屍の伝説ーfirstー

茜称

第1話

first


目を閉じるといつも思い浮かぶのは彼女と彼の笑った顔。俺はその笑顔を守りたかった。守ってみせる守れるとどこか自分の力を過信しすぎていた。_______________2人が死ぬまでは。

信じたくなかった。目を背けたかった。思い知る。あぁ、自分は無力なのだと。雨の音と混じり合い俺は叫ぶ。そんな時だ。誰かが俺に囁いた。

『……繰り返しなよ。力貸してあげるからさ』

**********

春風が頬を撫でる。ぽかぽかする気候は睡魔を呼び寄せる。


……あれ、なんか、なにかを……忘れているような。


いつもと同じはずなのに、どこか違和感を感じる。思考を巡らせていると、とある彼女と彼が話しかける。


「君…転校生?私、カコって言うの!宜しくね!」

「僕はナミカズ、君は?」

「えっ、……転校生……?……何言ってるんだよ。」


友達であるカコとナミカズがまるで初対面に接するような口調で自己紹介する。しかも、転校生とは。俺はずっとこの学校に通っているのだ。転校生でも何でもない。


「な、ナミカズ……俺」

「おっ!いきなり呼び捨てかぁ。まぁ、僕は構わないよ。呼び捨てって距離がグって縮まった感じがして僕すきだよ」

「ち、ちが……カコッ!」

「え!?私のことも呼び捨てにしてくれるの!?やったー!なんか嬉しいッ!」

「……えっ……」


頭に何かが過ぎった。死体、それもこの2人の死体だ。土砂降りの雨の中、叫ぶ俺。小さな子が何か言っている。


『繰り返しなよ』


あ、思い出した。


「……俺は、リド。宜しく……カコ、ナミカズ」


俺はこの2人を守るんだ。


2回目の世界は数日で終わりを告げた。不幸な交通事故で2人は死んだ。即死だったらしい。どうして。あぁ、ダメなんだ、普通に過ごしていたのでは決して2人を守れない。呆然と涙を流す俺にあの時の声が聞こえた。


『また、力を貸してあげようか?』

「お前は……一体誰なんだ……?」

『そうだな……神様……かな』

「……かみ、…さま」

『そう、神様。ねぇ、救いたい?』

「……救いたい」

『なら、条を結ぼうか』

「……条?」

『契約だよ…僕は君が満足するまでいくらでも力を貸すよ。その代わりに僕は君の名前が欲しい』

「……俺が満足したら、俺の名前をお前が名乗るのか……」

『うん…悪い話ではないと思うんだけど』

「……いいぜ。成立だ……さぁ、繰り返そう。」

********

次の世界は異世界だった。魔法が使え、俺らは魔法学校に通う学生ということになっているらしい。いつ戦いに出されてもおかしくない世界は初めてだ。それでも守るのだ。


「リドッ!一緒にごはん食べよ!」

「カコ……ナミカズ。……うん。食べよ」

「なんか、暗くね?リド」

「そんなことない。……いつも通りさ」


そういつも通り。もしかしたらこの世界では救えるかもしれない。魔法の世界なんだ。現実より力があるし、なにより、一番よく進んでいる。笑っていられている。大丈夫……大丈夫_______________


「…………えっ……?」


なんだこれは……。目の前にあるのは肉の塊……確かに2人がいたはずだった。なのに、なぜ今2人は動かず、肉の塊と化している?……あぁ、また、やり直しか……

『また、だね。リド……さぁ、次は救えるといいね』

********

何回目の世界で彼らは俺より年上だった。俺が小学生で彼らが高校生。知り合いになるのに苦労した。まず学校が違うのだから接点が見当たらず、どこかヤケクソになっていた。声をかけ、2人に憧れていると嘘をつき、なんとか話す間柄にはなった。


