第4話 Boy meets girl?

 意識がだんだんハッキリしてくると感覚も大分戻ってきた。

 いま感じられることは、気温が丁度いい感じということ。それと現在自分は横たわっていることなどが分かる。背中がヤケに硬いものと接触しているのを感じるからだ。

 それに見えるはずの空の代わりに何とも無愛想な岩でできた天井があるから洞窟のような所にいることが分かった。背中だけ起こして先を見てみたが奥の方も同じ感じだった。そういえば洞窟は光が入ってこない為真っ暗なはずだが、どういうわけかここはそこそこ明るかった。

「君、君。大丈夫かの?」

 不意に誰かに声をかけられた。焦ったが少し思い直す。そういえば異世界に行ってもらうとかで変なお姉さんに銃で撃たれたんだった。

 しかし異世界にきて最初に出会うのは美少女と相場は決まっている。これから始まる甘い展開に思いを馳せる。

 ついに俺の時代が始まる!と期待を抱きながら振り返った。しかしそんな儚い希望は一瞬でかき消されることとなる。そこには美少女ではなく血だらけの爺さんが一匹いた。俺の中の何かが急速に冷めていった。

「だ、大丈夫だと思います」

 大丈夫ですか?こっちのセリフだよ!

「えっと、お爺さんこそ大丈夫ですか?」

 俺はそんなツッコミをしたい衝動をなんとか抑えて冷静に返答した。

「へっ?」

「お爺さんこそ大丈夫ですか!」

 俺はさっきよりも大きな声でもう一度尋ねた。

「入れ歯のことかの?あ~そうじゃな、最近はやたらと嚙み合わせが悪くてのう~。じゃからもう一度調整してもらわないといかんのじゃ」

「入れ歯のことじゃなくて!体の方ですよ!体!」

「なんじゃ、体の方じゃったか。近頃は腰も悪し膝も悪いしそれに加えて頭まで悪うなってのう~困っとるんじゃ。わっはっはっは!」

 この爺さん色々と大丈夫か?少なくとも体の方は大丈夫なわけがない。

 医学に関して全く知識がない俺でも一目でこれは重症だと分かるくらいなんだから。この爺さんが重症じゃなかったら一体誰が重症と呼べるのだろうか?甚だ疑問だ。

 でもまあお爺さんが大丈夫だと言ってるし、痛そうじゃないから多分大丈夫なんだろう。いや、大丈夫だよな?そう思いたい。

「それで?なんでこんな所で寝ておったんじゃ?」

 唐突に聞かれて戸惑った。そういえばそうだー。俺は確か女神を名乗るお姉さんに家に乗り込まれた。そして自分の職場である異世界という所に行ってもらうから一回死んでくれと言われて、それから銃で撃たれて今に至る。

 簡潔にまとめるとこんな感じだろうか。しかしこんな素っ頓狂なことを答えるわけにはいかない。変な奴だと思われそうだし。

 それにまだ心の準備が出来てなかったのに打ちやがったぞ。もはや女神というかどちらかというと悪魔だ。とんでもねえ奴だ。

 そう思うとだんだん腹がたってきた。でもまあ確かに異世界というものに俺自身興味はあった。もし異世界と聞いて心が躍らないようであればそれは人ではないだろう。言いすぎか?

 異世界と言えば強くてド派手な魔法だの血沸き肉躍るモンスターとの熱い戦いだの、空には満天の星空が広がっているとか挙げるとキリが無いほど色々と想像できる。正直、そんな異世界に興味はあるけど、急に行くなんて言われても全然実感がわいてこない。

 想像してみてほしい。いきなり初対面の人から「今から異世界に連れて行ってやる」と言われたら、普通の人はこの人ちょっとアレがアレでちょっとアレな人だと思うだろう。

 もしそんな状況になって、はいそうですかと微塵、1ミリどころか1ミクロン、完全無欠に疑いもなく信じられるようであればそれはめちゃくちゃ凄い才能だと思う。吾輩が心からの称賛を送ろう。ほめてつかわす。

 でも俺自身はそんな出来た人間ではないから未だにここが異世界なのかどうか分かりかねていた。

 ここが自分の家ではないことは確かみたいだけど…。

 それにあのお姉さんはどこにいったんだ?俺がなんらかの手段で眠らされている内に誰かにこの洞窟のような場所に連れてこられたという事も考えられる。その人が何のためにこんなことをしたのかは分からないけど。

「す、すいません。なんか急に眠くなっちゃって」

 しばらく考え込んでしまったので、一言謝って適当な返事をした。今までのことを話すには長すぎて面倒だ。

 この爺さんは一体どこの誰なのかも分からない。それに変な人かもしれない。もうすでに血だらけの時点で変な人ならぬ変なおじさんか。ともかく普通と呼ばれるような人が血だらけじゃないことくらいは分かる。

 でもさっきは自分のことを心配してくれてたようだけど…。

 しかし、初対面で優しい人ほど信用できないという事をどこかで聞いたことがある。ひょっとしたら今回はそのパターンかもしれない。いずれにしても疑いすぎて損をするという事もないだろう。

「こんな物騒な所でよう寝れたもんじゃのう。案外お主は大物になるかもしれんのう。わっはっは」

 それにしてもこの爺さんよく笑うな。

「物騒?ここがですか?」

「そうじゃよ。ダンジョンだから当然じゃろうて」

「だっダンジョン!?ここが?」

「当然じゃて。なんじゃまだ寝ぼけとるのか?わっはっは」

 マジでか!?ここにきて新事実発覚。ていうかそれ本当なのか?俺には広い洞窟にしか見えないけど…。

「お爺さんは何でこんな所にいるんですか?」

 まあダンジョンかどうかは置いといて、周りの様子からここは年寄りの爺さんが一人で来るような所ではないことは確かだ。それにさっきから疑問に思っていたことを聞いてみた。見たところ爺さんの所持品は骨董品のような古びた様子で特に飾り気のない、もしかしたらその辺に落ちてるんじゃないのかレベルの剣一本しか携帯していなかった。

「儂はのう。はて、なんじゃったかの?あー、そうじゃったそうじゃった。儂は今朝早く起きて街に買い物に出かけたんじゃよ。じゃがそこで道に迷い、人の多そうな所へと歩いて行ったらこんな所まで来てしもうたわい。途中で少しケガもしたがの。わっはっはっは」

 と言いつつ、服をつまんでそのケガをアピールする。少し?これが?それに人なんてどこにいるんだよ。周りを見渡しても閑散としていて誰もいない。

「いや、それ少しどころか重症ですよね?骨とか逝っちゃってません?」

「大丈夫じゃて。さっき止血もしたしのう~。後は唾でも付けとりゃあ治るじゃろうて」

「出た、信憑性ゼロの民間療法」

唾なんか付けて治るくらいなら医者はいらないでしょ。でも普通に会話出来てるし、痛そうな感じもないからやっぱり大丈夫なんだろう。

「それで?お主の用事はもう済んだのかの?」

「はあ、用事ですか?だ、大丈夫です。もう済みました」

 本当は用事なんてないんだけど。

「そうかそうか。お主は見たところあまり戦い慣れていない様じゃの。じゃから帰路は儂がご一緒しようかの」

「じ、じゃあお願いします」

 そんなことを言いつつ爺さんはプルプルしながら重そうな腰を上げた。

 頼んじゃったけど本当に大丈夫なのだろうか?出口がどこにあるのかわからないから頼んだけど。実は爺さんがいない方が早そうだ。でも色々不安なところはあったので結局お言葉に甘えることにした。

 立ち上がる際に自分の格好を確認してみたが、服装は外出した時のまんまだった。

 ただし違う点が一か所あった。それは見たこのない日本刀が腰に刺さっているという事だ。

 おいおい、この剣カッコいいな。でもなんだ、これ?

