解体屋さんで気分リフレッシュ!!

ちびまるフォイ

ご利用は計画的に!

「ふんふんふ~~ん♪」


「ずいぶん機嫌がいいな。なにかいい事でもあったのか」


「いいや、良いことがあったんじゃなくて、悪いことがなくなったのさ。

 いろいろあったけど、全部うまくいってハッピーエンドだ」


「……何言ってるんだ?」


「ははは、お前にはわからないよな。まぁ、体験するのが一番だよ。

 ここへ行ってお前も1日をバラしてくるといい」


妙に機嫌がよかった友達から渡された場所に行ってみるとお店があった。


「おや、お客さん。いらっしゃい」


腕と、頭と、胴体と、足とが全部バラバラ死体のようになっている店主が出てきた。


「なんで体のパーツがバラバラなんですか?」


「うちは解体屋だからね。ああ、大丈夫。君をバラしたりはしないよ。

 君は大事なお客様だからね。お客様は神様だ、オーケー?」


浮いている腕がくるくると動く。


「見たところ来るのは初めてみたいだ。

 ここでは君が体験した1日を解体して組み替え直すんだ」


「組み替え直すって……だ、大丈夫なんですか?」


「じゃなきゃ、商売にならないだろ、オーケー?」


無料サービスということで、1日を組み替え直してもらった。

目を覚ますと晴れやかな気分になった。


「わぁ、なんだろう。クリスマスの翌日みたいに、幸せな気持ちだ」


「気に入ってくれたみたいだね。オーケー。

 実は君の"昨日"から悪いことを解体して組み替え直したんだよ」


店主は俺の昨日に入っていた「嫌な事」を見せてくれた。

どれも口げんかや、上手くいかない仕事の悩みなど小さなストレスばかり。


「この小さな嫌なことを、俺の昨日から抜き取ったんですか。全然覚えてない」


「オーケー。人は知らず知らずのうちにストレスをためるからね。

 こうして昨日を組み替え直せば今日が充実するというわけさ」


友達がご機嫌だった理由がよくわかる。

嫌なことが抜き取られて組み替えられれば、幸せなことしか残らない。


「あの!! もっと解体してもらっていいですか!?」


「オーケー。気に入ってくれたようだね。ただしここからは有料だよ」


今度は料金を払って過去1ヶ月ぶんの嫌なことを解体してもらった。

ますます気分が良くなり、灰色の世界が鮮やかな色合いに見えた。


「わぁ、すごい!! 本当にいい気分だ!!」


「またのご利用お待ちしてますよ、オーケー?」


「それはもう!!」


解体屋のおかげでふさぎこんでいた気持ちは一気に晴れやかになった。

後になって知ったが、ひきこもりや自殺なんかも解体屋のおかげで変わったという話もある。


すっかり解体屋に通い詰めるようになった。



「すみませーーん!! すみませーーん!!」


「いらっしゃ……ああ、またあんたかい。来すぎじゃないか、オーケー?」


「昨日、嫌なことがあったんです。すぐに解体して取り出してください。

 こんな気分早く忘れて楽になりたいんです」


「オーケーオーケー」


一度、解体屋で解放された気分になると

ストレスをため込んだ状態でいることが前よりずっと耐えられなくなった。


「はい、オーケー。終わったよ」


「ああ、やっぱり最高だ! ストレスのない晴れやかな気分!」


「それじゃお代をいただくよ。オーケー?」


「今すぐじゃないと……ダメですか?」

「はい?」


「実は最近頻繁に通いすぎてお金がなくって……。常連のよしみでなんとかなりませんか?」


「のっとオーケー。うちは記憶を解体するからね。ツケはきかないよ。

 後で知らんぷりされちゃたまらない、オーケー?」


店主はバラバラの体を使って×マークを作った。


「……とはいえ、見たところあんたの首を締めあげてもお金は出そうにない。

 だからちょっと手伝ってもらうよ」


「なんですか?」


初めて入る店の奥へとやってきた。奥には解体された記憶がごっそりたまっていた。


「これは……」


「あんたをはじめ、解体された悪い記憶の廃棄物さ。実は処理に困ってる」


「良い記憶はないんですか?」


