アカシックレコードなら、あっちのコンビニに置いてますよ
ちびまるフォイ
アカシックレコード ¥298(税別)
コンビニに行くとカップ焼きそばの隣にアカシックレコードが売っていた。
【 寿命が尽きるまでの永久保証! 】
とまで書かれている。
ウイルスバスターのサポート期間みたいだ。
「アカシックレコードってあれだよな……」
聞いたことはある。
なんでも宇宙のどこそこにある全知全能の図書館。
どんな情報でも調べることができるという。
これがあれば……。
「お買い上げありがとうございましたーー」
――買ってしまった。
箱を開けてみると、中にはコンタクトレンズが2つ入っている。
取扱説明書には「これをつけて目を開じろ!!」と勢いよく書いている。
漢字間違っているのがやや気になるが説明書通りコンタクトをつけてまぶたを閉じる。
目に入れたコンタクトがまぶたの裏側に転写され、
まぶたの裏側にスクリーンが出現した。
「おお! すごい! さすがアカシックレコード!」
胸のワクワクが止まらないので普通では知りえないことを調べてみる。
「そうだなぁ……。よし、明日の天気を教えてくれ!」
明日の天気が映し出されてまぶたを開けた。
「明日は晴れか! よーし、出かける予定でも立てるかな!」
翌日、どしゃぶりの雨音で目が覚めるまでは心はウキウキだった。
「なんでだぁぁぁぁ!!!」
窓の外に見える豪雨に思わず絶叫する。
アカシックレコードが外すなんてことがあるのか。
俺の使い方が間違っていたのか。なんでもわかるんじゃないのか。
アカシックレコードの入っていた箱を手に取ったとき、商品名に小さな文字が入っていた。
b Acasicrecord
「b……?」
×:アカシックレコード
○:バカシックレコード
「パチモンじゃねぇかぁぁぁ!!」
箱に書かれている情報から会社を割り出して苦情を入れる。
「どうなってるんですか! 偽物を売るなんて!!」
『いえいえ、ちゃんとアカシックレコードにはアクセスできますよ。
あなたがまぶたの裏で見ている情報はすべてアカシックレコードそのものです』
「だったら、どうして天気予想を外したんだ!」
『弊社の商品はアカシックレコードで情報を引き出したあと、
いったんb工程を挟むんです』
「b工程?」
『バカを挟みます』
「バカじゃねぇの!?」
その後もやりとりは続いたがまとめると
「正規品と同じだと怒られるので、バカを挟んで差別化しました」とのこと。
なにこの苦しい言い訳。
どらえもんそっくりのキャラを作っておいて「目がちがうでしょ?」と言うくらい無理がある。
とはいえ、そこそこの値段で買った代物なので「損したねハハハ」と
富裕層特有の余裕をぶちかますこともできず、使い続けることに。
弘法筆を選ばず、という言葉もあるし……
・花沢さんはあなたのことが好きです! →フラれました
・あなたの小説は大人気になるでしょう! →通報され削除
・今は仕事がなくてもyoutuberとして大人気 →大炎上
結論:ぜんぜんダメでした。
一応、アカシックレコードにアクセスして真実を知ることはできても
目を開けたり、アクセスを終了するとバカ変換されて嘘情報になってしまう。
・「うさぎおいしかのやま」とは
うさぎを食べる文化のある鹿野山でのお話です。
など、ごく簡単な調べ物ですら間違った情報が出てくる。
こうなったら自分で調べるしかない。
「えーーとなになに……。
『故郷(ふるさと)』のうさぎ追いし彼の山とは、
上京した人が昔のふるさとを思い出して歌った唄で
"うさぎを追ったあの山や、フナを釣ったあの川…
故郷を離れても夢に出てきます。故郷を忘れることはありません"
と、故郷を思い出す歌で、2番では両親のこと、
3番では故郷に帰ろうという気持ちを歌っているのか」
さらに調べてみると、
「あ、この作詞した人って最初は匿名だったんだ。
しかも作曲者は海外の校歌も作ってるの!?」