そういえば贈り物がある的なことをあの女神は言ってた。もしかしてこれのこと?

それにしても爺さんは俺のどこを見て戦い慣れてないと判断したんだ?単純に戦闘力なら俺の方が高そうなもんだけど…。

 それと戦い慣れてないって何?それと何と?本当にここがダンジョンだとすれば出てくるのは当然モンスターということになるだろう。まあ本当のことはそのうち分かるだろう。

 俺は少し軽くなった腰を上げて、爺さんについていった。


「ダンジョンって何ですか?」

 俺は歩き始めてしばらくたった時に聞いてみた。

「お主、もうその齢にして、ボケが来とるのか?全く最近の若いもんは」

 爺さんが小馬鹿にした態度で言ってきた。

「いや、迷った挙句にこんな所まで来た人にそんな事言われたくないよ!」

「まあ、道中暇じゃろうから話してもよいじゃろうな」

「さっきも言うたがここはダンジョンでな?ダンジョンとは…まあ、周りを見渡せば分かる通り洞窟の事じゃ。もうちっと言えば地中にあるもんじゃな。またダンジョンと言うても細かく分けると上から1階層、2階層となっていくわけじゃ。中には洞窟じゃなくて森だったり、海だったり洞窟じゃないところもあるんじゃ。そして層の行き来は『ゲート』という門を使うんじゃな」

 ここまで聞いても内容には特に驚かなかった。よくゲームとかである感じだからだ。

「ダンジョンだからここには当然モンスターもおるしな。基本的に下に行けば行くほどモンスターも強くなって行くのじゃ。モンスターにも様々な種類がおるが中でも知っておかなければならないのは『素種」じゃ」

「素種って何ですか?」

 素の種類って事だろうからモンスターの下っ端みたいな奴か?

「20階層から下の素数の階層にだけ生息しているモンスターのことじゃよ。こいつらはその階層の他のモンスターより比べ物にならん程強いのじゃ」

 どうやら想像とは裏腹にめちゃくちゃ強いらしい。

「ここは43階層じゃから、それくらいは知っておらんとな」

 ダンジョンのことなんて全くわかんないけど、43階層って実は結構深いんじゃないのか?よくこの爺さん一人で来れたな。

「じゃ、じゃあその素種に遭遇するかもしれないってことですか?」

「まあそういう事じゃな。滅多に遭遇するもんでもないから気にせんでもいいじゃろう。もし遭遇してしまったら…考えたくないのう」

 俺は爺さんの歩幅に合わせてヨボヨボと歩く。

 こんなんじゃ日が暮れちまうよ、爺さん。

 そんなことを考えていると前方から光のようなものが差してきた。

「出口ですか?」

「いや、あれは白の間じゃよ。ちょうどそこにゲートがあるんじゃ」

 どうやら出口ではないらしい。そういえばここって地下だったっけ?

「あーこりゃまずいのう」

 前方を歩いていた爺さんが声をあげた。どうしたのか?そんな事は聞かなくても自ずと分かった。

 それはまさに荘厳という言葉が相応しい。純白の巨大な講堂がそこにはあった。その大きさと壁面や天井に施されている簡素な模様からは神々しさすら覚える。高さは100メートルくらいあり、円形のホールの方になっている。壁は歩いてきた道とはずいぶん異なり、純白の大理石で建造されていた。なんともダンジョンの名にふさわしくない不思議な空間である。眠りの殿堂とでも名付けよう。気持ちよく寝れそうだからな。

「ゴォー、ガラララ。ゴォー、ガラララ」

 いびきのような規則的な音が前方から聞こえてくる。

「ドラゴン?」

 目測で頭から尻尾まで40メートルくらいありそうだ。翼が生えていて、体は赤く、魚のような鱗に覆われていた。鋭い牙や爪、それに角まで付いていて、まさにドラゴンと言えばコレ!と言わんばかりの姿をしていた。もうほとんど小さい山だ。

 それが白い大理石でできた円状の講堂のど真ん中にドッカリと陣取り、猫のように丸くなって寝ていた。

 ドラゴンの大きさもさることながら一番怖かったのは、ドラゴンの口元に血液らしきものが見えることだった。もうすでに誰か先人が餌食になったということだろう。

 ちょうど俺たちの反対側にゲートらしきものがある。てっきりなんかの装置を想像していたが、名前の通り扉だった。

 もう正直ここまでくるとここが俺の知っている世界じゃないという事は薄々気が付いてきてはいる。もしこれがゲームだったら目の前のドラゴンをかっけーとか思っていたんだろうが、実際目の前にしてみるとそんなことを考える余裕はない。

 っていうかドラゴンって本当にいたんですね。

 これが作り物ではないことは肌の質感から分かる。

「43階層の素種である隻眼の竜じゃな。ここのフロアは特に広く、大抵は遭遇せんからさほど関係ないんじゃが。お主、運が悪いのう」

 運が悪い。

 そういわれると心当たりがいくつもある。車に轢かれる他にも道に迷う、動物に襲われる、変な人に絡まれる、機械が正常に作動しない、道具がすぐ壊れるとか爆発事故に巻き込まれるとかそう言った事も過去にはあった。今日も体育の時に海パンの紐が千切れて挙動不審になってしまった。

 いやー、あれはほんとに焦った。俺の前世は相当のワルだったに違いない。

 極めつけは私立の高校受験の時のことだった。その時の受験番号は53番、ゴミ。

 合格発表の当日には、朝食の最中に箸が折れ、黒猫に横切られ、靴紐がちぎれ、大型トラックにひかれ、ふんだりけったりで会場に向かうと…まあ落ちてたよね。

 これだけ変な目にあうと慣れるかと思う人いると思うが、意外や意外で全く慣れない。

 いや、そんなことよりもこれからどうするか考えるのが先だ。

「他の道は無いんですか?」

「困ったことにゲートに行くにはこの道を進むしかないのう」

 俺は回り道をしてゲートとやらに辿り着きたかったが、そうは問屋がおろさないらしい。「コレと戦わないと先に進めないのか…」

 正直、本気で戦うとは思っていない。目の前のドラゴンと戦っても多分3秒と持たないだろう。瞬きした瞬間にあの世行だな。

「儂に任せておけ。何とかしてやるからの」

 おー!!なんだかこの爺さんが頼もしく見える!

