マンション

 小学校中学年の夏の話です。


 小学校生の頃は毎年家族旅行に行ってました。父親の運転でいろいろな所に連れて行ってもらいました。良い思い出です。

 家族旅行とは別に、夏休み冬休みには大阪に住む母方の叔母の家によく遊びに行っていました。地元がど田舎のため、大阪の都会っぷりには度肝を抜かれたものです。

 この叔母というのが私にとっては第二の母とも呼べる人で今でも頭が上がりません。母が弟の出産で入院する時、タイミングが悪いことに父の転勤が決まりバタバタしていて、当時三歳の私の面倒を見てくれたのがこの叔母でした。「三つ子の魂百まで」ではないですけど、このこともあり私はおばちゃん大好きっ子になりました。そんな叔母の旦那さん、私にとっては叔父さんなのですが、この人がうちの親族には珍しいインテリタイプの人で、よく面白い本を薦めてくれたり、勉強を教えてくれたりと可愛がってくれました。叔母夫婦の娘、私にとっては従姉、この人も年が離れた私を弟のように可愛がってくれました。

 前置きが長くなりましたがそんなわけで、しょっちゅう大阪に遊びに行っていたのです。

 その年は初めて弟と二人で叔母の家に行きました。電車に乗っている間中緊張していて駅で迎えに来ていた叔母を見つけてほっとしたのを覚えています。

 日中は奈良観光に連れ行ってもらい、夕方に帰宅して夕食、その後お風呂でお休みなさい、なら完璧なのですが風呂上がりには勉強タイムが待っていました。嫌々持って来ていた夏休みの宿題を弟と二人、和室の座卓でやっていました。正面には叔父が座りサボらないよう目を光らせています。確か漢字の書き取りをやっていたと思います。

 ここで小学校時代の因幡の習慣を一つ紹介します。因幡は風呂上がりパンツを履いていませんでした。日中は履いているのですが、寝る時に締めつけられるのいやで春夏秋冬風呂上がりはノーパンでした。この日も子供用の甚平をノーパンで着ていました。

 集中力が切れた頃、何気なく和室の畳を眺めていると、隙間からムカデが這い出してきました。十センチ近くある大物です。ここマンションの十二階なんだけど、なんで!?全く予期しないムカデの出現にフリーズしていると、なんとムカデは一直線にこちら這いずってきます。ムカデはあぐらをかいていた右足の太股を這い上がり、短パンの中に潜り込んで来ました。ウネウネした動きにチクチクと肌を刺激するムカデの脚。「ムカデは毒があるけぇ触ったらいけん」父の言葉が頭をよぎります。這いず回られる不快感と毒への恐怖で声を上げることもできません。短パンの中の縦横無尽に這いずるムカデ、ノーパンかつ下の毛が生えていない股間にも生々しい感触が伝わってきます。

 どれくらいそうしていたのかわかりませんが、体感時間は20秒くらいだったと思います。右足から上がってきたムカデはバランスを重視したのか左足を伝い畳へ降りて行き、そのまま畳の隙間に、「バシン!」叔父が丸めた新聞紙を叩きつけました。仕留めこそできなかったものの、尻尾?の一部を潰していました。畳にはムカデの体液が。

 「母さん、因幡が噛まれてないか見て!」

 言うや否や和室を飛び出す叔父、何のことか分からないながらもただ事ではない様子にキッチンから駆け寄る叔母、状況が理解できず固まっている弟。

 「さっきムカデが畳から出て来てぼくのズボンの中に入ってきた!おばちゃん噛まれてないか見て」

 躊躇なく短パンを脱ぐ私。

 そこに戻ってくる叔父。手には殺虫剤が握られており、ムカデが消えた隙間に向けて噴射。下半身丸出しでそれを見つめる私。叔父はそのまま他の隙間にも殺虫剤を散布し、一本使い切りました。

 「これで大丈夫」

 叔父の言葉で状況は終了しました。

 幸いなことに噛まれてはいませんでしたがムカデが気持ち悪かったのと冷や汗がすごかったのでもう一度シャワーを浴びてその日は寝ました。


 高層マンションにムカデが現れノーパンのズボン中に侵入される。一体どれ程の確立でしょうか?結構レアな体験だと思います。

 みなさんも油断しないでください、奴らはどこにでも現れる…かもしれません、殺虫剤はお手元に。

 ちなみにこんな事件があっにも関わらず因幡は中学まで寝る時はノーパンを貫きました。今は8割方履く


 この事件で私の中で叔父への尊敬が高まりました。

 「大人の男は咄嗟の時にも動ける」

 私の目指すかっこいい男の条件の一つです。私もそんな風になりたいです。

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恐怖体験記 因幡伯耆 @gohanoomori

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