第3話 リゾ・ラバ

 とてもきれいなフォームで滑る女性がいた。

 白いスキーウェアを着た、見たことのない女性ひと


「お!? あれは誰だ?」


 直継さんが最初に気がついた。

 が、すかさずてとらさんに目隠しされてバランスを崩し、ふたりしてゴロゴロ転がって行ってしまった……。

 とりあえずトウヤに注意を促し、シロエさんとにゃん太さんにも念話する。


「うん、こちらでも気がついているよ。今ソウジロウが様子を見に行ってる」


 ソウジロウさんが近づいて何か話しかけている。

 見知らぬ女性は、ワンレングスの髪をバサリと揺らして何か答えた。

 その瞬間、ソウジロウさんが後ろに飛び下がった。


「ナンパじゃないの?」


 不思議とその声は、私たちのいるところまで聞こえてきた。

 いや、ゲレンデにいるすべての人に聞こえたみたいだ。


「ナンパじゃないの?

 無欲なの?」

「無欲かしら?」

無欲むよくかしら?」

「むよくかしら……ムヨクカしら……ムヨクカ……し……ら」


「シロエ先輩! この女性ひとなにか変です!」

「そうみたいだね。ソウジロウ、ちょっと距離を取って」


 トウヤや直継さんはじめ、壁役の人たちがすかさず取り囲む。

 そして落ち着いてその女性のステータスを見ると……。


「シロエさん! この女性、人じゃありません!! 典災ジーニアスです!」


 ステータス画面に映ったのは「ゲレンデの典災『リゾラバ』Lev.120」だった。


「レベル120だと!? あり得ねぇ!!」

「信じられなくても、とりあえず当たってみます!」


 ソウジロウさんがヒットアンドアウェイの要領で斬りかかる。


「シロ先輩! なんか手応えが変です!! とてもレベル120とは思えない。せいぜい俺たちと同じか少し弱いくらいの感触です」


 相手の動きを読み、仲間たちのHPMPを30秒先まで1%刻みで把握する全力管制戦闘フルコントロールエンカウント

 しかしリゾラバの全力がどの程度なのか判らないから、ついつい安全マージンを多めに取りながらの戦いになってしまう……。


 女性に剣を向けるのがためらわれるのか、ソウジロウさんだけではなく、にゃん太さんも直継さんも戦いにくそうだ。


「厄介だね」

「そうですね」


 シロエさんと私は眼と眼で会話する。


「主君、私は思うのだが……」


 アカツキさんが声をかけてきたまさにその瞬間!


「天誅〜〜!」


 裂帛の掛け声とともに、山の稜線からカナミさんが飛んできて、リゾラバの後頭部に飛び蹴りを食らわせた。

 そして着地とともに、シロエさんに回し蹴り!


「どうしてこんな楽しそうなことに私を誘ってくれないのよ!?」

「いやいやいやいや、カナミさん、全然連絡つかないじゃないですか!?

 それより今、どうやって倒したんですか?」


 ふむん! と胸を張り、カナミさんはドヤ顔で「スキー場での見た目は、普段の3割増し! 見た目レベル120なら、せいぜい90あるかないかってところじゃん? 防御の弱いところなら私のキック一発で倒せるよ!」


 カナミさんがいつもより頼りがいがあるようにみえるのも、きっとたぶんスキー場で3割増しなせい。



 fin

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