 目の前のドラゴンに臆する様子もなくそんな事を言ってくる。亀の仙人しかり漫画やアニメでもじじいキャラは強いと相場は決まっている。ひょっとしたらひょっとするかもしれないと少しだけ不安が和らいだ気がした。

「さっき言うた通り、別にわざわざ戦う必要はない。ここはコソコソ脇を通っていく。これでどうじゃ?」

 まあ確かに講堂は円状なので円周に沿って歩いていけば反対側にあるゲートまでたどり着くことは可能だ。

 でもちょっとだけがっかりもした。「任せておけ」なんて言うから、てっきり華麗な技でドラゴンをアッという間に倒してくれるのかと思ったのだが。現実はそんなに甘くはないし、そんな神業を目の前の爺さんに求めるのは酷というものだろう。

「じゃあその作戦で」

 俺も別の作戦を思いつかなかったし、異論もなかったのでその案に乗ることにした。

 爺さんを先に行かせて俺は後からコソコソとついていく。

 腰抜けと呼びたいなら呼ぶがいい!臆病と慎重は紙一重だからな。

 何メートルか進んだところで、間の悪いことにドラゴンのいびきが急に止まった。今現在、ここには俺と爺さん、それにドラゴンしかいなく、この講堂のは少しの音も大きく響く。それが今までいびきで搔き消されていたから安心して進むことが出来ていたのだ。

 ダンジョンなんて言うくらいだからもっと人がいてもいいと思うんだけど。

「いびきが止まってしまったのう。ここからはさらに用心して行かねば。お主も気をつけるのじゃぞ」

「はい」

 まだあとゲート100メートルはあるぞ!さっきから生きた心地が全然しないんだけど…。

 怖くてドラゴンの方を見れない。きっとビルの上で綱渡りしている感覚と同じだ。やったことは無いからわからないけど。

 疑問は尽きないが、ひとまず生きて地上に生還することだけを考えよう。

「おっと」

 何もない所なのに爺さんが自分の足に躓いてこけた。その際、これまた運の悪いことに剣が地面にあたり「カァン!」という音が響き渡る。

「おいー!言ったそばから何やってんだ!!」

「いやあ、すまんすまん。わっはっは」

「お前わざとだろ!」

 もう敬語も使わずシャウトする。

「そんな大声を出したらドラゴンが起きちまうじゃろうが。ホレ、見てみい」

 爺さんは講堂の真ん中の方を指さした。俺はおそるおそるそっちの方向を見てみると。ドラゴン様が寝ていた体制のまま左眼だけ開けてこちらを凝視していた。

 やばい、変な汗出てきた。

「お、おはようございます」

「ゴァァァァァァーーー!!」

 機嫌を取るためにとりあえず挨拶したが逆効果だったらしい。

「あーあー。お主のせいで起こしてしまったのう」

「いやアンタのせいでしょ⁉」

「しょうがないの~。どっこいしょとぉ!仕方ない。儂がやるかの」

 年寄り特有の雄叫びを上げてそう言った。爺さんは立ち上がり、一歩前に出て腰の剣に手をかける。

「せいやぁあ!ありゃ?抜けんのう…。今日はちょっと機嫌が悪いようじゃ」

「どこのエクスカリバーだよ!」

 ちょっとまた期待しちまったじゃねーか!

「しょうがない、お主が戦ってくれ」

「お、俺が?」

 目の前のジジイがとんでもないことを言ってきた。

「爺さんの方が老い先短いんだから、若者を助けるために犠牲になってくれ!!」

「何おう⁉儂だってまだピチピチの94じゃ!」

「どこがピチピチなんだよ!枯れきってんじゃねーか!」

 口論をしていた俺たちに痺れを切らして怒ったのか。最初に見た時よりもドラゴンの腹が膨らんでいた。そして両手を地面に着き、踏ん張る恰好をして口から炎をチラチラ見せている。

 なんだか嫌な予感がする。

「おいおいおい、それはヤバいって!!」

 ドラゴンはデカイ口を大きく開けて炎の柱かと見まがうような極太いブレスを吐いてきた。それはただの炎の柱ではなく周りに発散するようなチリチリした雷が混ざっていた。

 圧倒的な質量を持った死が大気を殺して迫り来る。

「ぎゃー!」

「ほいっ!」

 俺はとっさに右にジャンプしてそれをギリギリ避けた。そう、避けたはずなのだ。にも関わらず、左の頬が焦げ切れた。

 どんだけ熱いんだよ!直撃してたら比喩なしで丸焦げになってたな。

 ブレスはちょうど爺さんと俺の間を貫通し、後ろの壁に轟音を響かせて激突した。すると大理石が吹き飛び、上から大きな岩が崩れてきた。その結果、爺さんと俺は分断された形になってしまった。

「爺さん大丈夫か!?」

「生きとるぞい!」

 岩越しに爺さんの無事を確認する。肝心のドラゴン様は年寄りの血だらけ爺さんより俺の方を危険視したらしく、こちらの方に体を向けてきた。

「おーい!言い忘れておったがそやつの得意技はヘルブレスじゃ!雷も付加されておるから切れ味も半端ないぞ!気を付けるんじゃぞー!それじゃあ健闘を祈る!」

「お、おい待てじじい!!」

 岩越しに爺さんはそんなことを言ってくる。

 何だそのどーでもいい情報は!しかもヘルブレス?なんて恐ろしそうな名前なんだ。

 爺さんは逃げようとしているのか、足音が遠ざかっていく。それに何を付けろというのか?

 お前はもうちょっと思いやりというものを身に付けろじじい!

 さっき言った通り、この状況で爺さん一人を見捨てて俺だけ逃げて生き延びるというのも特に悪いと思わない。でも…自分としてはここで逃げてもなんか違う気がする。

 それにこの分断された状況ではそれも出来ないしな。

 もしこれが殺人鬼とかに狙われるような状況であれば俺は一人で逃げていただろう。しかしドラゴンというファンタジック極まりない存在に殺されかけている事もあり変な気を起こしてしまった。すっかり膝は笑ってしまっているが、もう腹をくくるしかない。

「もうやるしかねーのか」

 異世界らしきところに来て一時間もしないうちにまさか死ぬことになるとは思ってもなかった。それに異世界に来て最初に出会うのが爺さんってことも想定外だったな。今回は本当に死ぬと思う。

 相手が殺人鬼とかだったら普通に逃げていたと思う。しかしドラゴンというファンタジックな存在ということ、それに異世界に来たという実感があり変に割り切れたのだ。

 でもどうせ、どうせ死ぬのなら本の主人公の様に女の子とか何か自分の大切なものを守って死にたかったな。いや、別に死にたいわけじゃないけど。

 それに大切な物も特にない。

「俺の人生良いことなんてあまり無かったな」

 俺は腰に差してあった刀を抜きつつ、今までのことを振り返っていた。こいうの走馬燈って言うんだっけ?でも…最後くらい。最後くらい抗ってみよう。未来は自分で変えられるのかもしれない。

 あー家で菓子食べながらダラダラしてた日々が懐かしい。

「だーー!!」

 堪らなくなり一声上げた。不思議と何かが吹っ切れた気がした。

 まずブレスを避けながら作戦を考えよう。円周は三百メートルくらいだからドラゴンとの距離は大体50メートルだと分かる。

 結構キョリあるな。

 だから今は考え事をしていてもなんとかブレスを避けられている。 さっきからドラゴンの方はあまり動こうとしない。なかなか俺と距離があるし、巨体を動かすのが面倒なんだろう。

