第84話 連携せし者。
戦う姿勢を見せたシスターモモに対して、騎士たちは絶対にこの娘を逃さぬように周りを取り囲み下卑た笑みで彼女をなめるように見回している。
たった一人の少女を相手にフルプレートアーマーで武装した騎士が十数人。この圧倒的戦力差に誰もが彼女の哀れな末路を想像した。
「我らに逆らう者には死を!」
「「「逆らう者には死を!!」」」
リーダーの掛け声に合わせて残りの騎士たちが声を上げ、一斉にモモへと踊り掛かった。ある者は突き、ある者は上段から斬り掛かる。完全に周りを取り囲まれたシスターモモには逃げる場所など無いかのように見えた。ただ、逃げるのならば……だ。
正面の敵に突っ込むと振り下ろされる大剣に、身体全体で回転を付けながら右拳を合わせる。ガントレットの手首に当たる部分からロケットのように炎を噴射して加速した拳は軽々と大剣を弾き飛ばし、その勢いのままコマのように回転したシスターモモの左拳は裏拳となって騎士の鎧を砕き、その騎士を吹き飛ばした。キリモミしながら飛んで行くその騎士は近くにいた別の騎士たちを巻き込んで更にぶっ飛ばされていく。
もちろん、どんなに
「
肥大化した
「すごい、すごい!」
「やっちまえ!!」
「やったー、お姉ちゃんがんばれー!!」
応援する声は様々だ。この頃になってようやく騎士たちは無闇矢鱈と突っ込んで行く事に
「
振るわれた拳がそのまま飛んでくる動きに慌てた騎士はその場で防御体制を取るのが精一杯だった。かろうじて拳を弾き返す事に成功した騎士だが、モモが鎖を引いて拳を引き戻すとその反動を利用して再度飛来した巨大な拳は、威力を増して騎士へと襲い掛かる。前回と同じく防御した騎士だが、今回は威力もスピードもまるで違っていた。持っていた盾は砕かれ、自らもまるで枯れた落ち葉のように簡単に舞い散らされた。
鎖とロケット噴射を使って、高威力の拳を自在に操るシスターモモに騎士たちは為す術もなく蹴散らされて行く。
「ば、化け物め!」
騎士の半数以上が一瞬にして打ち倒されたこの時点になって初めて、騎士たちは自分が何を相手にしてしまったのかに気が付き呟いた。だが時は既に遅かったのだ。今更ながら逃げ出した騎士たちに向けて両手を突き出しシスターモモは叫んだ。
「
両手の手甲部分が炎を噴射すると、騎士たちに向けて猛烈なスピードで飛来しその全てを跳ね飛ばした。そのままシスターモモの元へと戻ると『カチリッ』という金属音と共に彼女の両腕のガントレットに自動で装着されたのだった。
残る教会騎士は三人。
だが、この三人は他の奴らとは少し違うようだ。フルプレートアーマーで身を固めていながら前の二人は大きめのラウンドシールドを構え、こちらの攻撃に備えながらジリジリと間合いを詰め始めた。
「行くぞ、ウルテナ、マッド!」
「「おう!」」
リーダーの号令のもと、三人はシスターモモへと一気に距離を詰め始めた。ヒゲのリーダーは身を低くかがめて二人の影に隠れて姿が見えない。だが前衛の二人が中距離の間合いに入った事で先にモモが動いた。
「
左手の拳が鎖の付いた状態で先頭の騎士へと飛ぶ! だが騎士達もただ黙ってやられる訳ではない。
「させるかぁ!
何らかのスキルだろうか、騎士の持ったラウンドシールドが小さく光ると、盾を持つ手の角度を変えてモモの放った拳を弾く。ただ、威力のすべてを流せた訳ではなく体制を崩してその場で倒れ込んだ。
あらぬ方向へと弾かれた拳のチェーンを巻き上げるシスターモモの
「
こちらの騎士の盾も小さく光った。コレに合わせるように左手の拳に力を込めてスキルを放つ!
