停話:老錬金術師の旅は気ままに思うまま。

「で、もう解決して颯爽と去ったはずなのになんでまだ此処にいるのさ。あんた。」あくる日の朝、安和あんなは駅前でマーガスを見つける。


「風と雲はどこにもあるもんじゃて。」翁は口にくわえていたパイプをはずして笑う。

「何それ意味わかんない。」

「まぁ、どこかへ吹かれて行こうと思うまでは、ここにおろうかのぅ。」マーガスは顎に手を当て街を流れ行く人波を眺めている。


 二人の間に沈黙が行きかう。安和は二人の間で会話のネタを探した。

(昨日の事は辛気臭くなっちゃいそうだし。じゃぁ。)

「あんたさ、魔術できるならさ。えーっと。あれ、そうよ。占いとか無理なの?」いくつか考えて“魔術”を種にすることにした。

「占いかぁ。」

「なに? できないの? 天才だ天才だってさんざん言ってたのに。」

「いや、できる。できるがしてどうする? と思うてな。わしもわしのことを占ったことが何度もある。結果を得てもその時が来るまで結果が何を指し示しているかわからんかったもんでな。」

「危険や危機が迫ってることとかわかった方がいいんじゃない?」


「占って危機がわかると言ってもこれから先に苦難や危険があると言うだけでな。いつどこで誰のせいで等と言う詳しいことを占うことは無理なんじゃよ。そしてそういう抽象的なことがわかったところで、それが来るまでの間ずっとそれにおびえながら生きていかねばならんのじゃぞ? それはひどく時の、若さの無駄とは思わんかね?」マーガスは安和を諭す様に言う。


「あらかじめ起きる出来事が詳細にわかれば対応はできるじゃろうがおぼろげな恐怖であれば直面したその時に対応すればよい。今回のようにの。人は全てを完璧になどできんのじゃから。」

「そりゃそうね。じゃぁさ、」

「ん? まだあるのかね?」


「明日の天気ってどうなの?」


「それならば占って進ぜよう。っむー。いぃいえぃい!」錬金術師はちらりと視線を上げた後に大仰に手を振って気合の声を上げ集中する。一度目をつぶり、カッと見開くと結果を告げる。


「晴れじゃな。降水確率0パーセント。最高気温二十度、最低気温14度。」

「それ、天気予報じゃん。あそこに映ってる。」安和はスクロールする掲示板を指し示すして笑う。

「こここれ、天気予報はもうすでに科学の範疇じゃてな。ははは。ま、お主がおるところはいつも晴れとるじゃろ。」


「なによそれ。」

「なにしろあっけらかんと受け入れて前を向いてふるまえるんじゃから。」

「ほめてんだか貶してんだかわかんないんだけど。それ。」不満そうにマーガスを睨んだ。

「心の明るさは危機だろうと人だろうとなんでもかんでも明るくするものよ。ほれ、はよ行かんと遅刻するぞい。」すっと手を押し出して急げとマーガスは動かす。


「そうね。あと、あのさ。ありがとね。」

 彼女は心に置かれて行った忘れ物を今度は忘れずに彼に届けた。


「うむ。」

「あぁ、あたし、あんたに名前行ってなかったわね。私、東風安和! それが私の名前。じゃぁね! えっとぉ、マグ爺さん!」マーガスをどう呼ぶか考えていた安和は最後に彼の愛称を勝手につけて駅前のロータリーを去って行った。



「確かこの国では名が後ろに、姓が前じゃから……。なんとまぁ、似とる似とるとは思っていたがそこまでとはのぅ。」マーガスはまなじりを下げアンナを見送るとさっきより少し明るく感じる街をふらりと歩み出した。ここに来た時のようにどこへともなく。無目的に気ままに。

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老錬金術師はかく歩みし 作久 @sakuhisa

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