 だから遠距離攻撃手段である強力なブレスで俺を仕留めようと考えているはずだ。相対する俺の所持品は刀が一本あるだけ。遠距離攻撃手段なんて持ち合わせていない。したがって俺の死なない条件は至近距離でドラゴンに切りかかり、その首を取ることだけだろう。

 まず距離を詰めないことには始まらない。それにいつまでもこのブレスを回避できる体力は持ち合わせていない。かと言って一気に距離を詰めれば今まで避けられていたブレスを回避するのが難しくなってくる。

「バゴォーン!!バゴォーン!!」

 作戦を考えている最中にもドラゴンは容赦なくブレスを打ち込み続けてくる。そのたびに後ろの壁が轟音を立てて崩れていく。

「くそっ!足場が無くなってきた!」

 崩れてくる大岩に潰されないようにしたり、大小様々な岩がそこら中に散乱しているため足元にも気を配りながらブレスを回避していく。

「やばい!!」

 気を付けていたものの、とうとう岩に躓いて転んでしまった。しかしとっさの機転で床に手をつき前転してここは対処した。

「危機一髪だったな」

 眼下には砂や岩が散乱していた。

「いけるかもしれない」

 俺は手を握り締めて呟いた。やっと一つ作戦が決まり、それを行動に移すことにしたのだ。

 これが決まったら超カッコいいだろうな。

 逃げ回っていたおかげで大分体力が削られて息も上がってきた。やっぱり半ヒキコモリと激しい運動は相性が悪い。

 しかしおかげでいくつか収穫もあった。ブレスを躱している間、分かってきたことが二つある。1つはブレスを放ち次弾を発射するまでにタイムラグとして三秒あるという事。二つ目はそうして発射できるのは六発が限界だという事だ。

「反撃開始!」

 ドラゴンがその六発目を打ったと同時、それを躱しつつ前に出る。次弾まで少し時間があるとはいえ、調子に乗って前に出すぎたらブレスを食らってしまう恐れがあるから慎重に出ていく。

 こっちはブレスを一撃食らったその瞬間、人生も終わるからな。

 前に出てはブレスを躱す、前に出てはブレスを躱す。そんな地味なことを根気よく繰り返し、ドラゴンとの距離を半分まで詰めた。

 距離が詰まるとブレスに対応するのも難しくなって来る。

 ドラゴンも少し焦り、直接爪で殺そうと思ったのか一歩ずつ前に出てきた。もうこれ以上近い距離でブレスを打たれたらもう避けきれない!!もう一気に距離を詰めるしかない!

 ドラゴンも六発目で俺が動くことを学習してきた様子だったから今度は賭けで五発目で前に出た。勝負だ!!

「ガッ!?」

 この試みは成功してくれたらしく、ドラゴンの方も驚いた様な声を上げる。

 俺はここで剣を一旦鞘にしまい、全速力で距離を詰めた。

 心臓がパンクしそうだ!それにいつ以来だろう、こんなに本気で走ったのって。でもこの戦いに負けたらどうせ死ぬんだ!ここで踏ん張らないでどうする!

 俺は距離を残り十メートルにつめた所で右腕を振りかぶり、手の中のものをドラゴンの左眼に投げつけた。

「ゴァァァァーー!」

 b耳をつんざかんとするほどの咆哮を上げて、ドラゴンは腕で投げつけられた石をはじく。かかった!

「それだけじゃない‼」

「ゴォァ!?」

 ドラゴンは驚いた様子で左眼をつむり、苦しんでいた。俺は転んだ時に石ころと岩が砕けてできた砂を右手に握り締めてそれを今投げつけたのだ。

 俺の立てた作戦はドラゴン視力を奪っている内に、その首を頂戴しようというものだった。

 どうやら作戦の第一段階は成功したようだ。あとは視力が回復する前に急いで首を頂戴するだけ!

 そう思って俺は走ってきた勢いのまま突撃した。

「うぉぉぉぉぉー‼」

 雄叫びを上げ、一刀に残る体力すべてを乗せてドラゴンの首に刀を振り下ろした。ここまでは完璧だった。ここまでは。

「カキィィン‼」

 鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響き渡る。

「そんなのありかよ…」

 作戦も良かった。順調だった。しかし最後の最後でミスった。

 ドラゴンの鱗の硬さが尋常ではなかったのだ。俺が呆然としている間にドラゴンの視力も回復したらしい。

「ゴァァァァ‼」

 ひどくご乱心の様子だ。さっきまでの高揚した気持ちが消えていき、目の前のドラゴンがさらに大きくなったかのような気がした。

「もう逃げる力も残ってねえよ」

 今までの疲労と先ほど受けた精神的ショックでもう足も動かない。そんな死にかけの俺にドラゴンは握り締めた拳を容赦なく腹に食らわせてきた。

「ゴフッ」

 情けない声を上げ血を吐いた。水切りでもしてるかの様に床を何回か跳ねて壁に叩きつけられた。体が燃えるように痛い。想像を絶する痛みだ。あばら骨も顔を出している。おそらく骨もボキボキだろう。グロい。

「もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃな、い?」

 自分でもやれることはやった。そしてそこそこ上手くもいった。そう思い込んで納得しようとしたが、なんでだろう涙が出てきた。くそっ。

 ドラゴンは相当怒っているのか、全身から蒸気を上げてこちらにブレス放つ構えをしてくる。どうやら渾身の一撃を放つつもりらしい。

「丸焦げは勘弁してくれよ。俺はレアの方が好きなんだから」

 カッコつけて捨て台詞を吐いた。最後に出来る事は、ドラゴンにガンを飛ばすくらいだった。これが現実か。

「死ぬのか…?」

 死が堪らなく恐い。自分の心臓の鼓動、匂いや記憶そういったものが一瞬で無になる事が恐い。

 ドラゴンはついに溜めに溜めたヘルブレスを放ってきた。その迫りくる炎の柱を見て不覚にもこんなにキレイな炎に焼かれて死ぬなら悪くないかもな…とは思わなかった。

 最後に感じたのは「どうにかしたい」という悔しさや後悔に似たものだった。

「ようやった坊主。敢闘賞といったところじゃのう」

 誰かが横から出てきた。さっきの爺さんだった。

 じ、爺さん!?何やってんだ!早く逃げろ!

 そんなことを言いたくても声も出ないし首も上がらない。爺さんはおもむろに左腕を前に伸ばした。すると信じられないことに轟音を轟かせながら眼前まで迫っていた炎がその左手に吸い込まれていった。

「ふい~良い炎じゃ。じゃがまだまだ火力が足りんのう。わっはっは!」

 俺は目の前で起こっていることが信じられなかった。ドラゴンも同じく驚いた様子で一歩後ずさった。今までこんなことが起こった経験がないのだろう。

「もう少し起きてるんじゃぞ。お主の健闘に敬意を表して儂の最高の業を見せてやろうぞ。しかとその目に焼き付け、世界の広さを知るがよい。」

 爺さんは脚を少し開き、腰を落として右手で左に差してあった剣の柄を握った。

 一方ドラゴンは目の前に現れたイレギュラーを排除すべく、負けじと次弾を放つ姿勢をとった。

「奥義(瞬帝・影朧)」

 その呟きとともに、立っていた場所の地面に亀裂が入り、爺さんが消えた。と思ったその瞬間、ドラゴンの首が血しぶきを上げて落ちるところだった。

「グォ、ォ?」

 ドラゴン自身も何をされたか分からなかったのだろう。頭が床に落ちたのに続いて体もズシィンと音を立ててゆっくり沈んでいった。

 それはなんともあっけない幕切れだった。消えたと思っていた爺さんだが、ドラゴンが沈むのと同時にその奥から姿を現した。

 おいおい爺さんカッコ良すぎだろ!しかも最後の最後に良い所取りかよ。っていうかもっと早く助けてくれよ!色々言いたいことはあるが最後に凄いものを見れた。ありがとう。あれ?そういえば戦うという選択肢に他に、元来た道に逃げるっていう手もあったんじゃ…?