「私はカコって言うの!宜しくね!」

「僕はナミカズ。君は?」

「……リド」


もうこのやりとりも何回目だろう。もう何回世界を繰り返しているのだろう。そろそろキツくなってきた。でも、2人を救うためならばと俺は慣れてきた笑顔を2人に見せた。

_______________結果は同じだった。


「……神……もう一度だ」

『うん……任せてよ』

*********

何度も何度も繰り返し、もう数える気力などなくなってしまった。それ位に何度も世界をやり直していた。次こそは次こそはと思っていても結局は救えない。


「……リドって言うんだ。……宜しく」


自己紹介も飽きるほどやって来た。それでも2人は宜しくと手を出し握手を求める。俺が手を差し出すとナミカズが不思議な顔をして俺の顔を覗き込んだ。


「な、なに……?」

「いや、なんていうかさ。……リド……僕と前にどこかで会ってる?」

「……え」

「あっ!私も!……なーんか初対面じゃない気がするんだよねー!……なんでかしら」


この世界ではまだこれが初対面だ。まさか、前の世界での記憶があるのだろうか。……いや、有り得ない。きっと……気のせいだ。


「……街中ですれ違いでもしたんじゃない?」

「……そっか……そうだな」


2人は納得したように笑った。初めてだった。前の記憶があるなんて……これはイレギュラーだ。初めてのことだ。あぁ、そうか。イレギュラーを起こせば、2人は助かるのかもしれない。

2年後……2人は死んだ。また死に際を見てしまった。でもこの世界は今までで一番良く進んだ。やはり、今までとは違うことが起きたからだ。


「これは……いい情報を手に入れた……」

********

いつもとは違う行動を起こしてみた。2人は3年後に死んだ。次は俺自身の性格を変えてみた。明るく振る舞うのは正直辛かったが耐えられた。2人が救えるなら性格だって変えられる。2人が死んだのは5年後だった。何度目かの異世界。力を手に入れ学校を主席で卒業した。2人は7年後に死んだ。それから変えられるものは変えた。2人は今までのが嘘のように寿命が伸びていた。これはいける。助けられる。気持ちがだんだん晴れやかになっているのが分かった。

そして、××回目。2人は数日後に死んだ。


「……何故だ……」


普段の俺は出さなかった。性格を変えた。普段はしないような行動も努力もした。喋り方とかも変えた。全てを変えた。なのに……なぜ1年も持たなかった……。


「……どうして……」

『簡単な話だよ』

「……神」

『もう君がしていることが"イレギュラー"じゃなくなったんだ』

「…………え?」

『君はイレギュラーを起こすことにより2人が少しでも長く生きれると知った。だから、君は何をかも変えた。性格も口調も思考ですら、別人に演じた』

「だって、そうしないと……またふりだしに戻るじゃないか」

『そうだね。でも、現状を見なよ。君が嫌ってたふりだしだよ』

「……ッ!」

『君はイレギュラーを起こしすぎたね。残念ながらもう君自身が何をしたってそれはもう"普通"でしかない』


……なら、どうすればいい。イレギュラーを起こすことで2人は今までより長く生きられた。そのイレギュラーが普通になってしまったならもう打つ手がないじゃないか。また新しいイレギュラーを起こすしかない。

なにか……なにかあるはずなんだ。今までにないイレギュラーが。どこだ。何をすればいいイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラーイレギュラー……今まで、何もしなかった新しいイレギュラー。


「あれ、それって……」


ブスッと刃物で貫かれる感覚がした。後ろを見ると神が刃物を手にして俺の心臓に突き刺していた。神は笑っている。


『良かったねリド……君が望んだ"イレギュラー"だ』


自然と笑みがこぼれた。あぁ、そうだ。これだ。新しいイレギュラーそれは……


「俺が死ぬこと……」

**********

『おやすみ……リド』


返事などかえってこない。当たり前だ僕が殺したのだから。さぁ、リド。君は満足しただろう。君が望んだことを起こしてあげたのだから。


『契約……今日から僕がリドだね。サヨナラ……愛おしかったよ……僕の玩具』


*******


「……な、なん、だよ。……お前」

『僕?……僕はねぇ神様だよ。"リド"って言うんだよろしくね……花都』

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