第2話 はる


わたしの毎日は青年と出会ってから、少しだけ変わった。机に向かう日々の中で、時よりほわっと青年を思い出して、“あの人はいつも働いてるのかな、それともバイトかな。”“あの時めっちゃ私のこと見てたな〜”とか考えてしまっていた。


そんなこんなで青年に会わなくても、私は毎日何も知らない青年を1日の食事回数分くらい頭の中で描いていた。



もうこの時点で、恋は始まっていたんだな。

今ならそう思える。



そして、きっと青年は私と出会った時から恋が始まっていたんじゃないかな。



4年経った今でも、そんな淡い期待を心にしまっている。



私は、また会いたいな、という気持ちのままに日曜日の夜、青年の働いている喫茶店に足を運んだ。


親元を離れて寂しい気持ちを埋めれるかもしれない。でも、もしかしたらこのまま恋愛に発展して勉強が手につかなくなるかもしれない。色んな「かもしれない」が頭の中にあって、期待と現実を知りたい願望といろんな感情が絡み合っているまま、青年がいるかもしれない喫茶店に行った。



喫茶店は十字路の角にあって、開放的な大きな窓が印象的だ。その窓から店内が見える。


直前の信号で止まって、お店の中をドキドキしながら見る。





うわぁ、いるよ。





嬉しいはずなのに、慣れない緊張が全身を襲って上手く喜べない。


赤信号が青にかわる。すすめのサインだ。


喫茶店に入るところまで来た、そのまま進む。チリンチリン。ドアにかかってる鈴がなる。凛子と来た時とは違うお店に見えた。お店が違うのではなく、私が違うのだろう。


そのままオーダーをしにレジに行く。

青年が私を見た。


私はあの時どんな顔をしていたのだろうか。

どんな風に映って見えていたのだろうか。


青年に接客をされる。私は抹茶ラテを頼んだ。私の手をそっと包むように青年はおつりをわたす。どきどきが止まらなかった。何も知らない青年の手が触れただけなのに。



あの時のどきどきは今でも覚えている。

初めての感覚だった。



特別会話があったわけではない。

1人の客と1人のスタッフ。

でも、もうすでに青年はただのスタッフではなかった。



彼がほんのり微笑んで「ごゆっくりしてください」と言ってくれた。

その柔らかい微笑みと優しい声は実家に帰ったかと思うような安心感を与えてくれた。




そのあと、喫茶店を出るまで青年と何かが変わったわけでも目を合わせたわけでもない。



でも、青年と同じ空間にいる、ということが私を暖かい気持ちにさせてくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雲のような人でした つばき @tsubaki1104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