「ふい~相変わらず燃費が良いとは言えない技じゃ。それにわしもまだ修行が足りんようじゃの」

 後ろを振り返り自分がもといた場所を見てみると、地面に大きく亀裂が入っている。真の影朧を使用した場合こうはならない。亀裂が入るというこはそれだけエネルギーが漏れて分散してしまった事を意味していた。


 気がつくとひどく荒れ果て、竜巻がいくつも巻いている荒野にいた。

「何でここにー」

 さっきまでの出来事を思い出す。俺はドラゴンと戦って、ボロクソにやられていたところに爺さんが登場した。それで爺さんが一撃でそのドラゴンを倒したんだっけ?もっと早く来てくれれば良かったのに。そんな事を思いながら気を失ったんだ。

「と、するとここは天国か地獄って事かね」

 天国にしてはやたらと殺風景すぎた。アメリカにあるモニュメントバレーの荒野そっくりだったが、唯一違うものは空だった。そこに広がっているはずの青空が灰色のペンキを塗りたくったような色に変わっていた。

「さては曇りだな」

 俺が地獄に行くわけがない。人殺しもしてないし、強盗もした事がない。もしかしてあれか?幼稚園の時、教室に飾ってあった蜂の巣を壊したり、仏壇に飾ってあるお菓子をお香も焚かないで食べたこと?それとも年齢偽ってスロットやってた事か?

「ないない、そんな訳ないって!」

 よくよく考えてくると自分の悪行がいくつも出てくる。

「大体、悪い事やった事ない人なんてこの世にいるわけないし、これはセーフだろ」

 総理大臣だってきっと今までの人生を振り返ってみれば悪い事の1つでもやってるに決まってる。誰がいるという訳でもないのに不安感を払拭しようと1人でブツブツ言いつづけた。

「実はそんなわけなんよ」

 そんな声とともに目の前の竜巻から人が出て来た。いや、人では無い。身長は3メートルくらいで頭から角らしきものが生えていて黒いスーツを身につけていた。それはなんとも荒野に似合わない光景だった。

「誰?」

 立て続けに知らない人と会ったせいかもうあんまり驚かなくなっていた。

「我は大魔王様や。口の聞き方に気をつけーな」

「何だと?いや、何でございましょうか?」

 魔王って関西弁話すの?しかもスーツなんて着るの?目の前の存在にビビった俺は思わず変な敬語?を使ってしまった。

「あかんたれが。オレは大魔王や!ただの魔王やない、大!魔王様や」

 俺がビビっているのが伝わっているらしい。

「魔王?」

「大!!!魔王や!いてこましたろか!?」

 大魔王が叫ぶと大気が震えた。

「大魔王様、お聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「なんや、ゆうてみい」

「なんで関西弁使ってるんですか?」

「関西弁?なんやそれ?」

 どうやら関西弁を知らないらしい。「日本人やない、関西人や!」とかいう人たちが使うあの関西弁を。

「大魔王様の話し方の事ですよ」

「これか?これはオレが開発したイチバンクールな話し方や。どや?かっこええやろ?」

「超かっこいいっす。まじ半端ねえっす」

「そうやろそうやろ。キシシシシシ」

 本当に悪魔みたいな笑い方だな。それにこの人意外とちょろそう。今日の俺は2回の気絶、ドラコンとの戦闘、女神出現など色々ありすぎて、感覚がおかしくなっていた。普通だったら3メートルの人『角あり』となんて怖すぎてまともに目も合わせられないと思う。

「あと、ココはどこですか?」

「やっと出て来おったわ。待ってたのはその質問や、ココは"果て"と呼ばれる空間や。もうちっと言うと、そこにある様で、無い様でほんまわある空間ってとこや。よう覚えときや」

「そんなところに何で俺と大魔王様はいらっしゃるんでしょうか?」

「お前、死にかけたやろ?たまにそうやつがここに魂だけ迷い込んでくんねん。せやから百数年ぶりの来客や。ゆっくりしてきや。んでオレは昔むか〜しに、姉とどんぱちやってなあ。ほんでオレが負けてここに投獄されたと、そういうわけや」

 百数年ぶりってこの人一体何歳なんだ?しかも姉弟喧嘩で投獄って...

「それにしてもお前、随分とけったいな人間やの。心が欠けておるげ」

 確かあの女神もそんな事を言ってたな。

「分かるんですか?」

「せやなあ。見るもんが見れば分かるっちゅうねん。ちょっとこっち来いや」

 大魔王は俺を手招きして呼ぶ。

 正直ほんのちょっと怖い。だって3メートルあるんだからしょうがないでしょ。もうほとんど巨人だ。くしゃみとか食らわせられたら、多分飛んで行くで。

「はよせいや!」

 俺は渋々近寄って行く。

「お前の心、オレが治したるわ」

「本当ですか?」

「ホンマや」

 ここで断っても殺されそうだから変に逆らわない様にする。大魔王は俺の頭に手を置いて何やらブツブツ言い始めた。本当に大丈夫なんだろうな!?

「これで治ったわ。コレは俺とお前のヒミツや。黙っときいや」

 そういって大魔王は俺から離れた。

「うっくう!何しよんねん!?」

 その直後何やら頭を抑えて大魔王は苦しみ始めた。

「どうやら今日はここまでやな。また会おうや。ほな、さいなら。」

 苦痛に顔を歪ませながらも大魔王はニヤニヤして笑っていた。


「おい、起きろ。そろそろ地上じゃぞ」

 そんな声を聴いた気がした。まだ眠かったがしょうがなく目を覚ますことにした。

 目を開けるとさっきの白い部屋ではなく、最初の洞窟に似たところだった。

 俺は…助かったのか?

