ミニフィクション・ファンタジー

小書会

星に願わず

たとえば、嘘で語った夢が本当になるのなら、どんなに意気込んでも素敵な夢を語ることは出来ないだろう。


4年前、流星群の夜にやってきたひとりの青年がこう言った。

「言えばかなう。僕は神様。言葉になった夢は叶えてあげる」


村人たちはこぞって希望を言葉にした。お金、豊作、健康、様々な願いは次々と現実のものとなった。青年に直接言わずとも、この土地にいて暮らしている人間が村の中で言い放った願いは必ず叶う。


そのせいか、徐々に「豪勢さ」を比べあう競争のようになっていった。誰かが立派な芋を育てたと聞けば、その人よりも良いものをと願いを口にする。自分の希望ではなく、とにかく誰よりも優位に立つように上位のものを手にするようになった。


次第に、自らの幸せではなく、ほかの人を陥れるような願いが増えていった。さすがに、殺めてしまうのは気が引けたのか、風邪から腰痛から、小さい体の不調を他人にふっかけるようになった。またぶつけ合いになり、降りかかる病も感染症やら癌やら重病が増えていった。


どんなに悪くなろうと、元通りの体にしろ、と言えば治った。そんなものなので、ずっと終わらないいたちごっこが村の中で続いた。


言葉にすれば叶う、ひとたび聞けばなんとも希望に溢れた素晴らしい状況である。が、現実はこのようにあまり幸も不幸も変わらないようなものだ。


「もう叶えてもらわなくていいです」

そう言えたらどれだけ楽か。そう言ったら、袋叩きだろう。


思っても言わないつもりだ。

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