第3話 密談

 ケストナーは朝食を取った後、ハルダーに声を掛けた。

「何だ、改まって?」

「フランツの事なんだが。おっかさんが魚売りの娘をあてがおうとしているそうだな」

嗚呼あぁ、その事か……息子に相談でもされたか?」

「何か暗いから、こっちから問いただした」

「やっぱりそう見えるか?」

「ああ」

「ヴァンダは乗り気なんだがな。フランツがはっきりせんのだ。誰か好きな娘でも居るのか……息子から聞かなかったか?」

「それとなく聞いたが、堅く門を閉ざして、口を開かなかった」

「ふ~ん。じゃあ居るんだな?」

「ご想像にお任せします」

「ははっ」

「所で、ザーラというのはどんな娘で?」

「悪い子じゃないと思うよ。ただ……ちょっと性格が強いかな。ヴァンダに似ているかな」

「おっかさんに?」

「ああ。若い頃のヴァンダがあんな感じだった」

「ふむ。大人おとなし目の男と、勝気な女の夫婦はよく居ますけど」

わしの事か? まあ、確かにそうだが。しかし、息子は人並み以上に気が弱いからからなあ。弱すぎて、ザーラとは全く上手く行かないのではと思いもする。いて言えば、女に対して恐怖心をいだえているやもしれん。母親の性格の強さの所為せいで」

「困りましたね」

「ああ。儂は誰でも良いから、早く嫁さんをもらってくれないかと思っているんだが」

「ザーラ本人には話は行っているんですか?」

「と思うが。向こうも盛んに勧めているようだし」

「ん?」

「実はよく知らん。女同士が意気投合しておってな。儂は関与しないようにしておる」

「逃げの一手で?」

「そういうな」

「話をくくると、相性に不安があると」

「まあな。乙女の心内など儂には解らんが……ザーラのような娘に取って、内のでは物足りんのではなかろうか?」

「何が足りないんだい?」

 と、ヴァンダがぬうっと背後から現れた。

嗚呼あぁ……座員の数が。幾らなんでも少な過ぎて、舞台の厚みが薄くなるんじゃないかって話をしてたんだ」

「そんなの、仕方ないじゃないか。ねえ、坊や」

「ええ」

 と、ケストナーは首をすくめる様にうないた。

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Tänzer,Hexer《テンツァー、ヘクサー》踊り子と妖術師 訳/HUECO @Hueco_k

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