第2話 備忘録の夢
夢を見た
私は天使だ
日々純人間の命を奪いながら生活している
天使は忙しい
まず、天使は本来人間である
人間でありつつ、天使の仕事もこなさなければならない
所謂副業というやつだ
ただ普通の副業と違って金は稼げないし、何より選択権がない
あるのは義務だけ
もちろん天使としての義務を放棄する者もいるが、もしこれを怠れば私たちは死ぬ事ができない
身体という器を失っても魂だけがさ迷う羽目になってしまう
よく世間の言う悪霊や幽霊などという類は、人間で言う『生前』魂狩りを怠って身体と共に死ぬ事ができなくなった天使達が、慌てて魂狩りをしようとせっせか働いているものだろう
そうは言っても身体がない分時間も手間も掛かるので、身体を失った後死ねるのは相当後の事だ
身体を持たずに生き続けるのはなかなか辛いものがある
そんなわけで、私は天使の役割を怠ることなく日々副業に勤しんでいる
私たちは天使である以前に人間だが、人間の姿で命を奪うことは無い
殺人と副業は違うのである
副業をこなすには「制服」に着替えなければならない
軽く握った手を広げると人間としての命の炎が可視化する
私たちはその命を吹き消して、一時的に天使になるのだ
背中から純白の翼が生え、全身の毛という毛が美しい金色に染まる
この姿になれば、人間には見る事も触ることもできなくなる
そこでようやく私たちは仕事に就くことが出来るのだ
天使は忙しいとは言ったが、邪魔さえ入らなければ仕事自体は簡単である
純人間の心臓付近に手をくぐらせ、命をもぎ取ってしまえば良い
時々、それでは芸がないということで苦痛を与えてみたり身体を乗っ取って意味深長な事を言わせたりする天使もいるが、私にはそこまでする気力がないので、手っ取り早く満員電車に乗り込み一気に刈り取ってしまう
そうすると彼らは最低でも三年後には死ぬ事となる
しかし、仕事中には必ずと言って良い程邪魔が入る
悪魔だ
彼らは何かと私たちの仕事を邪魔しては折角狩った人間の命を戻してしまう
いたずらに命を引き延ばすことがどれだけの悲劇かという事を彼らはわかっていないのだ
私たちは天使として、神の憂いを晴らすべく日々純人間の命を狩っている
神とは人間の思うような存在ではない
神は人間になり損ねた怪物に近い存在だ
神は何があっても死ぬ事ができない
神は絶望していた
しかし、神には永く生きていたからこそたどり着いた答えというものがあった
それが人間の、唐突の死というものだった
神は永く生きていた
故に終わらない日々というものへの傲慢を知っていた
もし人間に唐突の死というものが無ければ、彼らは自分の思う寿命までその傲慢さを以て安寧とした日々を過ごしてしまうだろう
それでは生きる歓びを失ってしまう
神は永く生きていたから、生きる希望も知っていた
神は永い時間を掛けて自らの中に生まれた「愛情」というものに従い人間達を無差別に殺す事を決めた
その愛が具現化したものが我々人間兼天使である
私たちは神の愛そのものだ
神の愛によってもたらされた身近な死こそが人間達の生きる希望となる
しかし、神は元々人間として生まれてくるはずだった存在だ
人間には迷いがある
その迷いが具現化したのが悪魔だ
悪魔は度々私たち天使の邪魔をする
彼らは迷いだ
迷いが愛を妨げる
彼らが存在し続けているという事は、神は今も迷い続けているということだ
何を迷っているのだ?
私たちはあなたの愛だ
何故愛を信じない
神は何を迷っているのか?
頼むから迷わないで
迷いが疑念となりあなたの真理となった時
私たちはあなたの愛ではなくなってしまう
ハッと目が覚めた
心臓が高鳴り呼吸も早くなっている
思わず手のひらを軽く握ってみる
炎はでなかった
夢に出てきた人間兼天使と、純人間の事を考えた
彼らはどういう基準で分けられるのか
兼天使はいつ分かるのか
私はこの夢を決して忘れないようにここに投稿した
読者には少々つまらない文章だったかもしれないが、許して欲しい
何故なら夢の中で人間兼天使の私は、自らを人間に扮した天使とは呼ばず、頑なにこう言っていたからだ
『私たちは本来人間である』と……
夢を見た ユウ @yu_dareka_tomete
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