 それが嬉しくて少しにやけてきたが、それよりも聞きたいことが山ほどあったことを思い出した。

「どうした?呆けた顔をしよって?」

「俺はどうして助かったんですか!?あの重傷で!?それにあれからどうしたんですか?ていうか爺さん何者なんだ!?」

「まあ待て、そんなに矢継ぎ早に聞かれても答えられんよ」

「まず最初の質問じゃが。知っての通り、お主はかなりの重症を負っていてのう。直接地上まで運んで診てもらっても良かったんじゃが、どうも間に合わなそうだと儂が判断した。その結果自分で非常に疲れる治癒魔法をかけて治すことにしたのじゃ。せいぜい感謝するんじゃの。わっはっは」


「これで二つの質問に答えたことになるかの。最後の質問じゃが…。どこから話したものかの…。儂は世界のあちこちを旅しとるからのう。まあ今はただ爺さんだと思ってくれていいかの」

 絶対に嘘だ。ただの爺さんがドラゴンを倒せるわけない。なんだか上手く誤魔化されている気がするが…。しょうがない、話したくない事の1つや2つくらい誰にでもあるだろう。それに忘れた時にまた聞けばいい。そしたらウッカリ答えてくれるかもしれないしな。

「話は変わるんじゃが、お主、冒険者じゃあなさそうじゃな。それにこの先はどうするのじゃ?住む場所は?食料は?」

 これこそ俺の考えていた目下に迫った大問題だった。

 本当にどうしたもんかな。いつも読んでいた本だったら、誰もこんな事心配もせずに何とかなっていたと思うが、俺には到底何とかなるとは思えなかった。

 この世界のシステムや知識が一切ないのにこの先どうすれば良いというのか?

 異世界なんだから少しくらい現実から目をそらしたって良いんじゃない!?いや、俺にとってもうこれが現実か。

 全く、あの変な女神様もお金とか用意してくれればよかったのにー。でもあの人貧乏そうだしな。

 俺が長考していた様子を見ていた爺さんは悪魔のような怪しい笑顔を浮かべて俺に取引を持ちかけてきた。

「どうじゃ、お主冒険者にならんかの?」

「冒険者に?俺が?」

 どんなものに関わらず、ゲームと名の付くものをプレイしたことある人なら必ず知っている『冒険者』。

 まあ、異世界という事で冒険者という職業もあるんだろうという事は俺も予想していた。

 ゲームをやったこのない人のためにちょこっと触れておくと、冒険者という職業はモンスターを討伐して、それで得たお金で生計を立てている人のことだ。

「嫌ですよ」

「そうかそうか!やってくれるか!」

「そんな事言ってねえよ!」

俺ももちろん異世界に来たからには冒険者になってみたかったが、あんな死に目にあった後ではモニベーションもくそも無かった。

「まあそう言うな。冒険者じゃよ?冒険者。虹色のデスフォール、宝石のなるザ・ツリーといったまだ見ぬ美しい物や景色!強く大きい敵と命をかけた戦い!仲間と過ごす日々!なかなか魅力的な職業だと思うがの。当然危険も伴うが」

 爺さんが両手を広げて熱く語る。

 この爺さんってそう言えば迷ってダンジョンに入ってきちゃった老人じゃなかったっけ?もう考えれば考えるほど訳わかんなくなるわ。

「じゃあ、俺が冒険家になるっていったら爺さんは何をしてくれるんですか?」

「そうじゃなー。住居と食料の確保とといったところかの〜」

 俺としてはもうちょっと何か特典があっても良いと思うけど、これ以上を求めるのは愚かな事だろう。住みかと食事さえ確保してくれるのであれば後は1人で何とかなると思う。

「分かりました。じゃあ冒険者になります」

 何だか爺さんの口車に乗せられている気もしなくもないが、背に腹はかえられない。

「よくぞ言った!ようこそ冒険者...今更じゃがお主の名前なんと言ったかの?」

「ミヤザキ ハルヤって言います」

「そうか!冒険者ハルヤ!」

 爺さんは興奮して握手を求めてきたので、俺もそれに応じる。

「さてこんな所に長居は無用じゃな。地上に出るとするかの?」

「そうですね。早く出ちゃいましょう」

 話していて気がつくのが遅れたが、未だダンジョンの中だった。またあのドラコンの様な強烈な生き物が出てきたらどうしようと考えていた。しかし聞けばここはもうダンジョンと言っても第一階層らしくあんなに強いやつは出てこないとの事だった。


 外に出るともう夜だった。そこから見た風景に俺は言葉を失った。

 眼前に広がる景色を表現するのに綺麗だという単純な言葉しか出てこなかった。

 これぞ異世界!!

 街は街灯やお店の光が踊っていて、人の笑い声や活気の良い声に溢れかえっていた。洞窟という狭い空間から解放されたからか「うーん」と伸びをしてみるとそこには満点の星空が広がっていた。

 俺の地元も星はよく見える方だったのだが、それの比ではない。もう星がありすぎてどれが何座だか分からなかった。

「本当に来たのか」

 そんな言葉が口をついて出た。

 今まで遭遇して来た出来事からそうなんだろうなと思っていたが、この景色をみて本当に異世界に来た事を実感した。

 生まれて初めて心の底から感動した気がした。感涙おさへて響みけり。という文章をどこかで読んだことがあったが、まさにそんな感じだ。

「凄いもんじゃろ。いつ見てもここからの景色は格別じゃな」

爺さんもしみじみと語る。

「さてと、そろそろ行くかの。街中を通るから色々見ておくんじゃよ」

 ダンジョンは街から少し外れた丘の上に位置していた。高尾山よりは全然低い。そこから下の方まで続く階段を降りて少し歩くと街に出られるようになっていた。

 街の入り口には特に門番もいなかったため楽に入ることが出来た。爺さんを先頭にして街を歩いく。

 今が何時かは知らないが、夜にしては人が結構いた。子供はあまり見かけなかったが、鎧を纏った屈強そうな男や明らかに魔法使いだと思われる女、色々な人とすれ違った。しかし誰も彼も俺の事を通りざまに見てくる様な気がした。

 気のせいか?それとも変な匂いとかするのか?

 建物に関して言えば、木造かレンガの様な物で建築されているものの2種類に分かれていた。まあ、コンクリートなんてあるわけないしな。

 道も補装されてなかったが、多くの人に何億回、何兆回も踏まれたせいか、石もなく平らだった。

 どの建物も決して大雑把な作りではなく、なんというか端っこが細々しかったり、模様が入っているなどかなり手の込んだ様子だった。

「ここじゃ」

 街に入ってから20分くらい歩いただろうか?活気ある大通りを一本左に曲がってまっすぐ行って、ある家の前で止まった。周りの家と比べると少し大きかったが、宿にも見えなかった。俺はてっきり宿に泊まるのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。

 なかなか綺麗な家だな。明かりが点いていることから、既に住人がいる事が伺える。

「ここですか?」

「そうじゃ」

 爺さんはそういうなり、コンコンと精巧な細工が施してあるノッカーを2回叩く。ノックの回数は2回の時と3回の時に大別出来て、前者は友人や親しい人に使い、後者は初見の人や面接の時に使う。ノックの回数から友人の家に来たんだなと分かる。

