終章
「どういうことでござるかっ!」
拙者は怒号とともに、学園長室に飛び込んだ。
「がはははは! ヒロキ、ここは四階だぞ! よく窓ガラスを突き破って入ってこれたなッ!」
「ホントでござるよっ!」
制服にまとわりついたガラスの破片を振り落としながら、拙者は学園長へと叫んだ。
そしてこうも思う。
いろいろ疑ってすまなかったでござるフランクリン! 拙者が間違っておった! 拙者も怒りをエネルギーに変えて、窓から学園長室に入ってこれたでござるよっ!
突如として現れた拙者を、チャールズ先生は嗜める。
「まったく。ちゃんと扉から入出してくださいね、ヒロキくん」
「うう、すまんでござる。って、チャールズ先生、それはいいのでござる!」
「いいえ、よくありません」
「まったくもって先生の言う通りなのでござるが、ちょっと拙者の話を聞いてほしいでござるっ!」
「がはははは! ダメだなッ!」
「スパルタ過ぎ! 窓を突き破ってやってくるほどの拙者の情熱に対して、ちょっとスパルタ過ぎでござろうこの仕打ち! ほんの少し、少しでいいでござるから、聞いて欲しいのでござるよ! 先っぽだけでいいでござるからっ!」
「だからダメです。魅力試験の件で、問い合わせに来たのでしょう?」
チャールズ先生のその言葉に、拙者は身を乗り出した。
学園長室へと窓ガラスを突き破って拙者がやって来たのは、まさしくチャールズ先生が今口にした、魅力試験の件で問い合わせたいことがあったからだ。
「そう、その件でござる! 拙者が不合格だなんて、何かの間違いでござるよっ!」
ロロ殿が学年一位になるのは、女気による『魅力』アップを考えれば、あり得る結果だ。
アンジーが不合格だというのも、ロロ殿の件があるから当然。
しかし、アンジーに加え、拙者も不合格ときた。
「どうして拙者が不合格なのでござるか? 納得出来ないでござるよっ!」
そう叫んだ拙者に、チャールズ先生は聞き分けの悪い子を嗜めるように口を開いた。
「それは、あなたが服を脱いでしまったからですよ。ヒロキくん」
「なっ!」
拙者はチャールズ先生の言葉に、絶句した。
服はダンヒルの象徴だと考えていたが、まさかここまで神聖視していたとは思わなかった。
く……っ! 完全に観客を拙者の味方に付けたと思っていたのでござるが――
「服を脱ぐことがそこまで不評を買うとは……。拙者、見誤っていたでござるっ!」
「それは違いますよ、ヒロキくん」
拙者の言葉を受けて、チャールズ先生はこう答えた。
「ヒロキくんが不合格になったのは、単純にルール違反をしたからです」
……ん?
「……いやいや、チャールズ先生。拙者、ルール違反など犯しておらんでござるよ?」
「いいえ、していますよ。だって、服を脱いだじゃないですか」
「……は?」
チャールズ先生は、何を言っているのでござろう? それではまるで、服を脱ぐことそのものがルール違反と言っているようなものではござらんか。
拙者、服を脱ぐのがルール違反だなんて、そんなこと知ってるぅぅぅうううっ!
魅力試験で着ている服を脱いではならんと、拙者知ってる! ロロ殿から教えてもらっておるぅぅぅうううっ!
しかもそれを聞いて拙者『当たり前でござるな』とか言ってるぅぅぅうううっ!
干からびるんじゃないかと思うほどの冷や汗が、ガンガン拙者の背中から流れ落ちる。
ヤバいでござる。今思い出したでござるよ。あぁ、何で忘れていたのでござるか拙者! フランクリンでござるか? あの時脳内に忍び込んできたフランクリンの記憶とともに、拙者消し去っていたのでござるか?
