3年B組ぃ~~!先生いないーー!!

ちびまるフォイ

先生がいない超優秀学校

「教えるのが下手な先生って絶対いらないよな」


「どうした急に」


「教えるのが下手で、特別に生徒から人気があるわけでもない。

 そんな先生って学校にいる意味ないなって思ったんだ」


「おま……先生も過程があるからな。

 先生の才能がなかったとしても教団に立たなきゃ困るってこともあるだろ」


「じゃあ、俺たち中学生は存在意義のない教師の飯の種にされてるのかな」


「お前盗んだバイクで走り出すなよ」

「どう見えてるんだよ」


中学生の卒業式を終えた俺は高校に進学した。

中学最後の会話が先生の存在理由というのだから涙も出てこない。


高校の入学式。


生徒が並ぶ体育館に教員は誰一人としていなかった。


『みなさん、進学おめでとうございます。

 我が"まっさら高校"では教員も校則もありません。

 みなさんで高校を作り上げていってください』


事前に入力されたのだろう、自動音声が機械的に流される。


『これから行われる学期末試験でもっとも成績の良い人間が

 この高校の校則を1つだけ追加することができます。


 みなさん、ひとりで頑張って勉強しましょう!』



「な、なんだそれ……!?」


いまどき、塾にだって先生はいるのにここは完全に無法地帯。


ただし、学校には監視カメラがいくつもあるので

校則を守っているかどうかだけはきちんと確認しているらしい。


校則を守らなければ悪ければ退学になるので、

学校という閉鎖的な環境では世界の秩序そのものといっても過言ではない。


「待てよ……。これ、女子の制服を下着とかにすれば……!!」


悲しいかな男子高校生の発想力はだいたい一方向に偏る。

死に物狂いで勉強して期末試験に臨んだ。


栄えある最初の校則獲得者は……女子だった。


「校則1:校内にいる女子の過半数以上が嫌がる校則は無効とする」


「「「 ちくしょぉぉぉ!! 」」」


同じくいやらしい校則を考えていたのであろう男子陣は悲哀の叫び。

中学ではそこそこ成績がよかった俺もこの学校では太刀打ちできない。


先生が1人もいないのに、みな校則制定のためにやっきになっているのだろう。


「え? 勉強? ぜんぜんやってないよ?」


と、誰もが言うが必ず俺より高い成績を取ってきやがる。

なんていう天才高校だここは。


「負けるかーー! 俺だって校則決めてやるぞぉぉ!!」


浪人生も引くほどに勉強をして臨んだ第二回期末試験。

結果は……やっぱりだめだった。


満点の生徒同士て延長戦すら行われるほどの成績格差。


今度、校則権を勝ち取った男子は学級会を開いて校則の相談をはじめた。


「では、一番いい校則はなにかアイデアを!」


「次から決められる校則は100個って拘束にしようぜ!」


「バカ! 決められる校則数を増やしたら制御できなくなるだろ!」

「それもそうか」


「スカート丈はひざ丈以上、とかは?」


「女子に否決されたら元も子もないよ」

「そっか……」


男子たちは相談のすえ、校則で校内にWIFIスポットを置くことにした。

まもなく業者がきて手際よくネット環境が整備された。


「すごい……校則はなんでもできるんだ……!!」


その気になれば学校に温泉をつくることも、

映画館ばりの大画面でゲームすることだってできてしまう。


校則さえ獲得できれば。


「うぉぉぉぉ!! 負けるかぁぁぁ!! 俺も校則決めてぇぇぇ!!」


勉強の意欲はますます沸いて、高1にして高3の勉強まで進む。

そして行われた期末試験。


結果は……ふたたび敗北。


「ぬわぁぁん! また負けたもぉぉん!!」


わずかなスペルミスで99点になってしまった。

普通では高い点数でも、校則欲しさに成績インフレしているこの高校では

満点を取らない限り、校則権のスタートラインにすら立てない。



校則3:ジュースを無料で飲めるようにする


校則4:校内にネイルサロンを開設


校則5:制服は私服とする


校則6:学校への送り迎えが全生徒対象に行われる


校則7:校内で人の悪口を言うことを禁止する


校則8:1ヶ月に1度クラス単位で修学旅行を行う


校則9:学食はバイキング形式とする


校則10:フリーお昼寝制度と個室を整備する


 ・

 ・

 ・




校則は期末テストのたびにどんどん増えて、学校はみるみる変わっていく。

いまだに1度も成績トップを取れずに校則は決められない。


「うう……ちくしょう。次が最後の試験か。絶対負けないぞ!」


校則:生徒には1ヶ月10万円を与える。


まだ誰も金についての校則は決めていない。

1億とか100万とか大金では親に怪しまれるし狙われる。

10万なら高校生には大金だし、親もしゃしゃり出てこないちょうどいい金額。


最後の期末試験、絶対に負けるわけにはいかない。


「うおおお! やってやる!!」


修羅のごとく勉強に取り組んだ。

もはやテスト範囲など眼中になく大学院レベルの勉強をこなす。


いざ始まった期末テストでは何度も答えを見直して間違いがないことを確認する。

結果は100点。予選を突破する。


「安心はできない。ほかの奴らは当然のように勝ち進むのだから」


先生不在のこの学校では生徒の成績が異常に高い。

もはや期末テストで満点を取るのは、決勝にコマを進めるための通過点。


決勝の期末テストはサドンデス用にさらに問題が難しくなる。


「ふふふ、所詮は高校レベルの期末テスト。こんなのわけないぜ!」


今度はさらに念入りに答えをチェックする。


回答欄はズレていないか。

漢字は間違っていないか。

スペルのつづりは合っているか。

誤解されそうな文字はないか。


――完璧。



ここまで難しい問題を完璧に解けばきっとトップになれるはず。

採点が終わると最後のテストが戻って来た。


『成績トップはC組の茅原冴子さん。校則を決めてください』


結果はまた落選。

優勝者と同じく満点だったにもかかわらず回答速度で負けてしまった。


「ちくしょーー! みんな人間じゃねぇよぉーー!!」


かくして、俺は1度も優勝することなく学内の試験を終えた。


その後に待っていた大学受験の試験がはじまる。

校則ほしさにあれだけ勉強したので途中で眠くなるほど簡単だった。


「はぁ……うちの学校のレベルじゃこんなの簡単すぎるよ……」


試験会場は別の学校だったので久々に先生というものを見た。

テストを受ける生徒の横を巡回していた。


「ほんと、先生ってなんで必要なんだろ……」


先生不在で異常に成績を上げられた。

中学の疑問は晴れないままに大学受験を終えた。




大学受験が終わり結果が出ると全校生徒が体育館に呼び出された。


『みなさん、大学受験お疲れさまでした。

 あれだけ期末試験の成績がよいみなさんなら

 きっと良い点数が出るでしょう』


人工音声が淡々と流れていく。

俺の試験結果はもちろん満点。


『が、』



『たった1人を除いて、全員の試験成績がぼろぼろってどういうことですか!!

 あれだけ勉強できて、どうして大学受験になるとダメダメなんですかーー!!

 この、カンニング常習犯どもーー!!!』



校則53:試験時には試験官として先生を配置する。



その後、はじめて学校側から校則が追加された。



「ああ、先生の必要性ってそういうことなんだな」



最後に学内成績トップに輝いた俺はやっと先生の存在理由を知った。

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