「楽しい記憶を解体しにくる人なんて失恋して恋人を忘れたい人くらいさ。

 普通はそんなことしないだろ、オーケー?」


部屋の隅には記憶カプセルを入れれそうな機械がある。


「この機械とかで捨てたり無害化したりできなんですか?」


「それは複製装置だ。触っちゃいけない。それよりあんたの支払いについてだ」


店主は空のカプセルと、廃棄カプセルをそれぞれ手に取った。


「1、あんたの良い記憶を解体して支払う。

 2、悪い記憶をあんたに消化してもらって支払う。

 どちらか好きな方を選べ、オーケー?」


「うっ……じゃ、じゃあ、2の悪い記憶でお願いします……」


「オーケー。みんなそっちを選ぶ」


自分の大事な思い出を失うくらいなら、他人の悪い思い出を肩代わりするほうがいい。


「本当に大丈夫なんですよね?」


「ああ、元々は誰か別人の嫌な記憶だ。あんた自身の体験となるが死ぬことはない」


ドキドキしながらも廃棄カプセルの記憶を肩代わりした。

頭の中には、学校で手ひどくいじめられた暗い過去が流れ込んできた。


「ううっ……なんだこれ……最悪の気分だ……!!」


「まだカプセル1個。支払い分には足りないよ、オーケー?」


「も、もう勘弁してください!! とても耐えられない!!」


元々は誰かの悪い記憶だったのかもしれないが移植されれば俺の記憶。

心に直接響いてくるように暗い気持ちになる。


「お願いです!! 今すぐこれを解体してください!!

 お金はあとで絶対に工面しますから!! 借金だってする!

 なんなら臓器だって売ってでもお金をかせぐから! 今すぐ解体してください!」


「のっとオーケー。言ったはず。

 ここでは、即時支払い以外は認められない。

 どんなに証拠を突きつけてもしらを切られる危険がある、オーケー?」


横目で支払い分の廃棄カプセルを見つめる。

まだまだ数はある。1つでも限界なのにこれ以上は受け止めきれない。


かといって、大事な思い出を失ってしまえばそれはもう俺じゃない。


「お願いします! 雑用だってなんだってする! だからこれ以上は……」


「……しょうがない。大仕事だが秘密の方法がある。やるかい?」


「はい!!」


 ・

 ・

 ・


目を覚ますと、悪い気分はすっかりなくなっていた。


「終了だよ、気分はどうだい? オーケー?」


「あの、なにをされたのか記憶がないんですが」


「秘密の方法だと言っただろう。秘密はヒミツだ、オーケー?」


昔のいい記憶もあるし、特に気分も悪くない。


「あの、本当にこれで支払いは済んだんですか?」


「ああ、お釣りがくるほどね。今度からはちゃんと金を持ってから来ることだ、オーケー?」


なにも失わずに店を出た。それどころか悪い記憶すら解体してもらった。

気分は無料サービスでも受けたよう。


店を出たところで、解体屋を教えてくれた友達にばったり会った。


「あ」


「お前も解体したんだな。ここはいいところだろ?」


「ああ、本当にいいところだ。ここに来れば悪い事すべて忘れられる。

 それにお金がなくっても、悪い記憶を解体してくれるんだ」


「そうそう、そうなんだよ。オレも一度お金がなくなったときに

 秘密の方法とかいうので助けてもらったんだ」


「お前もか! ったく、ちゃんと払えよ」

「お互い様だ」


笑いながらお互いの肩をポンポンとたたいた。



「最初は良い記憶を解体して支払おうかとも思ったけど、

 バイト先の好きな子に告白されたり、ケンカした友達と親友になったり

 大事な思い出を失うわけにはいかないから、悪い記憶を選んだんだよ」


「……え? お前、何言ってる? それは俺の話だろ?」


「いやいやいや、小学生のころの記憶だぞ。お前の話しなもんか」


「え?」

「え?」


お互いに顔を突き合わせ、お互いの記憶を話し合ってわかった。



秘密の方法が、自分のほとんどの記憶を解体されて

別の複製された記憶を植え付けられていることに。



今はもう、何を失っていたのかすら思い出せない。

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