どうでもいい豆知識まで増えた。
なにせバカシックレコードの情報はだいたいが間違っている。
部分正解する場合もあるが、どこまで正解するかはまちまちなので
結局こっちでどこまでが合っているのかを調べる必要がある。
という苦労を友達に話したところ
「二度手間じゃね?」
7文字で論破された。
史上もっとも短い言葉で論破されたケースだ。
バカシックレコードにはそう書かれている。
正規品のアカシックレコードはバカシックよりもはるかに高級で、
しかも1ヶ月ごとに追加費用もかかる金食い虫。
それでもこんなバカをまぶたの裏に常駐させるよりはずっといいはず。
バイトをかけもちして何とかお金を工面して
ついに念願のアカシックレコードを購入した。
「やったーー!! これでバカとはおさらばだ!!」
使い方はバカシックと同じでコンタクトを装着する。
まぶたの裏に見知った景色が広がる。
・明日の天気は「晴れ」でしょう
翌日、カラッと晴れた天気にガッツポーズした。
「さすが正規品!! 偽物とはわけがちがうぜ!!」
b工程を挟まないのでいつも正しい情報が手に入る。
テンションが上がったので得意げに友達へ自慢することに。
「アカシックレコードが手に入ったから何でも聞いてくれ!
俺にわからないことはない!!」
「マジか。じゃあ"情けは人のためならず"ってどういう意味?」
「待てよ。今調べる。
これは"人に情けをかければ、いつか恩返しされるよ"って意味なんだ」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった。ほかは?」
「ほかって? これだけだよ?」
「いや、アカシックレコードってなんでもあるって聞いたから
もっと細かい情報もあるのかなって思ったんだ」
「でも調べたい内容はわかったからそれでいいじゃん」
「まあそうだけど。じゃあ次は……映画『ダークナイト』について教えて」
まぶたを下げてアカシックレコードにアクセスする。
たちどころに情報が見つかった。
「『ダークナイト』は2008年の映画で、クリストファー・ノーラン監督作品だよ」
「……ほかは?」
「アカデミー賞受賞してるよ」
「それだけ?」
「……これ以上なにがあるんだよ」
「いや、ジョーカー役を演じた役者が6週間ホテルに閉じこもって役作りしたとか
病院爆破は実写で上手く爆発しなかったとか、
捕まったジョーカーが拍手するところはアドリブだったとか
ボタン連打するジョーカーもアドリブだったとかは?」
「……」
「おい全知全能」
「だ、だって必要ないじゃん! そこまでは!」
「まあそうだけど。それじゃ、"うさぎおいし"ってどういう意味?」
友達の問いかけに今度はアカシックレコードにアクセスせず答えた。
これは覚えがある。
「これはね! うさぎが美味しいってことじゃなくて追いかけるって意味!
それに、作詞家は名前を明かしてなかったんだけど、のちの研究でわかったんだ!
さらに、作曲家は日本のみならず朝鮮の校歌も作っている人で
曲自体は故郷を想いながらも上京して働く人の懐かしむ気持ちを――」
俺は質問の答えのみならず、つい知っていることをたくさんしゃべってしまった。
友達はあっけにとられながらも知識の量に拍手した。
「すげぇな、見直した。そこまで知ってるなんて、さすがアカシックレコードだな」
「いやこれは……その……」
バカシックレコードが間違った情報を教えるもんだから
それが正しいかどうか確認する過程で身についてしまった知識。
「ふ、ふふふ! すごいだろう、これがアカシックレコードだ!!」
その後、俺はバカシックレコードを入れ直した。
こっちのほうが結果的にたくさん学べるんだもん。
アカシックレコードなら、あっちのコンビニに置いてますよ ちびまるフォイ @firestorage
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