第2話 嫁探し

 翌朝、ケストナーは物音で目が覚めた。

 演舞場の方に行ってみると、フランツが掃除をしていた。

「朝早くから、ご苦労だな」

「おはようございます」

 と、フランツは手を止めた。やはり、表情は何処か暗かった。

「どうした、余り元気が無いな」

「そうですか?」

「ああ。おやっさんよりも具合が悪そうだ」

「えっ!」

「悩み事でも有るのか」

「……」

「恋の悩み?」

 フランツは目を見開いた。

 その表情が少し可笑しかったが、ケストナーはおくびにも出さなかった。

「図星か」

「……」

 フランツはしおれた花のようになった。

「実は母が最近、花嫁探しをし始めまして」

「君のか?」

「はい」

「もう、そんな歳になったか。こっちが歳を食う訳だ」

「……」

 と、フランツは気持ち笑うだけだった。

「で、相手はもう?」

「はい」

何処どこの娘さんだ?」

「魚売りの娘です」

「名は?」

「ザーラ……母はもう誰それ構わず手当たり次第に、良い嫁は居ませんかねって声を掛けまくる次第で。それで、家に魚を売りに来る小母おばさんが、自分の姪はどうだって勧めたら、母はその話に乗ってしまって。どうだい、ねえ? どうだい、ねえってさぁって、四六時中煩うるさく付きまとってくるんですよ」

「ふ~ん。それは強引ごういんにか?」

「違うとでも?」

「いや。おかっさんの性格から言ったら、この子におし!って決めてしまうんじゃないのか?」

嗚呼ああ~、まぁ」

「優しい猫撫で声で籠絡ろうらくしようとしているのなら、一応息子の意思は尊重していると思うぞ」

「……」

「おやっさんの体の調子も良くはないみたいだし。一人息子に小屋を無事引き継がせたいとの親心があるだろう」

「……」

「所で、ザーラとは?」

「まぁ、お互い顔を知っているぐらいです。話した事はありません」

「余り気に入ってない?」

「あっ……んー」

「何だ、駄目なのか? じゃあ、他に好きな子でも居るのか?」

「……」

 フランツは余計に黙り込んでしまった。

「言えない?」

「……」

 否定も肯定もせずに、体を小刻みを揺らしていた。

 これは言いそうにないと、ケストナーはそれ以上は追求しなかった。

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