「というわけで、ヒロキくんは不合格です」
拙者を突き放すようなチャールズ先生の無慈悲な言葉。
それでも拙者は、僅かな可能性を探るために、口を開いた。それはもう猫なで声で。
「い、いやぁ、チャールズ先生ぇ。拙者ぁ、留学生でござろうぅ? その辺のぉルールはぁ、拙者よくわかっておら、」
「ダメです」
「……し、しかしあの時、会場でルール説明を飛ばしたフランクリンにも責任が、」
「がはははは! ダメだなッ!」
「いやいや、先生たちも見ていたでござろう? 拙者が見せた漢気ぃ。あの神々しいほどの、」
「がはははは! 不合格ッ!」
「かーらーのー?」
「不合格です」
……。
…………。
…………えー。
いーやーだぁー。拙者いーやーだぁーっ!
やーだやーだぁ! 拙者あんなに頑張ったのに、いーやーだぁーっ!
そう叫んで、拙者が叩き割ったガラスの上で駄々っ子よろしく床を転がりまくろうと思ったタイミングで、
「失礼します」
ロロ殿が学園長室に入ってきた。
えええぇぇぇえええっ! な、何でこのタイミングでロロ殿がここに?
危うく拙者駄々っ子になってるところ、見られそうになったでござるよっ! 流石にあれを見られたら、拙者もダーバン文化の『腹切り』を披露せざるを得ないでござるよっ!
「がはははは! よく来たな、ロロッ!」
豪快に笑いながら、差も当然といった様子でロロ殿を出迎える学園長。そうか。わかったでござる。拙者がこうなることを予見して、学園長は事前にロロ殿を呼んでいたのでござるな?
はっ! だとすると、魅力試験後にチャールズ先生が拙者に帰るように言ったのは、拙者をあの場から遠ざけ、観客を味方に不合格を覆されないようにするため。その場で観客に、拙者が不合格であると合意させるためでござるなっ!
「ヒロキさんっ!」
学園長を睨みつけようとした拙者に、ロロ殿が抱きついてくる。
拙者がロロ殿を拒絶するわけがないので『最も魅力的な者が勝つ』は発動せず、拙者はロロ殿に抱きしめられ、身動きがとれなくなってしまう。
くっ! これでは身動き、身動きしたくないでござるっ!
「ありがとう、ヒロキさん! ヒロキさんのおかげで私、一位に、魅力試験、私が、一位に、なれるなんて、ヒロキさんが、いたから、私、一位、ヒロキさん、思って、なくて、でも、私、ヒロキさんが、不合格で、私、ヒロキさん、ヒロキさぁん……」
最後は泣きながら、ロロ殿は拙者に感謝の言葉を口にした。それを見た学園長が、満足そうに頷いている。
おのれ学園長ぉぉぉおおおっ! 全て計画通りということでござるかっ!
もし試験のやり直しになんてなれば、ロロ殿の一位も白紙に戻る可能性がある。とてもそんなこと、拙者、ロロ殿に言えんでござる!
これでは拙者、もう魅力試験の結果に口をはさめんでござるよっ!
拙者は心で血涙しながら、ロロ殿の頭を撫でた。
「だ、大丈夫でござるよ、ロロ殿。拙者、ロロ殿が喜んでくれたのなら、それでいいでござる。よかったでござるな。一位、おめでとう」
「ビ~ロ~ギ~ざぁ~んっ!」
何を言っているのかわからないほど号泣し始めたロロ殿の向こうに、仁王立ちで拙者を見つめる学園長と、拙者たちを見て笑っているチャールズ先生がいた。
目は口ほどにものを言う。二人は拙者に向かって、目でこう語りかけている。
『がはははは! その不利を覆してこそ、真の『絶対魅力者』だッ!』
『ヒロキくんは、何のために服を着るのですか?』
あぁ、もう! 何が『絶対魅力者』でござるか! 何がお洒落でござるか!
拙者には全く、もうこれっぽっちも理解出来んでござる!
そんなことのために拙者、服を着ているわけではござらんっ!
拙者が服を着るのは、仲間のため。
拙者は仲間のために服を着るのでござる。
でも、だからと言ってこんな目にあうのなら――
拙者は涙目になりながら、自分の目で学園長にこう訴えた。
もう服なんて、着ないでござるよっ!
着飾る服は、誰がため メグリくくる @megurikukuru
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