第11話 過去の時間軸へと~2

 かくして、アムルと斬夢が融合したル・シフェルは、過去の時間軸へと旅立った。


 その頃、月夜の光に照らされ続ける水府の奥地では、アズマリアが悪魔六芒星七人衆へと、これからどうするかの説明をしていた。


 また、せっかく大樹の聖域からの離反を決意してまでやってきたレムと言えば、斬夢と共にル・シフェルとなったアムルに置いてけぼりにされて、近付いてきた妙見と何やら話し込んでいた。


 「…置いてけぼりなのです。レムはどうすれば良いのでしょう?」


 「行く処がなにのなら儂の許に来い。どの道、弟子とアムルとやらは面倒をみる心算じゃった。今更、一人二人増えても問題ない」


 「よろしいのですか?」


 「うむ」


 「では、お世話になります」


 レムは嬉しそうに微笑み、フリーとなった自分を受け入れると明言してくれた妙見に一礼する。


 「うむ。よろしくな。取り敢えず、馬鹿弟子とアムルとやらが返ってくるのを待とう」


 「はい!」


 こうして、レムと妙見の身の振り方は決まった。


 対して、アズマリアと七人衆の会話は続いていた。


 「我々を、数万年前の過去へと連れていくと? 魔術の真実を解き明かすと?」


 「ええ、そうです」


 バッハ・ロウマンの質問にアズマリアが答え、その訳を続けて語る。 


 「正確には、魔石や聖石が精製される前の状態の如意宝珠が、どうして世界に出現するのかを見物しに行くのです。そこに如意宝珠が誕生するシステムの根幹があります。あなたたちは、そんな世界の真実へと到達したかったのでしょう?」


 「その通りだ。我々の師であるマリアさまは、この世には本来、様々な術法、いわゆる魔法など存在するはずがないという立場だ」


 そんなバッハの返答に続ける形で、他の七人衆もアズマリアとの会話に混ざってくる。 


 「でも、それは現実に存在している。なぜか? マリアさまもその意味を考えて、その謎を探っていた。我々が使用する魔法の源、魔石もまた、その過程で精製されたものだ」


 「ですからマリアさまは、練成され力が純粋になった魔石と聖石の力を掛け合わせ、増幅し、時空を操る術式を開発して、過去の真実を解き明かそうとしていたのです。ただの如意宝珠、それを精製した魔石。それだけでは術式に必要な出力が得られなかった」


 ここまで聞いて「そうでしょう」とアズマリアが肯く。


 「理解しています。だから私ともう一人、パートナーであるアレキサンドラが、あなたたちの前に姿を現したのです。聖魔少女ル・シフェルの誕生を邪魔はしない形でね」


 「邪魔しないように★?★?★?」


 「ええ。もう気付いてると思うけど、私は未来の時間軸からやって来た異邦人です。この時代ではまだ、母の卵子としても誕生していません」


 「と、いうことは、やはり君の母君は…」


 「もう、理解が追い付かないんじゃなーい!」


 の確信を得て、ブラック・ホールドがごくりと喉を鳴らす。アート・ランティスはこれはお手上げと、匙を投げるように空を見上げる。

 それだけ、その意味は悪魔たちにとっては衝撃であったのだ。


 「御察しの通りです。ですからル・シフェルに、そしてあなたたちに何を提供すれば良いのかを、私は知識として知っていたのです。ル・シフェルの件は取り敢えず一旦は済ませました。後は、みなさんの番です」


 「では?」


 「ええ。みなさんを連れて時間軸を跳び越えるのです………炎帝と水帝が地球の未来の姿を賭して戦った時代へと。そこにあなた方の求める真実があるのです」


 「炎帝…水帝…中華文明の古代神話の存在………?」


 「それは、実際に自分で見て、聞いて、判断すべき事柄と考えます。偏見のない状況で物事を知ってください。その後の判断は各自に任せます。では!」


 困惑する七人衆にそう言い切ると、この手を取ってとアズマリアが右手を差し出す。


 七人衆は互いを見回し、然る後、その手をアズマリアの掌に重ねていった。


 「では、祈りと呪いの交差する時間軸へと、みなさんをお連れします………来て! アレクサンドラ!」


 「よっしゃあっ!」


 アズマリアの叫びに応じる形で、手を重ねた魔術師八人の頭上に現れるアレクサンドラ。 

 宝石の聖少女である彼女が重なった手の上に自分の手を重ねると、八人の魔術師の魔石と聖少女の聖石の力が相互作用し、時間軸を跳び越すに足る力が生み出されていった。


 「行くぜ! 古の時代!」


 そう叫ぶアレクサンドラが天空へと拳を突き上げると、ふっと、八人の魔術師と宝石の聖少女の姿が消え失せたのだった。


 そして、妙見とレムのみが、水府のリング付近に残された。


 「ふむ。時間軸を跳び越える者を見るのは、今日はこれで三度目じゃの」


 「あの………アムルちゃんと斬夢さんは、何時頃もどってくるでしょうか?」


 「ふむ、そう待つこともなく戻ってくるじゃろ。何しろ、吾奴等は時間軸を跳び越えてくるからの」


 「そうでしたね」


 そう妙見に応えて、レムは虚空を見上げた。アムルと斬夢に、何事もなければと祈りつつ。

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ル・シフェル~時空統べる聖魔少女~ @byakuennga

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