「
モモ拳と騎士の盾が激しくぶつかり合い、お互いのスキル威力を相殺させつつ火花を散らした。だが、いくら手加減しているとはいえ、圧倒的な破壊力を持つモモのガントレット【ルーデンカイザー】の威力に普通の人間のスキルが勝てるはずもなく、盾を砕かれ吹っ飛ばされた。
「あとひとり!」
二人の騎士を倒したモモが気勢を上げて叫ぶのだが、残りの一人が見当たらない。吹っ飛ばされた二人目の騎士の後ろには誰もいなかったのだ。
「なっ……」
「死ね、小娘!!」
何故……そんな言葉にならない声が呻きとなって口から漏れた。その瞬間、左の後方モモの死角となる位置からリーダーの声が掛かる。ヒゲのリーダー騎士は、前衛二人陰から彼らの攻撃にモモが集中している隙をついて彼女の目線の死角へ、死角へと移動を繰り返していたのだ。
鈍く光る剣の輝きが、水平の軌道となってシスターモモの胴体を薙ぎ斬ろうと迫る。完全な死角からの攻撃にシスターモモの回避は絶対に間に合わない。リーダーは自らの勝利を確信していた。
だが彼の剣は空を切った。
「なにぃ!?」
完璧なタイミングで懐へと入り込み、一閃した刃が彼女を確実に仕留めるはずの攻撃であった。だが彼女は彼の目の前で
「ばかな、俺たちの
呆然と呟くリーダーに向かって騎士の一人ウルテナが叫んだ。
「ガイアス卿、後ろだ!」
シスターモモはとっさに姿勢を低くすると騎士のリーダーであるガイアスの死角へと、手甲のロケット噴射を使って強引に回り込んだ。その動きが偶然にも剣撃の軌道と重なった為、彼には消えたように見えたのだ。
ウルテナからの指摘で後ろへと振り返るガイアスだがその視界にモモの姿を捉える事が出来ない。
「どこだ、どこにいる!」
地面スレスレを低空飛行するシスターモモはロケット噴射でその場から離れるのではなく、リーダーの死角へ、死角へと回り込み続ける行動を取ったのだ。
高速で低空飛行を続けながら、最初に倒された騎士ウルテナに向かって放った拳で彼を掴み、鎖を高速で巻き上げながら旋回行動をとった。だがそれは強力な横G……いわゆる遠心力という加速重力を受ける事になり彼女の顔が苦痛でゆがむ。
たが、彼女はそれに屈する事なく耐えきった。
鎖を巻き取った先にいたウルテナを蹴り飛ばし失神させるとその反動を利用して空高く飛び上がる。
「これで終わりよ、
騎士たちのリーダーガイアスがシスターモモの姿をようやく捉えた時には、巨大な拳が眼前に向かって打ち下ろされて来る所だった。
もう既に防御も何も間に合わない距離に巨大な拳が迫っていたいたガイアスは、モロに拳の一撃を食らってしまい地面に叩き付けられると反動で数回バウンドし、大地を転がる様に移動したあとぐったりとしてピクリとも動かなくなった。
「やったー!」
「すごい、凄いよお姉さん」
「モモ、素敵ですシスターモモ!!」
周りに集まった人々や、共にボランティアに参加していたシスターたちからも驚きと称賛の声が次々と上がった。彼女に向かって祈る様な態度を見せる者たちまでいるほどだ。
ここに集まっていた誰もが、この横暴な騎士たちを相手に、か弱く見える一人の少女が勝利する事など想像する事も出来なかったからだ。
そんな中、一人の怒りに燃えた男の荒ぶる声がその場を凍り付かせた。
「ふざけるな貴様ら! 我々、愛國党に刃向かってタダで済むと思ってるのか!!」
最後の三人組のうちの一人、盾をシスターモモに砕かれた二人目に攻撃してきた男……マッドは頭から少量の血を流しながら、目を真っ赤にギラつかせて彼女を睨み付けた。そしてその腕にはあの犬人の少女が捕らえられていた。
「たすけて!」
「うるせぇ、暴れると殺すぞ」
なんとか騎士の拘束から逃れようと泣きながら抵抗する少女だが、首筋に剣を付きつけられると『ひっ』と小さな悲鳴をあげ、ポロポロと涙を流しながらも必死に声を出さぬように堪えていた。
「そんな小さな子供に……私は貴方を許しません」
シスターモモは拳を握りしめ歯を食い縛りながら、小さく言葉を吐き出した。
怒気を込めた強い意志のこもった口調ではあるが、モモはいたって冷静に現在の状況について思案を巡らせている。少しでいい、隙を作る事が出来れば反撃の糸口が掴める。そう思い小さく息を吸うと、チャンスを見逃さぬよういつでも動く事が出来る体制を作りつつ神経を研ぎ澄ませて行くのだった。
ーつづくー
勇者の証 召喚勇者ビートの冒険! 闇次 朗 @Yamiji-Rou
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