第1話ヘタレ勇者と白龍種

 龍目がけて振るった刃は龍の首へと入り込み、龍の首と胴体と二つに分けた。

 龍の周りにいた兵士、民達は、沈黙した……が、その沈黙はすぐに止み、歓声へと変わった。


「兄ちゃん!龍を一発でやるなんて、凄いな!」


「あんた、龍騎士かい!?」


 など、色々な声が聞こえてくる。

 しかし僕は……


「い、いえ、一発なんてたまたまですよ!剣が入った場所が良かっただけですよ…」


 といった感じに否定する。

 しかし街の人々は「たまたまで龍を一発で殺せるもんか!」だの、「流石龍騎士様は違うねぇ」とか勝手なことを言っている。

 確かにたまたまでは無いことは肯定する。しかし僕は龍騎士などではない。

 ただの……ただの勇者だ。それもかなりのヘタレ……。

 僕はいそいそと元いた部屋へと帰ろうとする。

 その時だった──


「龍はぁ~!どぉこぉぉぉぉぉぉぉお!!!」


 この辺り一帯に響いたその声の主は、一人の少女だった。


「龍が現れたんだって!?龍騎士であるこの私が成敗してあっげるわぁ!」


 ん?どこかで見たことあると思ったら、あぁ、つい先日この街に入った時帝国兵士に囲まれてた人じゃないですか。

 あの人龍騎士だったのか……。

 でもまぁそんなことはどうでもいい、部屋……今日を生き延びるための術が……崩壊した。

 ただでさえお金が少ないっていうのに……ローン、修理代……その他水道代電気代などなど、お金がいっp


「あぁぁぁぁあ!!え!?なんで!?龍首切り落とされてるじゃないなんで!?私以外に龍騎士が街に来てるの!?ねぇ誰か教えて!これじゃ私来た意味ないじゃない!騎士団長になんて言えばいいの!?」


 かの有名な龍騎士様はどうやら任務でこの街周辺をウロウロしている龍の討伐を命じられたらしい。

 しかしその任務を僕が奪ってしまった……

 これ、業務妨害とかにならないですよね?大丈夫……だよね……?

 僕が部屋を破壊されたと言うくだらない…いやくだらなくなんか無いけど……まぁそんな理由であの子が龍騎士クビになったりしたら───


「ねぇ!龍誰がやったの!どこの龍騎士!なぁんで誰も教えてくれないのよォ!」


「お嬢さん、龍ならそこにいるわかも──」


「すいまっせんでしたぁぁぁぁぁぃぁぁあ!!!!龍を殺ったの僕です!宜しければ龍騎士団長には貴方の手柄と報告してもらって宜しいですぅ!」


 これで彼女のクビが取り消されるのであればいくらでも差し出そう……僕のせいで彼女の天職を失わせるなんて許せない!

 彼女がクビにならないのなら龍の首なんていくらでも差し出そう。

 しかし彼女は──


「そうっゆう事じゃないでしょう!私以外に龍を殺せる人がいるっていうこーとーがぁ……え?貴方が……龍を?」


「はい、その通りです…すいませんでした」


「いや、謝らなくてもいいけど…貴方、ただの勇者よね……」


「その通りです…すいませんでした」


「いや、でもただの勇者が……龍を殺すなんて、不可……能」


「いや、僕が勝っている時点で不可能ではないです」


 彼女の言う通り普通、ただの勇者如きに龍種はおろか、獣種ベスティエを倒すことすらままならない。

 その底辺職勇者が龍種を倒したとしたら……


「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!」


 こうなる。


「まぁその辺の事は気にしないで早く騎士団長に報告してきたらどうですか?」


「ん~……」


 気に食わなさそうに眉間にシワを寄せる。せっかく可愛い感じの顔なのにブサイク寄りになってきてるから止めさせてあげたい。

 だがしかし、彼女の顔はすぐにドヤっとした顔になり……


「で、でもぉ、今回出された任務はァ、この国周辺の龍種討伐…ではなく白竜種シュネーヴァイスが見られたと言う報告だったのですよォ!」


 それはドヤれる状況ではないのではないか?

