冬
「僕の名前は雪瀬杜都です」
彼女はこちらをじっと見ていたが、ふっと口を開いた。
「私の名前は高橋香江です」
僕は彼女をじっと見ていた。
何度も聞いた声、何度も見た顔、何度も話した相手。
初めて彼女の名前を知って聞く
その声は、その顔は、その君は。
なんだかとても新鮮で、見知った人物なのに知らない人物のような
とても不思議で恥ずかしくて落ち着かない気持ちがした。
僕よりも少し背の高い彼女は今どう思っているのだろう。
僕を見て、僕の顔を見て、僕の声を聞いて。
長い長い沈黙だった。こんな沈黙今までで初めてかも知れない。
沈黙していた彼女が口を開いた。
「なんだか、恥ずかしいね」
彼女も僕と同じことを考えていたんだと思うとひどく安心した。
彼女が彼女で無いような心地だったので、ここにやっと彼女が戻ってきたかのようなそんな気持ちになった。
「なんだか、恥ずかしいです」
言葉が見つからなくてオウム返しのようになる。
でもこれから何かが始まっていくような気がした。
「名前を知ってしまったら関係が壊れるんじゃないかって思ってた」
彼女が続ける。
「でも違った」
「これから始まるんだね」
彼女はまっすぐこちらをみて言った。
「えぇ、僕たちは一生友達です」
これからも僕たちは傷を舐めあって行くのだろう。
それにやすらぎを求めるのだろう。
それの何が悪いのだろう。
「いつまでも、友達でいようね」
一年 なむ @misaka9090
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