 この世界でその認識があればの話だけど。

 ノックを叩いて間も無くドアが開いた。

「もう、誰?こんな夜遅くに!バカなの!?」

「儂じゃよ」

「エ、エド爺さん!?何で!?」

 爺さんに隠れてよく見えなかったが、声の様子からどうやら住人は若い女子らしい。怒っていたらしいが、爺さんの姿を見ると驚きの声に変わった。

「ちとこの辺に用事があってのう、久々に戻って来たのじゃ」

「いつ来たの!?まだここにいるの?どこに行ってたの?何してたの?なんか面白い事あった?」

 木の葉っぱの枚数並みに質問が多い人だな。

「2日前じゃ。残念ながら直ぐに出立せんといかんでのう。今までは南の方で仕事をしておったんじゃ。面白い事は…残念ながら特にこれといってなかったかの」

 急に質問されたにもかかわらず、簡潔にすべての質問に爺さんは答えた。

「えー!!また色んな話聞かせてよ」

「儂もそのつもりじゃったんがのう。北の方に仕事が出来てしもうたわい」

「えー!それで?今度はいつ帰ってくるの?」

「それは分からんのう。1週間後か1年後かそれとも10年後か儂にも予想できんのじゃ」

「せっかく5年ぶりに帰って来たのにもう行っちゃうの?」

「そうなんじゃ。儂も心苦しいがの」

 1人だけポツンと取り残された気がした。おーいもう1人ここにいますよー。

 出て来た女の子と爺さんも明るい様子で話し込んでいた。話し相手はどんな人なのか、爺さんの後ろからひょっこり顔を出してどんな人なのか見てみた。

 女の子の歳は一見した所俺と同じくらい。身長は160くらい。髪は黒髪短髪。なんとなくだが、気さくで少し偉そうな印象を受けた。

 俺の住む家とこの人に一体何の関係があるというのか?

「で、その後ろの人は?」

「ミヤザキ ハルヤという者じゃ」

「ふーん。それとここには何で立ち寄ってくれたの?」

 別段興味がある様子は無く俺に関する話題は終了した。

「そうじゃった、そうじゃった!今日は相談があってここに来たんじゃよ」

「相談?」

「うむ。物は相談じゃが...。しばらくこやつを泊めてやってくれんかのう?」

「はあ!?」

 俺と女の子の口から同時にそんな言葉が出た。

「こやつは北の方から冒険者になるためにやって来たのじゃ。その為無一文で寝床もない。冒険者としてやって行くまで少しここに置いてくれんかのう」

「ほうほう?冒険者とな?それは結構な事ね!」

 さっきまで俺に興味を示していなかったが、俺が冒険者志望と聞くやいなや急に態度が一変した。

 まるで合コンで見た目がちょっとアレで、全く興味が無かったのにその相手が金持ちと分かった瞬間、態度を一変する人みたいだ。

「そうじゃろそうじゃろ。それに他の知り合いの宿はどこも満室じゃったしのう」

 嘘つけジジイ!一軒目がここだぞ。

「北ってウィザーダリア?」

「いやもっと東じゃよ」

 察するにウィザーダリアっていうのはどっかの地名だろう。名前の感じ的に魔法使いがいっぱいいそうだな。

「ところでカンナ、お主はファミリーを作ろうとしておるらしいの?」

「な、何で知ってるの!?」

「いやなに、風の噂に聞いただけじゃよ。その反応から察するにどうやら本当の事のようじゃの」

「風の噂って何。アリスにしか言って無かったのに...」

 ふてくされてそんな事を言う。

「そういえばアリスはどうしとるかの?」

「どうもしないわよ。普通に元気よ。アリス!アリス!エド爺さんが来たわよ!」

 家の中に向かってカンナは呼びかける。

「エド爺さんって本当に!?」

 トタトタと駆けてくる音がドアの向こうから漏れてくる。

「エド爺さん!!」

「おー元気そうじゃのう。アリス」

 アリスは駆けてくるなり爺さんに抱きついた。身長差が50センチくらいあるから爺さんの腹あたりに頭があった。

「いつここへいらっしゃったんですか?」

「2日くらい前じゃよ。しかし残念じゃが用事があってまたすぐに出発しないと行けないのじゃ」

「そうなんですか...じゃあ、また来てくださいね。今度はゆっくりしていってくださいね!」

「ああ、約束は出来かねるが善処しよう」

 爺さんも笑顔でそう答える。

「それで、こちらの方は?」

「ミヤザキ ハルヤという者じゃ」

 俺は少し頭を下げると、アリスもつられて頭を下げる。

 この子いい人そうだな。何となくそう感じた。

「それで?カンナ、考えてくれたかの?もしハルヤがここに泊まれば、ファミリーの団員も同時に確保できたの同然だと思うのじゃが。それにこやつはお主のお眼鏡に叶うと思うが、どうかの?」

 この爺さん、急に話題を変えたのはこの子に考える時間を与えるためか。

 女の子は俺の足元から頭の先っちょまで品定めするかの様にジトーっと凝視して来た。するとニヤッと笑って

「確かに、変わってるわね」

 と満足げに言ってきた。

 何がやねん。変わってることといえば…まあ特にないな。

「そうじゃろう。そうじゃろう」

 爺さんとこの女子にしかわからないようで、二人ともうんうんと頷いている。隣の女の子と俺は置いてけぼりだった。

「わしもかなり変わっておると思う。しかしお主はそういった者を欲しがると思うたのじゃがのう」

「そうね、いいわ。同居を許してつかわす!」

 最初は渋っていたのに、今度はずいぶんとあっさり同居のお許しが出た。いったい何を考えてOKを出したのか全く分からない。

 しかし単純に寝床が確保できてラッキーとしか思わなかったので、ここは黙って話を聞いていた。

「感謝するよ。差し当たって同居での事じゃが、一応年頃の男女が1つ屋根の下で暮らす訳じゃ。問題が起きんとも限らん。じゃが安心せい。こやつにそんな度胸はないと思う」

「ふーん。確かにそんな感じがするわね」

 カンナは糸目になって、こちらを見てくる。酷い言われようだな。

「おい、俺にだって選ぶ権利くらいあるんだぞ!」

「何か言った?」

「いや、何でもないです」

 そう言いつつキッ!っと俺を睨んで来た。蛇に睨まれたカエルのような感じだ。

 もしかしたら鬼嫁と呼ばれる妻がいる夫は四六時中こんな気持ちなのかもしれない。尊敬の念を禁じ得ない。

「よしこれでわしの任務は完了じゃの。そろそろ出発するかの」

 そういって爺さんはこっちに体を向けて立ち去ろうとした。

「えっ?終わり?俺はどうすればいいんですか?」

「わしはお主に冒険者になって腕を磨き強くなって欲しいが、冒険者になった後に関してわしは口出しするつもりはないよ。自分で考えて行動がするがよい。冒険者は自由であれというしのう。よし、カンナ、アリス、ハルヤを頼むよ。それじゃあまたの。わっはっはっは」

「またね、エド爺さん!今度は土産話聞かせてよー」

「また来てくださいねー!」

「この奇妙な状況に順応できていないのは俺だけですか」

 隣の姉妹はのんきにお別れを言っている。

 俺たちの言葉に爺さんは振り向かずに右腕振って答えた。独特のゆるりゆるりと体を木の葉の様に揺らしながら出て行ってしまった。

「さてと」

 残された俺たち3人の間に何とも気まずい雰囲気が流れた。

 これかりゃ一体どうすればいいんだ。

 ある程度人見知りがある為、こういう雰囲気がかなり苦手だ。

 誰かどうにかして!