 龍種だけでもこの騒ぎなのに白竜種がきては大変、どころではないじゃないか……


「だから、貴方がこの龍を倒した所で……」


 彼女が喋ってる……刹那


 熱い、真っ赤な炎が街の半分を飲み込んだ。


「きゃっ!な、なに!?」


「あー、これは龍の咆哮ですねぇ、さっきあなたが言ってた『白龍種』ですよ」


 咆哮の先を見てみると、いた。


「ほら、あそこに見えるでしょ?白い鱗を持った、お空を優雅に飛んでいる白龍さんが……」


 俺が指さす方向には翼を上下に揺らし飛んでいる白龍種が見えた。

 白龍種は僕らの方をちら見して、すぐに視線を龍種の死体へと向けた。


『そこに倒れているのは、吾が戦友、サハルドでは無いか?』


 戦友……全龍種は群れないと言うが…、まぁそれはレアケースで良いけど…

 はぁ……龍種に続いて白龍種まで……

 怖くて足が動きませんよぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!!!!!

 なんで?なんで龍種に続いて白龍種まで出てきたんだ!?

 あ、でも龍騎士さんいるし大丈……夫…


「龍だ龍だ龍だ龍だ龍だ龍だ……」


 なんかすっごい震えてるんですけどぉぉぉぉぉお!?


