番外編

第51話 番外その1

 とりあえずひと段落ついたところで、キースは慌てて私たちを近くにある応接室に通し、自分は身なりを整えてくると言って、トムさんを呼んで行ってしまった。

 泣きすぎて目が真っ赤になってたから、しばらく氷でも当ててくるのだろう。それかシャワーを浴びて来るかもしれない。

 まぁとにかく、よかった。

 そう思って、横を見ると完全に脱力してソファーにもたれかかってるのが一人と、自分の膝に肘を立てて顔を埋めている人が一人。

 私が一番端っこの座っているからか、二人の様子がよく見える。


「「はぁー……」」


 同時にその二人がため息をつくと、お互いに顔を見合わせて肩をたたきあった。

 疲れた二人は言葉も出ないようだ。いや、疲れたというよりは安堵して余計な力が抜けたというべきか。

 そう納得していると横で「あ゛―……」とため息だかうめき声だか判別がつかない声がした。


「どうしたの?」


「いや、もう、なんつーか、あ゛――――」


 ソファーに全力でもたれかかっているのはヒューバレルで、自分の両手で顔を覆うとまたうめき声をあげる。

 その隣でまた深いため息をあげるのはセンドリック。


「ふぅー……。ヒューの気持ちはわかりますよ……。私の場合は安堵感以外に疲労感が同じくらい出ているんですけどね……」


 確かに、今日のセンドリックは大変そうだった。今は気持ちに余裕ができたからか言葉遣いは元に戻っている。


「それにしても、ヒュー」


「何―?」


「本気だったのですか?」


「何がー?」


 力が出ない声でお互い会話しているのは、側から見てるとなぜか面白い。


「アレですよ……。キースの前から消えるって」


「……あーー…………まぁね」


 そう答えるヒューバレルに、センドリックはしばらく黙ってから口を開く。


「バカ、ですね」


「……」


 それに答えないヒューバレルはきっと自分でもそうだと思ったのだろう。

 それにしても……。


「センドリック」


「なんですか?」


 声をかけるとうつむかせていた顔をセンドリックは上げこちらを見る。


「アレ、どうやったの?」


「アレ?」


「攻撃魔法」


 土魔法での攻撃魔法が不可能なはず、ということを示唆しながらも聞く。


「あー……アレ、ですか……」


 そう言うとセンドリックは答えに窮した様に口を閉ざした。そんなセンドリックにヒューバレルが口を挟む。


「センドリックー、レイラは大丈夫だー」


 若干だるさが残る声でヒューバレルが促すと、センドリックはゆっくりと口を開いた。


「まぁ……、そうですね。レイラの事は信用しています。大丈夫でしょう」


 確か、センドリックは後継では無いはず……。だから精霊魔法の可能性は無いだろう。

 なら、独自で見つけた魔法なのだろうか。


「私の場合はですね。ルトがちょっとおかしいのですよ」


 え?


「おかしい……?」


「ええ。普通の土精霊であれば、攻撃魔法を使おうとすると嫌悪感に襲われ使いたくならないそうですが……。ルトの場合、同じ様に嫌悪感はあるものの、本人曰く『ド派手』な魔法が好きなので自身でその嫌悪感を無理やり押しのけて『ド派手』な魔法を使っているのだとか。だから、ほら」


 そう言って、センドリックは自分の頭の天辺を指差す。

 つられる様にしてジッとその先を見つめると、髪に混じってルトが苦しげに横向きになって寝ていた。

 随分と具合が悪そうに見える。


「嫌悪感を無理やり押しのけて使っているせいか、興奮が治るとこうやって押しのけた反動がくる様でして」


「え、それ大丈夫なの?」


「ええ。しばらく休ませていれば、そのうちまた復活しますよ」


「へぇ、そうなんだ」


 なるほど。確かに随分と変わった土精霊だ。

 自身の本質を抑えてまで魔法を生み出す……か。なんだか、どこか芸術性を感じてしまうのは私がおかしいのだろうか。


「だからあまり軽々しくルトは外には出せないのですよ。土精霊と契約している、どこかの馬鹿野郎にでも話が伝わってしまえば自分の精霊に無理をさせかねません」


 『馬鹿野郎』のところで一気に声音が低くなって一瞬肝が冷えた。前にそういう奴がいたのだろうか……。

 でも、なるほど。確かにそう簡単に外で見せることができなさそうだ。


「と言うことでレイラ、この事はご内密に」


 ニッコリと笑顔を浮かべながら、センドリックが言う。その笑顔にどこか薄ら暗いところを感じて背筋を震わせながらも、コクコクと頷いた。……今後センドリックを怒らせるのは、止めておこうと言う決心がますます強くなった。

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