「何ボーっと突っ立ってんの?早く入りなさいよ」

「す、すまん。じゃあお邪魔します」

 前の女子が少しどいて先に家に入れるように道を開けてくれた。

 玄関は靴を脱いで上がる日本と同じものだったのですんなり入れた。外国だと靴のまま上がるのが多いと聞いたことがある。

 些細なことだけど靴で家に上がるのは心が休まりそうもないなと心配していた。

「私はカンナ、それでこっちが妹のアリス。なんか質問ある?」

 カンナは靴を脱ぎながら軽く自己紹介した。

「じゃあそうだなーーー」

 質問しようとした瞬間、足元が崩れてカンナが前のめりになり顔から床に倒れこんだ。

「お、おい大丈夫か?」

 最初は転んだだけかと思ったがなかなか起き上がらない。死んだか?

「おーい?何やってんだー?」

「お姉ちゃんは、家に入るとダラダラしてこんな感じになっちゃうんですよ。歩くのが面倒だからって」

 後から入ってきた妹のアリスが途方に暮れていた俺に説明してくれる。

「お姉ちゃん!ハルヤさんが見てるのにみっともないよ」

「歩くのメンドクサイ…。お菓子頂戴…。おんぶして…。喉乾いた…。」

 もはや言葉をひねり出すことすら面倒くさそうだ。ひょっとしたらこの家主は変な人かもしれない。

「いい機会だから今日くらいは自分で歩いたら?」

「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!!」

 カンナは手足をワシャワシャして必死におぶってくれアピールをする。

 そんな元気があるなら歩けるだろ、と言いたかったが止めておいた。

「はー。しょうがないなー、よいしょっと」

 アリスは慣れた様子でカンナの手を取りおんぶしてやった。

「い、今から部屋に案内するから付いてきて」

 蚊の鳴くような声でカンナが言ってきた。カンナ、いやアリスの後ろから俺はついていく。

 外から見て感じた通り中は暗くてよく見えなかったが大きいことが分かった。光が少ない事からしてもう寝るところだったのだろう。

「えっ!?あそこを使ってもらうんですか?」

 前からアリスが驚いた様子でカンナと話している。カンナの声が小さすぎて内容までは分からなかった。

「今日から…ハルヤの部屋はこ、ここよ」

 そう言って案内されたのは階段下の物置だった。横2メートル、奥行き1メートル、縦が1.5-2メートルと言った所だろう。

 中には豆電球の様な光る物が1つと、所々に蜘蛛の巣が張ってあった。

 おいおい俺は丸眼鏡もかけてないし、今のところ魔法使いでもないしそうなる予定も俺の人生設計には含まれていない。それにひたいに傷もないしな。

「…」

「なんか言いたい事でもある訳?」

「い、いやなかなか個性的で素晴らしいと思います」

 俺は心にもないことを言ってしまった。

「よ、よろしいー」

 アリスに背負われてぐでーっとしていたのでその表情までは見えなかったが気だるげに返事をした。

「今日はもう眠いし、話は明日ねー」

「わかった」

 そういってカンナは妹におんぶされて二階に上がっていった。一人残された俺は改めて部屋を見てみる。本当にこじんまりしていて隠れんぼの時しか使わない様なところだった。ベッドも布団を敷くスペースも無く、代わりに周りより少し高くなった、人が一人横になれる様な台がある。部屋の角っこに小さな蜘蛛がこれまた小さな蜘蛛の巣をこしらえていた。

「これから同居人になるミヤザキだ。よろしくな」

 俺は一応ここの先輩である蜘蛛に挨拶をした。

 何コレ!?泣きたい。

 俺の知る限り、異世界に来てここまで酷い場所に住んだ物語の登場人物はいなかった。

 しかも物置って...。元いた家が恋しい。俺ってこの家より大きい所に住んでたんだよな?もうそんな思い出が何年も前の様に感じた。それにもう二郎も三郎にも会えないというのか。

 大切な物は失って初めて気がつくというが本当にその通りだ。今思うと住む所に関して言えば俺は恵まれていたな。

 その事に気がついた今の俺にとって屋敷から物置への落差は半端ない。

 だけど無一文の見ず知らずの男を寝泊まりさせてしかもご飯も作ってくれるなんて普通はないと思う。だから正直ありがたい気持ちの方が強かった。

「もう疲れたしそろそろ寝るか」

 ドラゴンに殺されそうになったからか、はたまた女子と一つ屋根の下で寝るという状況のせいなのか若干心臓がドキドキしている。しかしそんな落ち着かない気持ちとは裏腹に体が思うように動かない。オーバーワークしすぎて体中の骨が軋んでいるのが分かる。こりゃあ明日は筋肉痛だな。

「尋常じゃないくらい疲れたー」

 心の底から湧き上がった心情を吐露する。

 つい何時間か前まで、学校で授業を受けてたのにな。ほんと昔のことの様に思えた。

 何が不安なのか分からない不安があるが、明日のことは明日考えよう。

 昔から本当に困った時は未来の自分に厄介ごとを丸投げするスタンスだ。俺はベッドと言っていいのか分からない他より若干高い所に横になった。

 そこには布団も布切れもなく、ただ木の硬い感触しかしなかった。

 ちゃんと寝れるかな?友達の家に泊まる時ですら疲れが取れないのに、こんなとこで快眠できるとは到底思えん。

「ハルヤさん。まだ起きてますか?」

「ア、アリスさん!?アリスちゃん?ど、どうしたの?」

 頭に上にあったドアがノックされてちょっと焦った。

「アリスでいいですよ」

「じゃあ、アリス。どうかしましたか?」

「敬語も使わなくていいですよ。いえどうかしたわけではないんですけど。先ほどは急な話で付いて行けず、まだちゃんと挨拶していなかったので...」

 なんとわざわざ挨拶しに来てくれたのか。

「改めて、私はアリスと言います。アリス・フォン・フォーストラット。」

「じゃあ、アリスよろしく。俺はミヤザキ ハルヤ。17歳くらいだ。それくらいかな...?」

 何か他に言った方がいいのか?例えば特技?好きな食べ物?つーか眠い。めがしょぼしょぼする。しかしわざわざ出向いてくれたのだから誠意ある対応をせねば。

「これからよろしくお願いしますねー」

「うん、よろしく。それとさアリス、何でそんなにフレンドリーなんだ?知らない男が急に住むって言われたら、あんまり良い気分はしないんじゃないか?」

「ふふ...私も最初聞いたときは驚きましたが、エド爺さんが連れて来た人で、お姉ちゃんも認めた相手なので大丈夫なんじゃないかな?と思っています。それに外での会話の様子から変な事をする人でもないとも思っています。」

 認めた?何かの間違いじゃないのか。

「そういうもんなのか?...」

「そういうものです♪」

 よっぽど爺さんと姉さんを信用してるんだな。声の調子からそれが伝わって来た。

「なのでその期待裏切らないでくださいね!」

「大丈夫、大丈夫。今日はしないよ。神に誓うよ」

「"今日は"?っていう事は、明日、明後日は...」

「冗談だよ、じょーだん」

「ふふっ。面白い人ですね。もう夜も遅いので他のことは明日話しましょう。それじゃあおやすみなさいー」

「おやすみー」

 そういってアリスは戻っていった。それにしても眠い。

 明日の事は明日考えよう。今度こそ俺は目を閉じて深い眠りに落ちていった。

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