聖女は叫び、男達は、鼻から血を噴き出す。


 このままでは、何人か命を落とすに違いない!


 イフクハギトローゼを浴びた聖女は、衣服を溶かされ、半裸となり、その白い柔肌を惜しみなく晒していた。


 エロイぞ、エロイカ!!


 聖騎士見習いは、イフクハギトローゼを浴びたが、流石の、イフクハギトローゼも鎧を溶かす事は出来ず、鎧の表面を白くねちゃっとしたイフクハギトローゼで汚されただけだった。


「チッ」

 勇者の舌打ちを聞いた、聖騎士見習いの少女は、「貴様という奴は」と叫びながら殴り飛ばした。


 キャー、キャー叫びながら、聖女は男達を一人づつ昇天させていく。


 まさに、聖女だ!


 あぁ、聖女様!!


 聖騎士見習い少女は、エロイカをバンバン飛ばして、海に戻していく!


 エロイカよさらば!!



 勇者は、【パラダイス】での出来事を語り終えると、お茶をすすった。


「エロイカ、大王の名は、エロイカにこそ相応しい」

「そうだな……」

 報告を聞いたギルドの職員は、感慨深げに返事した。


 エロイカの捕獲依頼を、明日、張り出そう!


 勇者達の一件後、聖女から報告を受けた教会により町は封印されましたとさ。


 残念だね。

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