第52話 番外その2

 場所はルフォス家の四つある風呂場の一つ。

 先程泣き腫らした目を冷やすために冷水を頭からかぶっているのは、キースその人であった。顔を上に向かせ、シャワーから降る冷水を殊更目元に当てる様にしている。赤く彩られた目元には気持ち良さそうだ。


「……あ、主、だ、大丈夫ですか?」


 そこに声をかけるのは、キースの精霊であるアレフだった。アレフは、センドリックの精霊ルトに引きづられた後しばらく捕まっていたがレイラ達の話が終わるとキースの元に帰ってきていた。

 気が小さいためか、それとも気の荒いルトに捕まった感触が消えていないのか、未だに顔を若干青ざめさせている。


「うん……。心配かけてごめんね、アレフ」


 目をアレフに合わせ、まだ少しだけ残る鼻声でキースがアレフに言葉を返す。


「い、いいのですよ、主が元気にさえなってくれれば」


 もじもじと続く言葉を探す様にアレフが目線を彷徨わせる。


「……あ、あの……主……」


「なに?」


 柔らかく聞き返すキースに、勇気を振り絞り思い切った様にアレフが口を開く。


「あ、あの! ぼ、僕は! あ、主が天才であろうとなかろうと! ずっとずっとずっと! そ、側にっ、いますから! どんな主……、どんなキース様であろうとっ! ぼ、僕の主は、キ、キース様ただ一人でしっ! っ!?」


 最後の最後に舌がもつれてしまって噛んでしまったアレフは、羞恥に顔を真っ赤にさせる。

 そんなアレフにキースは、ふふ、と父親譲りの笑みを浮かべると、そっとアレフを手で包み込み頰を擦り寄せる。


「……うん、ありがとう」


 その頰を滑るのは、シャワーからの冷水かそれとも。

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レイラ 露草 はつよ @Tresh

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