「あの、もしもし龍騎士さん?もしかして龍は初めて……というか震えすぎてやばいですよ?」


 だが、これは僕の勘違いだった。


「初めてと言えば初めてよ……白龍種がね!だからこれは……これは武者震いよ!」


 だそうです。

 この調子なら任せても問題なさそうです。

 でもまぁ白龍種は龍種と違って戦闘力、はたまたま知性も段違いに上だから……

 さんにはきついかもしれないな。

 龍騎士さんは大きな斧を構え、「行っくぞー!」と叫びながら白龍に向かっていく。彼女はほんとに龍騎士何だろうかと疑いたくなる戦い方だが、大丈夫だろうか。


『吾に向かう無謀な者、其は騎士であるな。無駄な足掻きはやめい。其等は今から消える』


「そうはさっせないよォ!」


 何の対策もなく白龍に挑みに行くのはハズレだろうな、あの龍騎士……

 だから僕は腰に挿した剣を抜き、そっと白龍の元へ歩み寄る。

 笑顔で白龍へと向かうポンコツ龍騎士。

 白龍の表情に、少しの失望が見えた。

 と、そう分かったのだろう。

 きっとあの龍騎士はだ。

 騎士団長は、下っ端の龍騎士を、白龍が本当にいるかどうか判断するためだけ。あの龍騎士が帰還しなかったらいる。帰還したらいない。という感じだろうか。

 団長、もっと国民を信じてみたらどうですか……


『哀れな、人間め……』


 そう告げた白龍は、先程放った咆哮を……龍騎士目がけて放った。


「えっ」


 まぁその反応はそうだろうな、白龍種は龍種と違い、利口だ。

 相手の行動をよく見ないで爪攻撃をまず放ってくる龍種とは違い、白龍種は相手の行動の先読みをちゃんとする。それに

 炎を連続で出せない龍種とは違い、白龍種は連続で出せる。

 だから龍騎士は、その白龍種の攻撃に、回避行動が取れていなかった。

 だから僕は、アホ程無策に突っ込む龍騎士の首根っこを引っ張り、こちらに向けられる咆哮を切った。


「白龍種は、龍種と火炎袋の大きさが違って連続して炎を吹けるんですよ」


 僕は……無知な龍騎士を背後に、目の前の白龍種に刃を向ける。


『其も龍騎士か…いや、違うな。其は何者だ?』


「あー、ただの勇者です」


『ただの勇者が、吾の方向を?くはっ、笑わさせてくれる。死ね』


「嫌です」


 僕はそう告げて、思い切り地を切り蹴った。

 白龍種は大きく息を吸い、炎を放つ……前に僕は白龍種のこいつの火炎袋当たり、脇腹に剣を突き刺す。

 これで勝ち。火炎袋から漏れ出した炎が内蔵を焼き尽くし死ぬ。自分の炎で。

 白龍種もそれに気づく。


『ガっハ……!其は、今わしの火炎袋を、吾等白龍は火炎袋の位置が個体個体微妙な違いがある。何故吾の袋の位置が、分かった』


 現在も内蔵を燃やしている白龍は最後の力を振り絞ってか、「何故俺の火炎袋の位置が分かった」と僕に問いかける。

 僕はその質問に少し俯き考える。

 そして僕は言う。


「勘……ですよ」


 僕はそう告げた。

 その答えに白龍は呆れた顔で、こう告げる。


『勘などで、殺られては白龍の名が廃る…ではないか、ハハ、見事であった…………』


 そう言って、白龍は絶命した。

 僕は剣をしまい、龍騎士の元へと駆け寄る。


「大、丈夫ですか?」


「大丈夫よ!少し驚いただけよ!」


「そうですか、なら良かったです」


「ねぇ、名前……聞いてもいい?」


 その質問に少し考える。

 こんな見知らぬ人に簡単に個人情報教えていいのか?いやもう一緒に?戦闘をしたんだから教えてもいいのか?この際だから偽名でも使うか?いやいやそれは悪いし……だけど!


「僕の名前は……山田=カトリーヌ=ドゥクシだよ」


「貴方は嘘が下手なフレンズなんですね……私はノエル=ジュエリアです。貴方の本名は?」


 ノエル……ノエル=ジュエリア……可愛い名前だぁ♥

 っと、うっとりしてないで相手も本名を言ったんだから僕も言わないとな……


「僕はカーウィル=ライオスだよ、宜しく」


「宜しく、見た目に似合わずなかなかいい名前ですね」


 みた……見た目…口をω《こんなん》にしながら涙目でノエルを見つめる。

 しかしそんなことお構い無しにノエルは二体の龍の死体の方へ歩みを向けた。


「これ、どー処理するの?二体もあるけど」


 二つの龍の死体を指さしそう告げる。

 確かに、龍は体が大きい。普通は防具、武器の素材として牙や角、鱗などを少々持ち帰るが……龍種、白龍種丸々一頭分あっても……あ、剥製とかいいんじゃないかな。あの王宮にドーンと剥製建てて……待てよ?動物愛護団体に訴えられるんじゃ……いや、龍は動物なのか?龍ってなんだ?


「ねぇ!聞いてる!?この二頭どーするのって!」


「あ、あぁ……埋める?ハカタテル?イノル?アーメン?」


「はぁ?」


 うん、考えすぎて何言ってるか分からない。

 とりあえず落ち着こう。、3.143.1439143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.143.14……

 よし落ち着いた。


「まぁとりあえずハグモン剥いで、埋めときましょうか、英雄ここに眠る的な…」


「あ、はい」


 この後僕達は、一言も発することもせず、黙々と龍の鱗などを持ち帰り、帝国兵士の力を少し貸してもらい龍を国外の広い高原へ連れていき埋めました。


「ふぅ、まぁ……こんなもんですかね」


「まさか……はぁ、ほんとに埋めるとは、はぁ、思わなかったです、はぁ」


「ノエル少し疲れすぎじゃないですか?ほんとに龍騎士?」


「失礼ねちゃんと龍騎士ですぅ~!というかあんたこそ龍騎士じゃないのにあんなあっさを龍をかれるのよ!」


 難しい質問だが、一言で言うと……


「経験……かな」


 にこ、と微笑みかけながら言うとノエルは…「ちっ!」と大きな舌打ちをしてから王宮の方へと歩いていった。

 が、少ししたら振り向きこちらに話しかける。


「ねぇ、カーウィル、あなたこれからどーするの?」


「あー、家壊れちゃいましたしとりあえず修理代を稼ぎに行こうかと……」


 いくらになるんだろうか……修理代。正直の所龍二体やったんだから助けてくれてもいいんじゃないかな~って思うけど……。しっかり払わないといけないのが現実。現在って厳しいなぁ……。

 とか何とか考えているとノエルがズカズカとこちらに寄ってくる。


「手伝ってあげる!今回のお礼に!この龍騎士様が!」


 !!

 凄い、人助けをすると自分がスッキリするだけじゃなく、助けてもらえることもあるのか!

 今まで何度か村やら街やらを獣種から守ったりしたことあるけど「ありがとう」と、言われるだけだったけど、力ある人は仕事を手伝ってくれるのか!

 あぁ、ほんとに有難いなぁ、こんなの、断れるわけないよなぁ!


「けど、一人で問題ないので結構です!ノエルは騎士団長の所に行って下さい!」

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ヘタレ勇者の龍殺日記 烏丸 ノート @oishiishoyu

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